第6話 冒険者になろう
「おぉ~!やっと着いた!異世界初の町だ~!」
早朝に出発し昼過ぎには町を見つける事ができた。
町そのものは城壁に囲まれていて、その周りは畑と疎らに家があって、さながら小さな村の様だった。
町の南側には街道があり、その街道沿いに建物が何軒か建っている。
町の城門には入町を待つ列ができていて、馬車の列が1つと徒歩の列が2つに別れている、身なりからおそらく町の住人と外部の人なのだろう。
更に馬車に混ざって荷車を引いている四足歩行の恐竜もいた。
「少しばかり小さいけど、あれも恐竜か?馬の代わりみたいだな。」
馬車は荷物を調べているので時間がかかるみたいだが、町の住人らしい人達は門衛に身分証らしきものを見せてそのまま通過している。
そして外部の人達は身分証らしきものとお金を渡して入町している。
「あぁ、やっぱり身分証かな?それとお金が必要・・・か。どうするべきか。」
それから座ったまま暫くの間、どうするか考えていたら、背後から1人の男性が近づいてきた。
「おう!坊主!こんな所でどうした?」
考えに没頭していた為まったく気付かず慌てて振り返る、そこにいたのは鍬を肩に担いだ農夫の男性だった。
見た目は40代ぐらい、身長は180cm位の痩せ細った体型にブラウンの髪は短髪で瞳は黒、服装はほつれが目立つズボンによれよれの半袖シャツだ、印象は”ザ・農夫”だった。
そして”言語理解”がしっかり働いている事を確認できたので安心した。
「んぁ!ああ、こんにちは!いや~ようやく町に着いたものの、お金が無くてどうしようか?・・・と悩んでたんですよ。」
暗くならない程度に苦笑いして見せる、ここでこの男性からできるだけの情報を得れば、今後の対策が取れるかもしれない。
一般常識すら知らない状態なのでどれだけ考えても分からないからだ。
「はぁ?金がない?失くしたのか?」
「えぇ、まぁ・・・。」
視線を逸らしながら答えるが、もちろん失くしたのではなく元から持っていない。
「そりゃぁ災難だったな~。金が無きゃ町には入れんしな。・・・剣を持ってるが、坊主は冒険者か?」
「いえまだですが、これからなろうかと。」
「あぁ、そうかい。それなら城外にある冒険者ギルドに行けばいいさ。ほれあそこにあるぞ。そこで登録すれば素材の買取もしてくれるはずだ、あとは坊主の腕しだいだがな!」
そう言って農夫の男性が指さしたのは城門近くの街道沿いにある建物だった。
「そうなんですね!教えて頂きありがとう御座います。」
「ほへっ!?・・・もしかしてお前さんは貴族様だったりするのですか?」
「へ?いえ違いますよ?普通の平民です。」
「そう・・・なのか?あ、いや、なんかずいぶん丁寧な言葉を話すもんだから、てっきり貴族様かと思って・・・ちょっと焦ったぞ。」
「あぁ、すい・・・いや、すまんね。丁寧な方がいいかと思ってさ。・・・こんな感じで大丈夫かな?」
「う~ん、まだ固いが、良いんじゃないか?冒険者にゃ粗暴な奴が多いからな丁寧に喋ってると足元を見られるぞ。”金持ちのボンボンが!”ってな。」
「あっははは、そりゃ勘弁だわ。」
笑いながらも内心焦っていた。言葉使いまで気が回っていなかったからだ。
しかしこれで冒険者登録すればお金を稼ぐ事ができる、身分証については冒険者ギルドで聞けば良い。
「あっはははっ、そうだな。さてと、もうじき日も暮れる。坊主もさっさとギルドに行った方が良いぞ。」
「そうだな、そうするよ。ありがとな、助かったよ。じゃまたな!」
「おう!頑張れよ!」
それから小走りで教えられた街道沿いの建物に向かった。
そこには3つの建物が隣接していて、中央の建物の看板には”冒険者ギルド・ヴァーラ城外支部”と書かれていた、他は”解体所”と”宿泊所”だった。
「おぉう!かの有名な冒険者ギルドだ!う~ん、やっぱり入ったらテンプレがあるのかね?」
期待と不安を胸にギルドの入口のドアを開けた。
入った瞬間にいくつかの視線を感じたのだが直ぐに興味を失ったかのように視線が無くなった、ただし右側にいる受付らしき男性だけがこちらを見ている。
内部の作りは簡素で正面に紙が貼ってある掲示板があり右側に受付が3つある、ただ受付は全員男性だった。
そして左側には飲食できるスペースが設けられている。
そのまま視線を向けてくる受付に向かった。
「ようこそ、初めての方ですね?どのようなご用件でしょうか?」
(この受付は冒険者を全員覚えているのか?すごい・・・がちょっと怖いな。)
「あぁ、冒険者になろうと思ってね、ここで登録できると聞いたんだが?」
「はい、こちらでできますよ。ただしここでできるのは仮登録のみとなり、正式登録するには城内の冒険者ギルドに行ってもらう必要があります。そして正式登録には銀貨1枚が必要になりますのでご注意下さい。」
「分かった、それで仮登録の場合はいくら必要なんだ?」
「仮登録では料金は不要です、お金が無くとも冒険者になれるように無料になっています。冒険者ギルドは常に人材が不足していますので、入りやすいようにできるだけ窓口を広げているのです。」
「なるほどね。それじゃ登録を頼む。」
「はい、かしこまりました。登録にはこちらの用紙へ登録内容のご記入をお願いしておりますが、代筆は必要ですか?」
「ああ、大丈夫だ。」
記入用紙に名前・年齢・職(戦闘手法)を書き込んだ。
その後受付が取り出した箱に手を乗せると「カタッ」と音がして下の引き出しから名刺サイズの鉄の板が出てきた。
そこには先ほど記入した内容が書かれていたのだった。
その後冒険者ギルドの説明を聞いた。
ランクについては下から”F・E・D・C・B・A・S”の7段階に別れ、”F・E”がルーキー”D・C”がベテラン”B・A”がエース”S”がマスターと呼ばれる。
また初登録が仮登録の場合は”Fランク”で、初登録が正式登録の場合は”Eランク”となる。
これは税金による扱いの違いで、Fランクは無税だがEランクは登録料に税金が含まれるためランクが変わる、だが実力についての扱いは同じである。
依頼については常設依頼・個別依頼・指名依頼・強制依頼の4種類がある。
常設依頼はF・Eランクの依頼みのであり、受付で依頼を受注する必要は無い。
個別依頼には適正ランクが記載してあり自身のランクの1つ上までしか受けることができない。
掲示板の依頼票を剥がして受付で受注してから開始する事、依頼の完了は依頼者のサインもしくは依頼品をギルドに提出する必要がある。
指名依頼は依頼者が冒険者を指名して依頼する事を言う、またその場合は依頼料が割り増しになる。
強制依頼は町に危険がある場合に町の防衛に関して発令される場合がある、但し戦争への参加は冒険者個人の判断に委ねられる。
最後に初登録時には冒険者研修があるので受ける事を勧められた。
研修の内容はいくつかの薬草の見分け方や採取方法と討伐系依頼の証明部位などで、それほど時間はかからないらしい。
「研修って何時受けられるんだ?今日はもう日が暮れるが?」
ちらりと入り口側に目をやるが、本心は宿と食事の心配だった。
お金が無いので宿も食事も無理だ、まだ果物が2つ残ってるが、もっても明日の朝までにしかならない。
「えぇっと・・・そうですね、明日の朝から受ける事ができます。」
「そうか。それじゃ明日の朝ここに来れば良いのか?」
「はい。こちらに来ていただければ、その際に担当者を紹介します。」
「分かった、ああ、ついでに隣の宿泊所って1泊いくらなんだ?」
「宿泊所は個室が1泊銅貨1枚で、集団部屋が青銅貨5枚になります。どちらも食事が付きませんので向かい側の食堂をご利用下さい。」
「そっか、分かった、じゃあ、また明日よろしくな。」
「はい、お待ちしています。」
そうしてそのままギルドを出ると溜息をついた。
なんとか登録はできたが、今日も野宿でしかも食料もほぼ無し。
明日研修を受けたらすぐに依頼を受けないと、また森の中にでも行って食べられる物を探すはめになる。
やはり行き当たりばったりでは上手くいかないものだ。
「ご利用は計画的に・・・だな。・・・はぁ。」