第1話 ヘリスト伯爵家 王都邸
あと少しで王都の門に着く。
「あれ?何処に行くんだ?」
「ふふ、シロウさん。正面にあるのは平民用の門なんですよ、貴族用の門は2つだけで、東と西にあるんです。」
キーアの説明では、王都には6つの門があり、東西の2つの門は貴族専用でその他の北東・北西・南東・南西の4つの門は平民用なのだと。
今回は護衛として雇われている為このまま貴族用の門を通るが、それ以外の場合は平民用の門を通る事になる。
そして、貴族用の門は街道に直結しておらず、外堀に沿って南東門から東門に向かう必要がある。
「何か、不便じゃないか?文句を言う貴族がいそうだけど?」
「そうでも無いですよ。王都の中に入れば分かりますが、平民用の門から入ると入り組んでいて貴族街に行くには時間がかかるんです。ですが、東西の門から入れば貴族街に向けて真っすぐに道が繋がれていて行きやすいんです。」
「なるほどね、回り道するなら外の方が楽って事か。」
「そう言う事です。」
貴族用の門に到着すると、門衛に誰何された。
「所属と代表者の名を述べよ。」
「ヘリスト伯爵家が次女キスティ・ヘリスト様一行である。」
「了解した。職務故、検めさせてもらう。」
「承知。」
その後1人ずつ身分証を見せて確認をしていく。
「ふむ、冒険者か、護衛で良いのだな?」
「ああ、これが護衛の依頼書だ、それと、こっちの2人は俺の仲間で、これが証明書だ。」
「・・・、良し、確認した。」
「・・・結構しっかり確認するんだな。馬車に家紋があるから、もっと適当かと思ってた。」
「ふふ、これでも平民用の門よりは緩いんですよ。人しか見てませんからね。」
「そういや、馬車の中までは見なかったな。」
東門での検査が終り、王都に入った。
「おお、確かに真っすぐだ、この先に貴族街があるのか?」
「そうです、暫くしたらまた門があります、そこを越えると貴族街で王城のある北区に伯爵邸があります。」
貴族街は王都の中央にあり、周囲を水堀で囲われている。
貴族街の中は5つの区画に分かれていて、王城のある北中央区とその東西の北東区と北西区があり、伯爵以下の貴族達が住む南東区と南西区がある。
そして北区の中央には王城がある為に北東区と北西区は公爵家と侯爵家以外は屋敷を構える事はできない、ただし、ヘリスト伯爵家は迷宮伯と呼ばれる特殊な立場の為に北東区に屋敷がある。
そして、暫く馬車で進むと貴族街を囲う壁が見えてきた。
「・・・、貴族街って、ヘリスト町の倍ぐらいの広さがあるのか?」
「そうですね、そのくらいはあると思いますよ?ですが、その内の1/5は王城ですけどね。」
「・・・へぇ、つまり、王城だけでヘリストの町がほぼ埋まる、と。そりゃデカい訳だ。」
貴族街の門では、王都東門で渡された通行許可証を渡すだけで入れるらしい。
そして、貴族街に入りヘリスト伯爵家王都邸に到着すると、屋敷の玄関前に執事服を着た男性とメイド数名が待っていた。
「お待ちしておりました、キスティお嬢様。」
「出迎えご苦労様です、オルマンニ。」
「恐悦至極に存じます。」
「お義母様達は?」
「アートラ様方はお屋敷の中でお待ちですので、どうぞお入りください。」
「そうですか、分かりました。エンロン。」
「はい、お嬢様。」
「あとは頼みましたよ。」
「畏まりました。」
キスティはそう言うとパウラとメイドを連れて屋敷の中に入って行った。
「エンロン、久しぶりだな。」
「そうですね、オルマンニさん。」
「今回は客がいると聞いているが?」
「あぁ、客と言うか、護衛の冒険者の方達なのです。」
「冒険者?」
「ええ、ただ御当主様からは、賓客として扱うように言われています。」
「冒険者が賓客とは、何があった?」
「まあ、色々とありまして、ですが彼らの機嫌を損ねるような事はしない様にと言付けられています。」
「ふむ、・・・分かった、ではその様に。」
(・・・あの、聞こえてるんだけど?これ、わざと?)
「シロウ様、こちらが王都邸の筆頭執事であるオルマンニです。」
「ようこそ、ヘリスト家王都邸へ。筆頭執事を務めております、オルマンニで御座います、当屋敷にてご不明な点がありましたら何なりとお申し付けください。」
「あ、ああ、Cランク冒険者のシロウだ、それと、この2人は奴隷ではあるが、俺の大事な家族なんだ。」
「ヴァルマ、です。」
「スヴィ。」
「はい、シロウ様にヴァルマ様とスヴィ様ですね。宜しくお願い致します。」
「それで、俺たちはどうすれば良い?キスティさんには、滞在するように言われてるが。」
「ええ、伺っております、すぐにお部屋を用意致しますので少々お待ちください。エンロン、シロウ様達を応接室にお連れするように。」
「はい、畏まりました。」
エンロンの案内で屋敷の中に入ると応接室に通された。
「はぁ、挨拶だけでもう疲れたよ。」
「緊張したぞ。」「うん。」
「あぁ、そうだな、この屋敷もデカいしなぁ。此処に滞在するのも疲れそうだ。」
「そうか、此処に。」「ぅぅ。」
「う~ん。どこかの宿にしてもらおうか?」
「ダメですよ、シロウさん!」
「はぁ、やっぱりダメか。・・・けどその前に、いきなり扉を開けるのは淑女としてどうなんです?キスティさん。」
「うっ!?いえ、あの。」
2人と話していると、キスティがノックもせずにいきなり扉を開けて入って来たのだ、そして、その後ろに数人の男女がいたので挨拶をする為に立ち上がる。
「あらあら、そんな事では、まだ婚約者は決まりそうにありませんね。」
「お、お義母様!?」
「初めまして、わたくしはヘリスト家当主アルマス・ヘリストの妻でアートラ・ヘリストと申します宜しくお願い致しますね。」
「シロウです。こちらこそ、宜しくお願いします。」
応接室に入って来たのは、ヘリスト家の人達だった。
アートラ・ヘリストは当主の正妻で長男と次男の生みの親だそうだ、あとは長男のマルスティ、それと長男マルスティの妻でカティヤだ。
次男はエルネスと言うらしいが、現在は貴族学院の寄宿舎に入っているので不在との事だ。
キスティは側室キュオスティの娘で、既に嫁いでいるが姉のキルリアがいる。
それから、彼らにもキスティを助けた礼を言われた。
「しかし、その若さでCランクとはかなり腕が立つようだ。どうだい、私の部下にならないか?」
そう言って来たのは長男で次期当主のマルスティだ。
「・・・、いえ、申し訳ありませんが、誰かに仕官するつもりはありません。」
「そうか、残念だ、だが気が変わったら声をかけてくれよ。」
「はぁ。気が変わる事は無い。それと、・・・これでも26才なんだが。」
「・・・・・・、は?」
「いや、分かってる、分かっているが。・・・ちくしょう。」
「ぷっ、あ、あぁははっはっはぁ、あぁぁ。ふぅ、すまない。そんなつもりじゃ無かったんだが。くぅ~。」
この大笑いしているマルスティは、年齢が1つ上の27才で身長が190cmあり、身長が165cmの俺よりも25cmも高い。
「コホン、そ、それで、俺たちはどうすれば良い?護衛依頼は此処に到着した時点で終了しているが。」
「ぁあ、すまない。それで、今は頼む事は無いんだが、何かしら依頼する事があるかもしれないし、帰りの護衛も必要だからね。」
「どこかの宿に泊る、ではダメなのか?」
「う~ん。君たちには申し訳ないがこの屋敷に留まってもらう。道中での事もあるからね。」
「はぁ~、そうか、分かった。」
「シロウ。」「シロ。」
「すまんな、2人とも。」
「まあ、そんなに気にせず、我が家だと思って気楽に過ごしてくれ。」
「それができれば楽なんだがな。それと、王都での滞在期間は?」
「そうだなぁ、来月の始め、あと2週間程で舞踏会がある、それを終えても幾つかする事があるから1ヵ月かからない程度だね。」
「1ヵ月か。その間訓練できる場所はあるか?できれば使わせて欲しいのだが。」
「ああ、それなら屋敷の裏手に訓練所がある、そこを使ってくれて構わないよ。」
「そうか、分かった。あとは鍛冶師次第だな。」
「ん?鍛冶師?」
「それは聞いてなかったのか?俺たちは聖銀を扱える鍛冶師に依頼をする為に王都に来たんだ。」
「マルスティ様、その件に付きましては御当主様より私が言い使っておりますので、明日シロウ様を鍛冶師の所へご案内する予定です。」
「そうか、なら、その件はエンロンに任せる。」
「はい、畏まりました。」
「それなら、ついでにギルドにも行きたいのだが良いか?護衛依頼の完了報告をしたいんだ。」
「ええ、勿論です。」
その後暫く歓談した後、夕食を食べてから俺たちが泊る部屋に案内された。
「・・・・・・、これはちょっと。部屋を変えてもらうか。」
「シ、シロウ、ダメか?嫌か?」
「ダメ?」
「うっ、しかし、なぁ。」
「だ、だぃじよぅぶ、だ、ぞ。」
「ヴァルマ、そんなに緊張してて、大丈夫って。」
「ぅっ、けどぉ、さぁ。」
「・・・、はぁ~、分かったよ。じゃあ、おいで。」
「ぉぅ。」「うん。」
(俺の気にしすぎか?・・・まぁ、同じベッドで寝るだけだし。)




