第22話 アルマス・ヘリスト
今日は何をしようかと考えていたら、宿の人が客が訪れたと部屋に呼びに来た。
「客って、誰だ?」
今まで宿に客が来た事は無い、そもそも、此処に泊っている事を誰かに伝えた事も無い。
「まあ、会ってみれば分かるか。2人は部屋で待っててくれ。」
「おう。」「うん。」
誰かは分からないが、居場所を知られているなら会っておいた方が良い。
宿屋の1階に降りると、執事服を着た男性がこちらを見た。
(あぁ、分かった。キスティさんの関係者だな、これは。)
昨日の今日で執事服を着た男性が来るなど、彼女の関係者以外には考えられない。
「待たせた、俺がシロウだ、それで貴方は?」
「初めまして。私はヘリスト家で執事をしております、エンロンと申します。」
「それで、どんな要件が?」
「申し訳ありませんが、何処か。」
「・・・あぁ、俺の部屋で良いか?」
「助かります。」
そして執事のエンロンを連れて部屋に戻った。
「2人は?」
「ええ、構いません。昨日の事ですので。」
「そうか、それで?昨日の事はギルドを通して終りのはずだが?」
「それなのですが、キスティ様のお話を御当主様がお聞きになり、直接お礼を、と申されまして、シロウ様達を領主邸にお招きするように指示されたのです。」
「礼と言う事であれば不要だ。俺たちは依頼を受けた、ただそれだけだ。」
「・・・、お断りになると?」
「受ける理由が無いと言っている。そもそも、素性の知れない冒険者を領主邸に招く必要があるのか?」
「・・・、確かにそうですが、この件は御当主様が判断された事ですので。」
「・・・・・・はぁ~、何を隠している?」
「・・・それは。」
「そちらが話す気が無いのなら、話しはここまでだ。」
「・・・、分かりました。ですが、私も詳しくは聞いていないのです、ただ、シロウ様に依頼したい事がある、と。」
「依頼、ねぇ。別に隠す様な事じゃ無いと思うんだが?・・・それは、話しを聞いてから断る事はできるのか?」
「断るおつもりですか?」
「いや、俺達にも予定がある。今回の清算が済んだら王都に行く事にしているんだ。聖銀の武器を作って貰いにな。」
「・・・王都、ですか。でしたらお受けするのが宜しいかと。御当主様でしたら、王都の鍛冶師にも伝手がありますので、交渉してみては如何ですか?」
(・・・鍛冶師に伝手、受けた方が良い・・・か?それとも。)
王都がどの程度の広さで、鍛冶師がどれだけいるかも分からない、そこに”伝手”を持ち出されると、断りづらい。
「・・・ふぅ、分かった。伺わせて貰う。」
「賢明なご判断だと思います。」
「よく言う。」
「ええ、私も御当主様の指示を全う出来て、喜ばしい限りです。」
「・・・はぁ、それで、今すぐ行くのか?」
「はい、表に馬車をご用意してありますので。」
「2人は?」
「ご一緒にお願い致します。」
「分かった、ヴァルマ、スヴィ、行こうか。」
「おう。」「うん。」
そして3人で馬車に乗り領主邸へと向かった。
「それにしても、シロウ様。」
「ん?何だ?」
「いえ、彼女たちは奴隷ですよね?」
「・・・そうだが、何か問題でも?」
「いえ、問題なのはシロウ様の方です。」
「は?俺が?俺の何が問題なんだ?」
「その、言いづらいのですが、奴隷の2人に比べて、その、服装が。」
「あぁ、それか。」
この服はヴァーラで買った魚釣りスタイルの服で銀貨1枚だった。
ヴァルマの装備はマダム・ライラお手製の装備で、本来であれば金貨1枚はする。
スヴィの装備はマダム・ライラが紹介してくれたこの町の服屋で買った物で、本来の値段は聞いてないが銀貨4枚だった。
つまり奴隷の2人よりも主人の装備の方が安いのだ。
「まあ、男が着飾るより、女の子を着飾った方が楽しいだろ?」
「それはそうですが、他者からどの様に見られるかを考慮した方が宜しいかと、主人が侮られると揉め事の種になりますので。」
「・・・そうだな、忠告感謝する。王都に行く前に装備を整える事にするよ。」
「ええ、その方が宜しいでしょう。ああ、到着した様です。」
「ああ、分かった。」
執事のエンロンと話している内に、領主邸に到着した様だ。
「・・・デカいな。」
「・・・おぅ。」「うん。」
「シロウ様、こちらへ。」
「ああ、分かった。」
「武器は?」
「はい、こちらでお預かりいたします。」
「じゃあ、頼む。ああ、こいつは重鉄だから重いぞ、落とすなよ。」
「!?重鉄ですか。・・・分かりました。」
そして剣とナイフをエンロンに渡すと、重かったのだろう腕が少し下がった。
「オレはこの2本だ。」
「はい。」
更に2人も武器を渡すと顔を歪めた。
それから案内されたのは、調度品が少ない簡素な応接室で、そこにはメイドが2人佇んでいた。
「御当主様に伝えて参りますので、暫くここでお待ちください。」
「ああ、分かった。」
「ユリアナさん、あとはお願いしますね。」
「はい、畏まりました。」
「それでは、失礼いたします。」
そう言ってエンロンは部屋を出て行った。
「ヴァルマ、スヴィ、こっちにおいで。」
「え?シロウ、それは。」
「良いから、おいで。」
「ぉぅ。」「うん。」
2人はソファーの後ろに立っていたが、ソファーに座るように言った。
「どうぞ。」
そして、メイドの女性が3人に紅茶を入れてくれた。
1時間程紅茶の香りと味を楽しんでいると、数人がこちらに向かっている気配を感じて、ソファーから立ち上がると、扉を開けて4人の人物が入って来た。
「よう!待たせてすまんな。」
「いえ、良い時間を過ごさせて頂きましたよ。」
「・・・へぇ、そうか、まあ、座ってくれ。」
「ええ、それでは失礼します。」
「俺はこの家の当主でアルマス・ヘリストだ、ここの領主をしている。それでこっちは執事長のアルペリスだ、あとは知ってるだろうが、エンロンとキスティだ。」
「はい、存じています。私はシロウと申します。そして、この2人はヴァルマとスヴィです。」
「おう、そうか。それで、その気持ち悪い喋り方は何だ?」
「礼儀ですので。」
「ぶっ、あっはっは!・・・はぁ~、気にせんでも良いぞ、聞いてるこっちが気持ち悪い!」
「・・・、まぁ、アルマスさんがそう言うなら、そうさせて貰う。」
「そうだ、そのくらいでちょうど良い。」
「それで、今日はどんな用が?」
「まあ、待て、その前に。・・・娘を助けてくれて感謝する。」
そう言いうと、領主ではなく父親として頭を下げた。
「いや、会ったのは偶然だし、依頼でもあったからで。」
「偶然でも、依頼でも助けてくれた事に感謝してんだ。」
「・・・。分かった、その感謝は受け取っておく。」
「おうよ、そうしてくれ。嬢ちゃん達もな。」
「お、おぅ。」「うん。」
領主である事と、この豪快な態度に戸惑っているんだろう、2人の頭を撫でながらそんな風に思う。
「あ~、良いか?」
「ああ、すまん、それで、何故こんなに強引に俺達を呼んだんだ?」
「あぁ、エンロンから聞いたが、良く分かったな?」
「分かったと言うより、何故必要の無い事をするのか、それが引っかかてな。まぁ、鎌をかけたんだよ。」
「はっはっは、そうか、エンロンは引っかかったのか。」
「っ!・・・。申し訳ありません。」
「まあ、仕方なかろう、随分とこちらを試していた様だしな。」
「え!?それは一体。」
アルマスの言う通りだ、エンロンを引っかけたのもそうだが、ここに来て奴隷である2人をソファーに座らせた、これは2人を客としてこの屋敷の人間が対応するかどうかを観察していたのだ。
ここで2人を客と見做さないならば、条件が何であれ断るつもりでいた。
「まあ、エンロンもまだ未熟って事だ。」
「申し訳ありません、私の教育不足です。」
「アルペリス、これは経験の差だ。そこまで心配する事じゃない。」
「はい。」
「コホン、それで、呼ばれた要件を聞きたいのだが?」
「ほう、それは合格って事か?」
「あぁ、そう取られると申し訳ないんだが、確かに対応次第では話しを聞く前に断ろうと思っていた。すまん。」
「ははは、まあ、それは良いさ。それで要件なんだが・・・。」
アルマスの話しでは、来月に王城で開かれる舞踏会にキスティが参加する事が決まっていて、明後日には王都に向けて出立する予定になっている。
本来なら、護衛に騎士を付けるのだが、ダンジョンで3人が死亡した為、人員が不足してしまった。
そこで、キスティから話しを聞いて、不足した騎士の代わりに俺たちに依頼する事にしたらしい。
「そもそも、何でそんな大事な時期にダンジョンに潜ったんだ?」
「あぁ、それは、まあ。色々あるんだ。」
「・・・、複合スキル。」
「!?・・・。はぁ~、やりづれぇな、こんな冒険者に会った事ねぇぞ。」
「まあ、帝国の噂は冒険者なら誰でも知っている、だろ?」
「まあな、できれば舞踏会に行く時にキスティに持って行かせて、陛下に献上したかったんだが、見つからない事にはどうにもならんからな。」
「それでも、キスティさんがダンジョンに行く必要は無いだろ?それこそ冒険者に依頼すれば済む話しだ。」
「依頼はしてるが、未だに見つかってない。そしたら、こいつが勝手に行っちまってな。まあ、ぶっちゃけ、お転婆で困ってんだ。」
「お、お父様!?」
「ああ、なるほど。」
「シロウさん!?」
「ぷっ、そんなに慌てんなら、もう少し淑やかにしろ。」
「お父様!」
「まあ、そんな訳でダンジョンに行ったは良いが、目的の物は見つからんし、騎士は3人も死んじまうしで、困ってたんだよ。」
「だが、領主ともなれば懇意の冒険者がいるだろ?俺たちじゃなくとも。」
「そいつらに探させてんだよ。」
「あぁ、なるほどね。」
重要な案件だからこそ、懇意にしている冒険者に依頼したが発見されず、そこにキスティもダンジョンに潜って騎士を失い予定が崩れた。
「それじゃあ、依頼内容は王都までの護衛で良いんだな?」
「ああ、そうだ。それで報酬なんだが、1日銀貨6枚だ。王都までは馬車で最低10日はかかるから、金貨6枚以上にはなる。」
「1日銀貨6枚って高くないか?」
「いや、そうでもない、そもそも護衛依頼ってのは、依頼人にもよるが、1人1日銀貨1枚が相場だ、3人雇えば1日銀貨3枚で10日となれば金貨3枚になる。だが、これは商人の場合だ、貴族はそれ以上出すのが当たり前だからな。」
(なるほど、3人ね、これはヴァルマとスヴィの分も含めてって事か。)
「ああ、それと、アルマスさんは鍛冶師に伝手があると、エンロンさんから聞いたんだが、聖銀を扱える鍛冶師を紹介して貰えるだろうか?」
「ああ、言ってたな、良いぞ、場所は伝えておくから王都に着いたらエンロンに案内してもらえ。」
「助かる、王都は初めてだからな、場所も分からん。」
「まあ、王都に行く前に、まずはその恰好をどうにかしろ。」
「ああ、さっきエンロンさんにも言われたよ、帰ったら探してみる。」
「・・・そうだな。キスティ、これから連れてってやれ。」
「えっ、わたくしがですか?」
「お前はどうせ暇だろ?旅の支度はメイドがするんだから、今回の礼も兼ねて案内ぐらいしてやれ。」
「ええ、わかりました。」
「ああ、それと出立までお前達は此処に泊れ、細かい打合せもあるからな。ユリアナ、部屋を用意しておけ。」
「はい、畏まりました。」
「いや、だが。」
「ああ、言いたい事は分かるが面倒なんだよ、話し合いが必要になったらお前達の宿まで使いを出さなきゃならんだろ?それなら此処に泊めた方が楽だ。」
「・・・、分かった、それじゃあ、お言葉に甘えさせて貰う。」
「おうよ、それじゃ、俺は仕事に戻る。後はエンロンとキスティに任せる。」
「畏まりました。」「ええ、分かりました。」
こうして、ヘリスト家当主アルマス・ヘリストとの初顔合わせは終わった。




