第9話 気になったので
試験が終わりギルドから宿屋に向かう。
「・・・なぁ、ヴァルマ。俺たちが盗賊の討伐をしている時に、”静寂の守り”以外の人がいなかったか?」
「ん?あの6人だけだろ?他に誰かいたのか?」
(う~ん、ヴァルマも気付いて無かったのか。ギルドの監視とかだったならまだ良いんだが、離れる時に山の方へ行ったんだよな。)
「う~ん・・・。どうするか。」
「どうしたんだ?」
「いや、討伐が終わった時に俺たち試験の関係者以外がいたんだが、暫くしたら山に向かって離れて行ったんだよ。他の人も気付いて無いみたいだったから、ちょっと気になってな。」
「・・・シロウはどうしたいんだ?」
「どうしたい・・・か、はっきりしないのはどうにもな。」
「なら、見に行くか?その方がすっきりするぞ。」
「・・・それもそうだな、じゃあ、行ってみるか。盗賊の残りなら始末しておいた方が良いしな。」
「おお~、行こう!」
「でも、まあ、それは明日だ、今日はもう遅いから宿に行こう。」
「メシだ~。」
ここ数日は試験での移動中は保存食だったから、ヴァルマも普通の食事に飢えていたのだろう。
▽▽▽
次の日から試験で討伐を行った洞窟を目指す、今回は2人だけで移動するので仙境が使えて移動も野営も楽だ。
そして2日かけて昇格試験が行われた盗賊の洞窟まで来たが、反応は無い。
「う~ん、やっぱり、ここら辺にいる分けじゃないのか?」
「逃げたんじゃないか?もう4日経ってるし。」
「そうかもな、まあ、一応明日は逃げて行った方を探して、それで見つからなければ帰ろう。」
「おう。」
▽▽▽
朝から気配が去って行った方向に向かうが、相変わらず気配も無く見つからない。
「ん?ヴァルマ、何か見つけたのか?」
ヴァルマは何やら地面を見ていた。
「なぁ、これ足跡じゃ無いか?つま先しか無いけど靴の跡だと思うぞ。」
「ああ、確かに靴の跡だな、・・・悪鬼種って、靴は履いてないよな?」
「そんなの見た事がないぞ。」
「だよなぁ。まぁ、この足跡があの時の気配の正体なのかは分からないが、一先ずこれを追ってみよう。」
「おう!」
それから暫く足跡を追いながら周辺を捜索すると気配を感じた。
「見つけた、・・・あの時と同じ気配だ、向こうの山の方だ。」
「う~ん、何も感じないぞ?」
「ヴァルマにも気付かれない程に隠れるのが上手いんだな。」
「むぅ、悔しい。」
ヴァルマはどうやら対抗心が刺激されるらしい、誰に対してかは分からないが。
「はは、悔しければまた頑張れば良い。さあ、行くぞ。」
「おう。」
足跡が向かっている方向と気配のする方向が一致している。
そして山の方へ慎重に向かって行くと気配が消えた。
「・・・気配が消えた?」
「シロウにも分からないのか?」
「う~ん、ダメだ分からない。・・・もしかして、気付かれたのか?」
「・・・感知のスキル?」
「まあ、こんな山の中にいるんだ、持っててもおかしくはないな。」
「じゃあ、こっちも気配を消すか?」
「いや、ヴァルマはともかく、俺が隠形を使ったらヴァルマも俺を認識できなくなるぞ?」
「うっ、確かに。・・・それはちょっと。」
「良いじゃないか、わざわざ気配を消さなくても、このまま気配が消えた場所まで行けば良い。」
「おう。」
それから辿り着いた場所には。
「シロウ、・・・もしかして、ここか?」
「・・・そうだな。ずいぶんと狭いが洞窟の入口だよな?・・・なるほど、ここに入ったから気配が消えたのか。」
「シロウでも入れそうだけど、オレが1人で行こうか?」
「いや、俺も行く。何があるか分からないのに、1人でなんて行かせられない。」
「おぅ、そうか。」
「それじゃ、俺が先に入るぞ。」
「おう。」
狭い洞窟の入口をどうにか中に入ると開けた場所に出た。
そこには、山の中で拾ったであろう果物や木の実など食べ物の他にも、布やナイフなども置いてある。
「・・・あそこだな。」
「・・・。」
何も言わずにヴァルマはナイフを抜いて、戦闘態勢を整える。
暫く待つと向こうから声をかけて来た。
「だれ?」
聞こえて来たのは子供の声だ、その声を聞きヴァルマにナイフを仕舞わせた。
「あぁ、ちょっと聞きたい事があってな。」
「・・・なに?」
「できれば顔を合わせて話しをしたいんだが、ダメか?」
「や!」
「そ、そうか、分かった。じゃあ、そのままで良いから聞かせてくれ。・・・何日か前に盗賊のいた洞窟の近くに行かなかったか?」
「・・・行った。」
「そうか、何か用があったのか?」
「・・・。」
「まぁ、答えたくなければ良いさ、それで君は何でこんな所にいるんだ?」
「・・・お家、無い。」
「無い?帰る家が無いって事か?親は?」
「いない。」
「そう、なのか、・・・。」
(帰る家が無い、親もいない・・・孤児って事か?でも、それじゃ、何でこんな山の洞窟にいるんだ?)
「う~ん。君は・・・あぁ、そう言えばまだ名乗って無かったな、俺はシロウで隣りにいるのはヴァルマだ。良かったら君の名前を聞かせてくれるか?」
「・・・スヴィ。」
「そうか、スヴィか、それで、スヴィは何時から此処にいるんだ?」
「・・・3年?」
(3年!?そんなに長く此処に住んでるのか?・・・この子なら1人でも町に行けそうな気がするんだが。一体何故?)
「スヴィは町に行かないのか?此処には誰もいないだろ?」
「や、人、嫌い。」
「そうか、人が・・・嫌いか。それじゃスヴィは、これからもずっと1人で、此処に住むのか?」
「・・・。」
(う~ん、良く分からん。人を嫌いになる理由があるんだろうけど。)
スヴィが何故此処に住んでいて何故人が嫌いなのか、そんな事を考えていると、すすり泣く声が聞こえた。
「・・・スヴィ、一緒に町に行かないか?1人は・・・寂しいだろ?」
「・・・おかぁさん。」
それから、暫くスヴィは声を上げて母親を思い出して泣いていた。
「スヴィ、どうする?」
「・・・・・・シロは、イジメない?」
「シロって、・・・イジメたりしないよ。ヴァルマも大丈夫だ。な?」
「おう、そんな事はしないぞ。」
「・・・・・・分かった。」
それから、ゆっくりおずおずとスヴィが岩陰から出て来たが、その姿に驚いた。
顔の左半分から左腕にかけて酷い火傷の痕が残っている。
更に彼女は猫の獣人族で、そして奴隷だった。
(獣人族で奴隷に酷い火傷の痕、そしてイジメ・・・か。)
「そうか、それで人が嫌いか。」
スヴィは一瞬”ビクッ”としてから、こちらを窺うように見ている。
「左腕は動かせないのか?」
先ほどから、左腕を曲げた状態でお腹に添えて右手で押さえている。
「少し動く。」
そう言って左腕を動かして見せるが、真っすぐに伸ばしたりはできない様だ。
ヴァルマもその姿を見て思う所があるのだろう、俺を見ている。
(多分、スヴィの腕も治せるとは思うが・・・。)
「スヴィ、君の主人はどうしたんだ?」
「・・・ベア、食べられた。」
(ベアに食べられたって事は、主人がいない野良奴隷なのか。)
「そうか、そうなると町に行くには俺と契約するか、奴隷商に・・・。」
「シロウ!」
「ん?なんだ?」
「オレが話す。・・・ちょっと待っててくれ。」
「あ、あぁ、分かった、頼むよ。」
「おう。」
そう言うと、ヴァルマはスヴィを連れて離れて行った。
(離れて行ったって事は、聞かれたくないのか?まぁ、聞くのも野暮か、ここは女の子同士に任せよう。)
2人が話し始めたので何となく洞窟の中を見ると、これまでに集めた物や食べたであろう動物の骨などもある。
奥の方には、寝床にしている枯れ草の山があって、そこには布が敷いてある。
(此処に3年・・・か。今まであの腕でどうやって生きて来たんだ?)
それから暫く2人は話しをしていたが、終わった様で戻って来た。
(・・・なんか、2人とも目が赤くなってる。)
「シロウ、スヴィも契約してやってくれないか?」
「いや、それは構わないんだが、スヴィはそれで良いのか?」
「うん。」
「そうか、・・・ヴァルマ、腕の話はしたのか?」
「してない、それは秘密だろ?」
「そうだな、スヴィは秘密を守れるか?」
「秘密?」
「ああ、俺にはちょっと人には言えない秘密が幾つかあってな、スヴィが秘密を守れるか確認しておきたいんだ。」
「悪い事?」
「いや、悪い事じゃ無いんだ。」
「なら、言わない。」
「そうか、・・・ヴァルマ仙境に入るぞ。」
「良いのか?まだ契約してないぞ?」
「このまま町に連れて行きたくない。」
「シロウがそれで良いなら、オレは良いぞ。」
そして仙境を発動すると、スヴィは一瞬で逃げた。
「スヴィ、大丈夫だ。これは俺のスキルだ。戻っておいで。」
岩陰に隠れてしまったスヴィが顔をだして、じっと見ている。
(・・・なんだか本当の猫みたいで可愛いな。)
それからスヴィはゆっくりと警戒しながら戻って来た。
「ヴァルマ、先に入ってくれるか?俺はスヴィと一緒に入る。」
「おう、スヴィ、先に行ってるぞ。」
そう言ってヴァルマが仙境に入ると、スヴィはびっくりして影の扉の反対側を見に行った。
「いない。」
「あぁ、スヴィ、この黒いのは入口なんだ、これに触れると中に入れる。一緒に入ろう。」
そう言って手を出すと、おずおずと手を握った。
「良し、じゃあ行くぞ。」
「うん。」
そうして俺たちは仙境に入って行った。




