閑話 ヴァルマの思い
「・・・ダンジョンか。大丈夫かな?ちゃんとシロウの役に立てるかな?」
初めてシロウに会った時は、オレの事を見下してるんだと思った。
大して歳の違わない男に、だからむかついた。
咄嗟に出たのが”連れていけ”だったのはちょっと勢いが過ぎた。
でも、このまま娼館に買われるのは嫌だったんだ。
それなら冒険者の方がまだマシだ。
こいつがどんな奴かも分からないし死ぬかもしれない。
それでも良いと思った、もう奴隷から解放されないのなら死んでも良いと。
「あれは諦めだったのかもな。」
それからシロウは食事を食べさせてくれた、奴隷だから奴隷商で出されてた残飯みたいなのだと思ってたのに、それですらスラムよりはマシだったからな。
あんなにお腹一杯になったのは初めてだ。
でも、お腹がなったのは恥ずかしかった。
食堂でシロウがダンジョンに行くって言った、その時に思ったんだ、オレはそこで死ぬんだろうって。
「それまでは幸せでいられるかなって、ちょっとは思えたな。」
宿屋に戻ってベッドのある部屋に入った時は、今日ここでこいつに抱かれるんだと覚悟を決めた。
娼婦みたいに誰彼構わずって分けじゃないだけマシだ、って。
それから部屋で昔の事を話した。
もう気にしてないつもりだったんだけど、いつの間にか泣いてた、オレだってもうすぐ大人なんだと思ってたのに。
子供みたいにシロウに抱きついて泣いてしまった。
「・・・優しくて、暖かかった。」
母親の事を言われた時は無神経な奴だと怒ったけど、シロウは知らないんだ、言ってないから。
あの時、娼館で母親が客の男から金を嬉しそうに貰っていた事を。
「はは、八つ当たりだ、かっこ悪いな。」
朝起きた時にそう言えばシロウは襲って来なかったな、って思ったな。
自分にはそんな価値すら無いんだろうかと悔しいからちょっとからかってみた。
でも、シロウがあんまり顔を赤くして否定するからそうでも無いのかな?
「シロウなら・・・。」
そのあと食事をしてから、オレの装備を探しに町に出たんだ。
最初の店で店員に嫌な顔をされたけど仕方がない。
オレは奴隷だし片腕だし。
でもシロウは怒ってくれたオレの為に、少し嬉しかった。
他の店でも同じような反応だったけど、その度にシロウが怒ってくれるのがちょっと嬉しかった。
「シロウが怒ってるのに、・・・嬉しいって。」
その内に行く店も少なくなって、悩んでた時に見つけたのが、変な色の店だった、ライラさんの店だ。
なんかシロウの様子が変だけど、ライラさんは良い人だったよ?
いっぱい色んな服を着て嬉しくて、オレも女の子なんだって思えた。
服を着替えるとシロウが”可愛い”って言ってくれる。
最後にはちゃんと戦闘用の服をライラさんが持ってきてくれた。
これもシロウが可愛いって言ってくれた。
でも高かった、銀貨6枚で本当は金貨1枚以上もするんだって、ちょっと怖い。
でもまた可愛いって言ってくれた。
恥ずかしくて下を向いた、顔が赤くなって無かったかな?
「あんなに嬉しくて楽しいのも初めてだった。幸せだった。」
そのあとは武器屋に行った。
シロウとお店の人が話をしてたんだけど、お店の中を見てたらシロウの剣みたいな形のナイフがあった。
シロウの剣を持たせてもらったら、重すぎて全然持てなかった。
あんな重い剣を片手で持てるシロウはすごい。
オレには持てないけど、シロウみたいなのが良いなと思ってそのナイフを見てた。
そしたらシロウはそれで良いって。
その時は何で2本?って思ったけど腕の事を考えて2本だったんだ。
「少しでもシロウに近づきたかったんだ。だからあのナイフにした。でもそれをシロウには言わない。・・・流石に恥ずかしい。」
次の日に町を出た。
生まれた町を離れる、もう母親には会えないだろう。
でも良いんだ、オレを売る様なのは母親じゃない・・・て思うけど、やっぱり少し寂しい。
それまではちゃんと母親だったから。
「さようなら。おかあさん。元気でね。」
それから街道を歩いてたんだけど、シロウが”森の方へ行くぞ”って言った。
もしかして戦うのかな?って思ったんだけど、お話だった。
シロウの話しは難しかった、この世界とか別の世界とか言われても分かんないよ。
でもシロウが人族じゃなくて真人族って聞いたことも無い種族なんだって。
でも、シロウはやっぱりシロウだよ?
緊張してたのかな?肩の力が抜けたみたいだ。あ!笑った。
「ふふ、笑ったところを見たのは初めてだった。」
仙境ってスキルは良く分からないけど、いつでもお家に帰れるの嬉しい。
シロウが”ヴァルマにしか頼めない事”って言った。
「頼られるのなんて初めてだったな。」
そのあとだ。腕が戻ったんだよ。失った腕が。
もう本当に嬉しくて、嬉しくて泣いた。
なんかシロウに会ってから泣いてばっかりだ。
悲しくて泣いて、嬉しくて泣いて。
でもシロウは恥ずかしい事じゃ無いって。
「あんなに泣くなんて、もう子供じゃないのに。」
これって運命なのかな?
この人とずっと一緒にいられるかな?
可愛いって言ってくれる、撫でてくれる。
「シロウに撫でられるのは恥ずかしい・・・けど、嬉しい。」
ここに来て3ヵ月は大変だった。
毎日とにかく食べて、それから走って動いて訓練する。
シロウは木をいっぱい切ったり、山の方に行って石もいっぱい見つけて楽しそうにしてた。
魔物と戦うのは本当は怖かった。
でも、シロウと一緒にいるには必要な事だし、役に立ちたい。
「・・・シロウの役に立てるかな?」
昨日初めてシロウの歳を知ったんだけど、26才ってちょっと見えない。
シロウを慰めようと思ったら、つい口に出ちゃった。
「一生ついてる・・・か。そうだと良いな。」
あぁ幸せってこう言う事なんだ。
あぁオレはシロウが好きなんだな。
でも、間違えちゃいけない。・・・オレは奴隷なんだから。
「・・・それでも。・・・いつか。」
「お~い。ヴァルマ何処だ?出立するぞ!」
あぁ、シロウが呼んでる。・・・オレの名前を。
「おう!分かった、今いくぞ!」
昔みたいな喋り方は、・・・まだしない。
いつも読んで頂きありがとう御座います。
これにて第1章「不如意なる人生」は終章となります。
-今後について-
この続きについては、書くべきなのかこのまま終わらせるべきなのか、判断に迷う部分もあるので、この話はここで一旦完結としておこうと思います。
続きが書ければまた投稿すると思いますので、その際には宜しくお願いします。




