第20話 商業都市ラヴィネン
朝、宿屋を出ると、昨日の夕食時に話しかけて来た冒険者のパーティがいた。
「よう!おはようさん!これから出立か?」
「おはよう、そうだなこれからだ。そっちはこれからヴァーラだろ?」
「おうよ!つっても、今回は商隊の護衛だし、ここまで来れば、それ程の危険は無いさ。」
「まぁ、そうだな、俺もここまで襲われたりしなかったしな。」
(まぁ、あいつらは別だが。)
「だろうな、だがこの先は気をつけろよ、ラヴィネンの近くになると悪鬼種も出るし盗賊とかも出るからな!」
「あぁ、悪鬼種か、実はまだ見た事が無いんだよな、強いのか?」
「う~ん。ゴブリンはそんなに強くは無いが、武器を使うし群れるから厄介なとこもある。オークやオーガは強いぞ。」
「なるほど、分かった。まぁ気を付けるさ。じゃあ、そろそろ行くよ。元気でな!」
「おう!そっちもな!」
そして村を出て暫く街道を進んでから、人目が無くなると街道を外れて走り出す。
森の中に出たり入ったりして資材や食材を適度に集めながら移動する。
ダンジョンのあるへリストに着くまでにできれば仙境に家を建てたい、そうなればダンジョン内で野営ではなく、家で休む事ができるかもしれないからだ。
ただ石材はともかく木材と鉄材が問題だ、森だからと言って幾らでも木を切って良い訳では無いし、そもそも剣で切る分けにはいかない、”切れないか?”と問われれば、できるのかもしれないがそのための剣ではない。
そして鉄材に至っては鉱山か町などで買うしかない、ダンジョンでも発見はされるが、それは少量で宝箱から得られる程度だ。
更には購入資金の問題もある、こうした理由からまだ先は長そうである。
「・・・はぁ、先は長いなぁ。まぁ焦っても仕方ない。地道に行こう。」
その後、もう1つの村には特に行く必要も無かったので、そのまま通過して目的の町ラヴィネンへ向かった。
▽▽▽
村を出立してから5日、資材を回収しながら森の中を進んでいると、周辺感知に今まで感じた事が無い反応があった。
「ん?・・・血の匂いがする。」
反応のあった場所に向かうと血の匂いがした、誰かが戦っているらしい。
劣勢であれば助力する必要があるかもしれないので、一応見に行く事にした。
「取り合えず、どの程度の効果があるか分からないが使っておくか。”隠形”!」
スキル真人の隠形を使って近づき様子を窺う。
(あれ?あの人たちって・・・。なんでこんな森の中に?)
そこにいたのは以前ヴァーラの冒険者ギルドで声をかけて来た女性冒険者イェンナのパーティだ、彼女達はゴブリンと戦闘している。
「グキャ、ギャ!」
「イェンナ!左から来るよ!」
「おっけ~!任せて!そりゃあ!」
大柄な女性が大盾を持って壁役になり、弓士の女性を守っている。
そしてイェンナが1体ずつ相手をして、イェンナに近づく他のゴブリンに弓士の女性が弓を射ている。
「ギャッ、ギャラ!?」
「レ~タぁ!あと1体だよ!おねが~い。」
「任せて!はっ!」
弓士の女性はレータと言うらしい、彼女が弓で止めを刺して戦闘は終了した。
「ふぅ、終わったね~。ごくろうさま~。」
「はぁ、まったく、嫌になるわね。・・・ちょっとお花摘みに来ただけなのに!」
「ふふふ、でも~人前じゃぁできないもんね~。」
(おおぅ!こりゃまずい、すぐに退散せねば。見つかったら変態扱いされてしまう。)
危険は無かったが両者共に尊厳の危機だった。
そして早急にその場を離れて先へ進んだ。
「しかし、彼女達もヴァーラを出たのか。もしかしてダンジョン目当てか?・・・そう言えば、あの大盾の彼女は一言も喋らなかったな。まぁ、いいけど。」
彼女達が何故ヴァーラを出たのかは知らないし、そもそも興味がある訳では無いので忘れる事にした。
それから暫く隠形を使いながら森の中を移動していると、ゴブリンを見つけた。
(・・・3体か、他にはいないみたいだ。まずは近づいて隠形の能力を確認するか。)
ゆっくりと近づいてみるが、こちらには気が付いていない。
何処まで近づけるか試していたのだが、目の前に来ても気付かれていない。
(これはかなり性能が良いな、目の前にいて気付かないとは。)
結局は触れるまで気付かれなかったが、取り合えず”触れば気付かれる”と知ったので成果はあった。
その時ゴブリンとの戦闘になったが、さして強くもないので斬り捨てて終わった。
「悪鬼種の討伐証明部位って”角”だったよな?一応取っておくか。あとは魔石の回収だな。」
ゴブリンの討伐は1体が青銅貨2枚で魔石は青銅貨1枚になる、合わせて青銅貨3枚だ。
しかし、シロウは魔石を動力回収ボックスに入れるので1体が青銅貨2枚になる。
「この動力ってどのぐらい必要なんだろ?まぁ、片っ端からだな。」
▽▽▽
ゴブリンとの初戦闘から2日、今は街道を歩いている、日が暮れる前には町に着く予定だ。
次の町はヴァーラとへリストとの中間にある町で、西に行けば王都エルクがあり、東に行けば湖の町カールランピがある。
交通の要所になっている町で商業が盛んな町でもある。
「お!もうすぐだな。」
商業都市ラヴィネンは四角形の城郭都市で東西南北それぞれに城門がある。
ここには仙境に使う資材の調達も兼ねて数日間は滞在する予定だ。
「よし!次!」
門衛に呼ばれたので入城の手続きをする。
「Dランク冒険者だ、へリストに向かう途中でここに寄った。数日間は滞在の予定だ。」
ギルドカードを出しながら門衛に伝える。
「Dランク?・・・ん?、コホン、あ、あぁ分かった。入城料は銅貨1枚だ。」
(はぁ・・・ここでも、だな。もういっそ子供で通すか?)
ここでも水晶で確認をして問題が無かったので、門衛に銅貨1枚を渡す。
「これは入城証明の木札だ、出入りする時は忘れるなよ。よし、通っていいぞ。」
ギルドカードと共に木札を渡された、この木札は入城時の鑑定を済ませた証明書であり、この木札を持っていれば鑑定の必要が無く入城料が半額になる。
「おぉ、都市だよ!人も馬車も多いが、3階以上の建物がかなりの数あるな。」
ここではギルドの仕事を受ける気が無いので、冒険者ギルドには行かず、町中にある宿屋に泊る。
「いらっしゃい、1人かい?」
「ああ、そうだ。3泊したいんだが空いてるか?」
「空いてるよ、1人部屋の1泊が銅貨2枚で、食事は朝と夕方の2回で銅貨1枚だ、それが3泊で銅貨9枚になるよ。」
「分かった、それで頼む。」
宿屋の女将に銅貨を渡して、鍵を受け取ると部屋に向かった。
部屋の中に入ると4畳程の広さでベッドに机と椅子がある。
「村の宿屋より高いが、まぁ、こんなものかな?」
部屋に荷物を置いたら食事だ、1階の食堂に降りると夕食が始まったばかりで客はまだ少ない。
「はいよ。今日のメインはランページカウのステーキだよ。」
「ランページカウ?」
「おや?知らないのかい?この町の東の平原にいる暴れ牛さね。うまいよ!」
「へぇ、そうなのか、ヴァーラから来たから知らなかったよ。」
「あぁ、ヴァーラはリザードばっかりだからね、知らなくても仕方ないね。」
「だな、じゃあ、いただきます。」
町が変われば食材も変わる、カウ種は大人しい種が多く家畜向きなのだが、ランページカウは狂暴で人が飼う事はできない、ただその肉は柔らかく油が乗っていてステーキには最適だ。
「おぉう、・・・・・・んっ・・・うまい!」
ボアの様な特有の匂いが無い、噛むと肉汁が滴り口内でとろける柔らかさだ。
ソースは野菜と果実をじっくり煮込んで溶かしたソースみたいだ、肉と野菜と果物のうま味がよく出ている。
他にも柔らかいパンと、芋ときのこのスープに、野菜炒めが付いている。
「はぁ、・・・食事は良いなぁ、うまいと幸せになれる。」
暫く余韻に浸って幸せを満喫していた。
本当はお酒も飲みたいが今は我慢だ、酔って深く寝てしまうと、何かあった時に対処できない可能性もある。
心配しすぎかもしれないが、いつ危険が迫るか分からない状態では安易にお酒も飲めない。
そして食事が済んで部屋に戻る。
「さて、食事はうまかったが、目先の目標である資材だな明日は・・・何処で買えるんだ?・・・仕方ないまた散策から始めよう。」




