第10話 バカと決闘
昨日のパーヴォとの話をタルヴォの手下が聞いていたのは知っていた、むしろ聞かせるつもりでギルドの食堂で話をしていたのだ。
それをタルヴォが聞いてどう出るかを待っていたのだが、まさか決闘にするとは思わなかった。
何せ勧誘を断っただけで殴りかかって来るような奴だ、森で襲って来る可能性を考えてわざわざ毎日同じ場所を通って襲う場所を決めやすくしてやったにも関わらず、まさか一番あり得無い決闘にするとは流石に予想外だった。
「はぁ!?バカか?お前は!何故わざわざお前なんぞと決闘しなけりゃならん?」
「はん!負けるのが怖いのか?はっはっはっ、だったら潔く俺様の手下になれ!」
昨日投飛ばされたのに、何故タルヴォはこんなにも強気なのだろうか、奴の手下達も”ニヤニヤ”と笑いながらこちらを見ている。
正直気味が悪い、何か策でもあるのか、それとも決闘すれば勝てると思っているのか。
「はぁ、分かった。決闘すれば良いのか?それで条件と決闘方法は?」
「決闘方法?そんなもん!真剣勝負に決まってるだろうが!立会人はここにいる奴らだ!」
「・・・ふぅ。バ!カ!か!お前は!立会人がお前の手下でどうすんだ!しかも、お前が負けたら何を差し出すんだ!しっかり答えろ!」
「ぐぬぁ!てめぇ~!さっきから黙って聞いてりゃぁ、この俺様に向かって”バカバカ”と、本当に死にてぇらしいな!!」
さっさと済ませて、仕事をに行きたいのだが話しが進まない、そうこうしていると人垣をかき分けて1人の男が出てきた。
「それでは私が立会人をしましょう。」
そう言って出てきたのは、冒険者ギルドの受付の男性だった。
この男性は冒険者登録をしてくれたギルドの受付で名前をエーリクと言う、身長180cmの細身で、ブラウンの髪を3/7分けにしていて視線は鋭く瞳の色は青い。
「エーリク、てめぇ!」
「おや?何かまずかったでしょうか?流石に立会人が貴方のお仲間では公平性に欠けるでしょう?」
タルヴォはドスの効いた声でエーリクに言うが、当のエーリクは歯牙にもかけず淡々と返した。
「ふん!まあ良い、どうせ勝つのは俺様だ!始めるぞ!」
そう言ってタルヴォは背中にある剣を構えた。
タルヴォの武器は大重剣と言って、大剣の幅を広くし重量を増したタイプの大剣で、その重量は長剣の4倍もある、剣の中では最大で最重だ。
「はぁ、おい!さっき言った事をもう忘れたのか?”お前が負けたら何を差し出すんだ?”と言ったよな?」
「は!?この俺様が負ける分けがないだろうが!・・・まぁ、良いだろう!てめぇが勝ったら俺様が手下になってやる!勝てれば、だがな!がっははは!」
「はぁ!?お前なんぞいるか!まともな条件を出せ!」
「まぁまぁシロウさん、ここは私が立会人として話を纏めましょう。」
エーリクは胸に右手を当て慇懃に言うと、タルヴォにその条件ではダメだと、他の条件を提示した。
その結果タルヴォが勝ったら俺がパーティに加わる事、そして俺が勝った場合は金貨1枚を渡す事に決まった。
金貨1枚は高額ではあるが1ヵ月で稼ぐ事ができる金額なので割に合わない、しかしこれ以上付き合っていても時間の無駄なので合意した。
「はん!まったく、勝った時の条件などと無駄な事を!FランクがDランクに勝てる分けが無いだろうが!」
「まぁまぁ、タルヴォさん、条件とは双方の欲しい物を賭けるものですよ?」
ようやく条件が整ったが、正直ここまで話が通じないと思わなかったので疲れてしまい、こんな事なら襲撃された方が楽だったかもしれないと思った。
「始めるぞ!・・・まあ、俺様の一方的なお仕置きだがな!がっはっはっは!」
(相変わらず強気だな、手下連中も未だに”ニヤニヤ”してるし、こりゃ何か仕掛けてくるんだろうな。)
「あぁ、良いぞ!さっさと終わらせてやる!」
「決闘は真剣での勝負ですが、極力致命傷になる攻撃はしない事、勝敗は相手が戦えなくなるか、降参するまで行います。また降参した後に攻撃する事も禁止です。それでは、双方宜しいですか?・・・では始め!」
「いくぞ!そりやぁ!っせい!はぁっ!」
開始の合図と共にタルヴォが攻撃してきた、右下からの斬り上げに次いで左からの斬り下ろしに横薙ぎ、タルヴォが剣を振るう度に風が舞う、なかなかの速度だがしっかりと見えるし避けるのも左程難しくはない。
(何を仕掛けてくる気なのか分からないが、今の所は負ける要素が無いな。)
「はん!避けるだけか?逃げ足は速いみたいだが何時まで持つかな?」
「さあな!」
(これぞまさしく”当たらなければ”ってやつだね。・・・言わんけど。)
それからもタルヴォは執拗に剣を振るうが、薙ぎ払いを屈んで躱し、斬り下ろしを受け流していく、流石に疲れたのか汗を流し始めた。
(う~ん、剣しか使わないな、どうしてだ?)
威力はともかくそれ程速くはなかったので、対人戦の訓練にする事にしたのだ、ただそれも力任せに剣を振るうだけなので既に慣れてしまったが。
(そろそろ終りにするか。)
そう思った瞬間、視界に入ったのはタルヴォの手下が剣を抜くところだった。
(んな!?まさか!)
流石に決闘中に乱入するとは思って無かったので、その手下の行動に視線を向けてしまった。
そして、これが罠だったのだろう、タルヴォはこの瞬間を待っていたかの様に、死角側から薙ぎ払いを放った。
咄嗟の事に慌てて剣を盾にして受けたが、大重剣と長剣では強度が違うためにあっさりと折られてしまったのだ。
タルヴォは初めから剣を使えなくする事を狙っていたらしい、怪我はしなかったがこれでは戦えないだろうと誰もが思った。
(・・・ふぅ、やってくれたな、・・・小賢しい事を!)
「ぶわっはっは!俺様の勝ちだ!」
「・・・シロウさん、降参しますか?」
勝ち誇っているタルヴォに構わずエーリクは淡々と降参か確認してくる、決着は”戦えなくなるか降参するか”だからだ。
「はぁ、あぁ大丈夫だ、剣が無くても問題は無い。」
「あぁん!?剣がなくてどうすんだ!舐めてんのかてめぇ!」
タルヴォは相変わらず強気だが俺にとっては実際に大した事ではない、何故なら”剣が無ければ殴れば良い”のだから。
(実践で使うのは初めてだが・・・身体強化!)
今まで戦闘で身体強化を使った事は無い、初めは単に忘れていただけなのだが、その方が修行になると考え移動する時以外は使っていなかった。
「・・・んじゃ、行くぞ!剣の仇だ!」
身体強化を使って、今まで以上の速度でタルヴォの懐に潜り込んだ、その速さにタルヴォは全く反応できない。
そして下から上へ持ち上げる様に鳩尾へ右拳を打ち込むと、タルヴォが体をくの字に曲げる。
その瞬間反時計回りに回転し左足で、タルヴォの下がった頭に回し蹴りを入れてそのまま吹き飛ばした。
一瞬の出来事で周囲は唖然として言葉も無い、そして少し経ってから我に返ったエーリクがタルヴォを確認しに行った。
「・・・タルヴォさんが気絶した為、勝者はシロウさんです!」
『うぉぉぉぉぉ!』
エーリクの勝利宣言に周囲は歓声を上げた。
「シロウさん、おめでとう御座います。条件の金貨1枚ですが使いやすい様に銀貨10枚にしておきました、どうぞお納めください。」
そしてエーリクはこちらにやって来て銀貨10枚を渡してきた。
「あぁ、ありがとう。あの”脳筋ハゲ”は、よくこんな金持ってたな?」
「ああ、それはギルドのお金です。これでタルヴォさんはギルドに借金をした事になりますので、今後は借金返済の為に馬車馬の様に働いて貰いましょう。」
「おおぅ!?そ、そうか、良かった・・・のか?」
そう言ってチラッと脳筋ハゲの方を見ると手下が担いで宿泊所に入って行くところだった。
「大変良かったと思いますよ。ふっふっふ。」
(怖えぇよ!?エーリクさん!?)
「それでは、失礼致します。」
エーリクは一礼をして冒険者ギルドに戻って行くのだった。
「・・・疲れた。」
決闘を始める前は条件すら決まらず、決闘では小賢しいやり口で剣を折られて、勝つには勝ったが喜べない結果になってしまった。
せめてもの救いは銀貨10枚が手に入った事だけだ。
「はぁ、もうバカと決闘するのはこりごりだ!」




