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会話が多いです。
久しぶりの王宮での夜会だ。
これまではモーリー嬢と一緒に過ごしていたが、家族と夜会に来るのはいつぶりだろう。
「クリス様、ごきげんよう。」
「…っ!」
聞きなれたモーリー嬢の声に思わず振り返るとにやにやと笑いながらこちらを見ているアリー君がいた。
「なんだ、アリー君か、驚かせないでくれ…。」
「ふっ…ふふ、すみません。モーリーさんに似せてみたんですけど、そんなに似てましたか?警戒しなくても身分の低いものから声をかけられないのが普通です。大丈夫ですよ。」
「それもそうですね。せっかくですし、1曲お相手願えますか?」
「喜んで。」
アリー君とダンスをしていると、鬼の形相でこちらをにらんでいるモーリー嬢が見えた。
「まぁ、ダンスの途中に他の女性を見るのは私に失礼ですよ?」
「あ、すみません。」
「冗談ですよー。モーリーさんでしょ?すごい顔してこちらをみてますもんね。私たちじゃなくても気になりますよ。」
ダンスを踊り終え、休憩することにした。
「先輩、向こうが悪いとしてもあんまり邪険にしすぎるのもよくないですよ。仮にも7年分の記憶がないんですし。一度ちゃんと話してみるのもいいと思います。」
後輩に諭されてしまった。
確かに少し邪険にしすぎた気がする。アリー君と分かれ、休憩室へ向かう。
「クリス・キーン子爵令息、少しよろしいですか?」
振り返ると妖艶な笑みを浮かべるリード伯爵令息がいた。
「申し訳ございません。僕とは話したくないと思いますが、少しだけで構いません。」
いつもの妖艶な笑みだったが、どこか悲しげな表情に見えた。
「いえ、構いません。休憩室に向かおうと思っていたのでそちらで構いませんか?」
「!えぇ!ありがとうございます。」
休憩室には人がおらず、二人きりの空間だった。これなら私たちを知る者もいないし大丈夫だろう。
「早速で悪いのですが、僕の話というのはモーリー男爵令嬢のことです。」
思わず身構えてしまう。
「…そうですよね。僕からこんな話、勝手にしていいのかわかりませんがどうしても聞いてほしいんです。」
リード伯爵令息から聞かされた話はにわかに信じがたい話だった。
そもそも二人は恋愛関係にはなく、飽くまでも私を嫉妬させたいモーリー嬢がとった苦肉の策らしい。
そして彼女は本当に私を慕っているが、私を目の前にすると恥ずかしさからあんなことを口にしてしまう…と。
「はぁ…。なんてわかりにくいんだ。」
「本当はモーリー嬢から話をするのが一番なんでしょうけど、彼女のことです。きっと直接は言えないだろうと思って。婚約を解消されたと聞きました。モーリー嬢に頼まれたこととは言え、誤解を与えてしまって…。」
「いえ、実をいうと二人が本当は想いあっているわけじゃないのでは?と思っていたんです。なんとなくですけど、リード卿もいつも気まずそうにしていましたし。モーリー嬢もなんだかんだ私のことを気にしていましたし。」
リード卿は驚いたような表情をした。
「7年も一緒にいたんです。なんとなく気が付きますよ。ただまぁ、さんざん口では悪く言われていたので何が本心なのかはわかりませんでしたし、正直私も少し疲れてしまっていたので最近はあまり顔を見ないようにしていましたし。」
「…僕自身見た目で誤解されることが多くて、モーリー嬢には仲間意識がありました。彼女の場合は口は悪いですがよく見ると結構顔に出ていますよ。」
「リード卿も結構顔に出ていますよ。」
「はじめて言われました。…こんな出会い方でなければ友人になりたかったんです。兄からあなたのことはよく聞いていましたから。…でもこれ以上迷惑はかけられません。」
「いいじゃないですか。友人。なりましょうよ。既にある噂をなくすのは難しいですが、覆すのは簡単ですよ。それに百合の貴公子であられる伯爵子息様からの迷惑ならもうかけなれてますよ。」
そういうとリード卿は珍しく楽しそうに笑った。