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明らかにおかしい。
そもそも彼女との婚約はサンナ男爵が勝手に決めたことだったのではないか。
それに会いたいなんてこの7年間ではじめて言われた。
記憶がないとはいえ、こんなにも性格が変わるだろうか。
7年前の婚約の時でさえ悪態をついていたのに。
明らかな好意を向けられ、むしろなにか悪いことを目論んでいるのではないかと考えてしまう。
「クリス様?いかがなさいましたの?」
「モーリー嬢、申し訳ないのだが、婚約は解消さ「お義父さま!そういえば今度の夜会なのですけれど、クリス様にエスコートをしていただきたいのですが、よろしいかしら!」
父上の言葉を遮るモーリー嬢。
「モーリーさん?よろしいかしら、話は遮らないでちょうだいね?忘れているようだからお伝えしますけど、クリスとの婚約はあなたの有責で解消になりました。だから私たちはあなたの義家族ではありません。それにご存知だと思いますけど、婚約者でない方を家族以外がエスコートすることはできないのよ?」
母上が口元は笑っているが、目が笑っていない表情でいう。
「た、確かにわかっております。ですが私は心からクリス様をお慕いしています。記憶がないので、私がこれまでどのようなことをしたのかはわかりませんが一からまた関係を築き直したいのです。」
「サイン伯爵令息のことはよろしいのかしら?」
モーリー嬢の顔色が悪くなる
「き、記憶にはありませんが、私の心が変わるはずなんてありません。何かの間違いです。」
「けれどねぇ?サンナ男爵?」
「そ、そうですね。記憶を失ったとはいえ、娘のしたことが覆るわけではありません。」
「今日はお引き取りいただけます?」
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「今日のモーリー嬢、なにか様子がこれまでと違いましたわね。」
「そうですね、まるで人が変わったようでした。」
母上も父上も違和感を感じたようだ。
「クリス、あなた今度の夜会は気をつけるのよ。嘘か誠かわかりませんが、モーリー嬢はあの様子ですし。私たちもいるとはいえあなた自身も自衛なさい」
「わかりました。気をつけます。」
普通ならモーリー嬢の体調を心配するところだろうが、彼女のことだ。
なにか変わった動きをするかもしれない。そんな悪い考えばかりが浮かんでしまう。
次はリード目線になります。