復活と急変する事態
気を失っているマイルソンをサリーが背負い、四人の女性徒が精霊を抱きしめ乍ら王木へと向かって走り出す。王木は今とんでもない数の魔従に襲われているけれど、それでもリリィ等が死守しているので逆に安全だ。だから、サリーが先頭に立って生徒等を誘導した。
しかし、ジャッカがそれを黙って見過ごす筈も無い。ジャッカは翼を広げて、瞬きする暇も無い速度で彼女たちの前に出た。
「死にな」
「させない!」
ジャッカがサリーに向かって剣を振るい、それをチェリッシュが間一髪で前に出て魔装聖女の羽衣で受け止めて防ぐ。更には、何処に潜んでいたのか、クッキーの母である聖獣ホーリードッグのカールがジャッカの腕に噛みついた。
「ちっ」
「お姉様! 早く!」
「ええっ」
サリーと女生徒等は直ぐに駆け出し、彼女たちを護るようにグラックとフォーレリーナが前に出た。そして、グラックも魔装獣の剣を手に持ち斬りかかり、フォーレリーナも魔装氷の化身のエッジに氷の刃を纏わせて切れ味の鋭い蹴りを繰り出す。
しかし、これでジャッカに致命傷を負わせる事は出来ない。ジャッカはカールを振り払い、チェリッシュを蹴り飛ばすと、グラックとフォーレリーナを纏めて斬り払った。
「っく」
「うきゃあっ」
グラックとフォーレリーナはジャッカの斬り払いを何とか受け止めたけれど、その衝撃で数メートルだけ吹っ飛ばされる。チェリッシュとカールも次の攻撃を仕掛けようとしたけれど、ジャッカの隙の無さに足が止まってしまった。
「面倒だな。流石に四対一じゃ追えねえか」
「当然だ。そうでなくては面子が立たない」
ジャッカの言葉にグラックが当然だと答えたけれど、実際にはそうは思っていなかった。
たったの一振り剣を交えただけで分かってしまったのだ。自分たち三人と一匹に対して、ジャッカの実力がずば抜けて違い過ぎると。先日のミントが襲われた事件のおかげで、グラックやこの場にいる全員がジャッカの事を知っている。彼は元煙獄楽園の出身であり、あの戦争で敗北した男だと。しかし、聞いていた実力は別物で強すぎる。勿論聞いたままの強さでも敵うような相手ではないけれど、それ以上だった。
「じゃあ、さっさとあんた等を殺して、任務に戻ると――っち」
「っ?」
突然ジャッカの顔が苛立ちに歪み、舌打ちをし乍らグラックたちがいない別の場所へと視線を向ける。釣られて視線を向けてみると、先程チェリッシュが真っ二つにしてドロドロに溶けたワームの残骸がある場所だった。
そして、そこにはケレムが立っていた。彼はジャッカに殺され、ワームに食われた男。その姿は半身が爛れた後に固まったような状態になっていて、ニヤリと笑みを浮かべていて気味が悪い。確かめるように自分の両手の手の平を見つめて、空を仰いで大声を上げた。
「生きている! ハハハハハハハハハ! 俺様は魔従となって甦ったのか! 最高の気分だ!」
閻邪の粒子は死者をも魔従と化す力がある。ケレムは野心的な強い思想で自我を保ち、その力で復活を遂げたのだ。これはジャッカにとって完全に予想外の出来事で、驚きと同時に憎しみが込み上がる。最早グラック等を相手にする事などどうでもよく、甦ったケレムは抹殺のみに思考が支配された。
「死にぞこないが!」
ジャッカは翼を広げて飛翔し、ケレムへと接近する。しかし、ケレムは直ぐにそれを察知して、ジャッカと目を合わせると背後へと跳躍し乍ら魔力の塊を放って足止めをした。
「ジャッカ。貴様に付き合うつもりはない。こうなってしまった以上、計画の最終段階に入らなければならないのでな」
「最終段階だと!?」
「俺様は元々ラーンから神王を封じた魔従の卵を奪い、力を手に入れる予定だったのだ。そうすれば、魔従化せずとも同等の力を得る事が出来るからな」
「させると思ってるのか!」
ジャッカは再び飛翔してケレムへと迫る。しかし、ケレムも背中から翼を生やし、飛翔する事で距離を離した。
「貴様に付き合うつもりはないと言っただろう? 俺様はこれより女神の水浴び場へ向かい、ウドロークが捉えた精霊神の力を使い女神と契約を交わす。そうなれば、聖女の力など無くとも世界の命運は俺様が握れるのだ」
「女神の水浴び場だと!? 行かせるか! 今そこにはお嬢がいるんだぞ!」
「ほう。それは良い事を聞いた。奴は邪魔だ。ついでに殺しておくか。今の俺様なら容易かろう」
「させないと言っている!」
「最早貴様には無理なのだよ。ジャッカ」
ケレムが再び魔力の塊を放ち、ジャッカはそれを食らって後方へと吹っ飛んだ。更にケレムは飛翔の速度を加速させ、一瞬で姿が見えなくなってしまった。そして、それ等の一部始終を見ていたチェリッシュたちは呆然と立ち尽くし、ジャッカが「ケレム=ナイトスター!」と怒号を上げて彼を追いかけて飛び去った。
「チェリッシュ様。これは……不味いのではないでしょうか……?」
「は、はい。今直ぐ王木に戻り、ジェンティーレ先生に伝えてミア様と連絡を取って頂きましょう!」
「わわわわわ! 大変です! 早く行きましょう!」




