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未曾有の異変(1)

 幻花森林の地図に載っていなかった木の無い空けた場所。そこでラーンを見つけたマレーリアだったが、目の前で女性徒二人が魔従まじゅう化する姿を見てしまった。

 そして、驚くマレーリアの目の前には、魔従の誕生を見て笑みを浮かべるラーンがいる。その笑みはいつもの演技染みたものだったけれど、マレーリアにはそれがとても不快なものに見えた。


「何が可笑しいのですか!? 彼女達は貴女のご友人なのでしょう!?」

「違うわ。ナイトスター公爵家の家柄にしか興味を持っていなかった何処にでもいるような女達よ。どうでもいいわ」


 どうでもいい。と言ったラーンのその言葉は、本気で思っている事なのだと、マレーリアは彼女の目を見て直ぐに分かった。そしてそれは目の前で魔従化した二人に同情すらしていないような冷たい目で、マレーリアはその目に恐ろしさを感じる。でも、今はそれよりも彼女たちをどうにかしなければならない。

 しかし、魔従化した女性徒二人を助け出す方法なんて、聖女であるミアを頼るしかない。マレーリアが出来る事は、彼女たちが誰かを襲わないように拘束する事だけだ。


「とにかく貴女も協力しなさい! ラーン! 彼女達を拘束します!」

「嫌よ。それに、私の目的はこれからだもの」

「何を言って――――っ!?」


 マレーリアが女生徒等を捕まえようと再び駆け出したが、それは出来なかった。ラーンが持っていた魔従の卵を胸元に当てて、その直後に彼女を中心に衝撃波が発生したからだ。

 マレーリアはその衝撃波を浴びて、後ろに生えていた木の所まで吹っ飛ばされてしまう。そして、ラーンの胸元には魔銃の卵が埋め込まれ、彼女は演技染みた笑みを浮かべた。


「パパ。パパの力を借りるわね」


 ラーンは呟くと、女生徒たちに掘らせていた穴に右手を向ける。すると、ラーンの右肩のあたりから閻邪の粒子が発生し、それが右腕を通って手までくると、まるで手の平から放出されているような形で穴の中へと入っていった。


「何が……起きているのですか…………っ?」


 マレーリアは吹き飛ばされた衝撃で左肩を痛め、右手で押さえ乍ら立ち上がると、目の前で起きている光景に恐怖した。

 ラーンが閻邪の粒子を放ち、それが穴の中に吸われていく。まるでそれに呼応するように周囲が段々と暗くなっていき、どす黒い雲が空を覆った。草木が揺らいで騒めき、その姿を魔力の結晶へと変えていき、それがこの場を中心にして少しずつ広がっていく。更には大地のそこかしこから閻邪の粒子が溢れてくる。それは少量でごくわずかな量だけれど、終わる事無く延々と出続け、宙を待って周囲に漂った。

 マレーリアはその光景に恐怖で怯んで足を一歩だけ後退る。すると、結晶化した草がパキリと音を立てて折れ、ごくりと息を呑み込んだ。


「マザーマレーリア。貴女達天翼会が言う未曾有の異変ってね。実は世界中の生物の変化や進化を意味しているの。それはこの世界にとっては新たな歴史の一つに過ぎないわ。だから、別にそれで誰かが死ぬわけじゃない。ただ、変化や進化する過程で、それに殺される人は出るかもしれない。でも、魔従になって甦る。だから、正確には死ぬのではなく変化と言えるもの。たったそれだけの事なのよ」

「たった……たったそれだけの事……? もし貴女が言っている事が本当だとしたら、私達は……人の種族はどうなるのですか!?」

「今言ったでしょう? みーんな魔従になっちゃうわ。でも、神王様はそれを良しとしなかった。だから、未曾有の異変が起こる前に、その対抗策をずっと一人で考えて実行していたの。自分が悪人として倒され死ぬ事で世界が救われるようにね」


 ラーンの顔からはいつもの演技染みた笑みが消えていた。そこにあるのは何処までも冷たく軽蔑する瞳。マレーリアはその瞳の奥底に、深い怒りを感じた。


「閻邪の粒子に打ち勝つ為には強い心と肉体が必要なのよ。だから争って強くなる必要があった。絶望に負けない為に。生き残る強さを手に入れる為に。そうとも知らずに天翼会は馬鹿みたいに神王様を悪者にして、自覚が足りていない聖女ばかりを頼りにしたわ。本当に反吐が出る」

「ラーン……。貴女は…………」

「聖女では無いと言い続ける貴女なんかより、私のパパの方が世界の事を考えてたのよ! ミア!」

「――っ!?」


 ラーンが見せた事の無いような怒りを見せ、叫んで視線を向けたその先にいたのは、いつの間にかこの場に来ていたミアだった。

 ミアの背後にはユーリィとニリンもいて、その目は動揺を見せている。でも、ミアだけは真剣な面持ちでラーンを見つめていて、二人の目がかち合った。


「ラーン。お主は……」

「私は世界に復讐を誓ったの! 世界中の誰もがパパを殺そうと願うなら、こんな世界なんていらない! だから! 私が未曾有の異変を早めさせて、さっさとこの世界を新しい世界に作り替えるのよ! 貴女達のいない世界にね!」

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