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前途多難な引きこもり計画

 天翼学園の敷地内には様々な施設が存在する。その内の一つに“温室広場”と言う建物がある。そこは様々な植物が植えられている庭園で、昼休みの時間になると学生たちがお弁当を持ちよって食事をしていた。デートスポットとしても好まれていて、放課後になると複数のカップルがやって来る場所だ。

 さて、そんな温室広場にミアとネモフィラが侍従を連れてやって来て、一緒にお弁当を食べていた。のだけど、一緒に並んで座り食事をする二人の目の前には、アンスリウムの姿もあった。


「お兄様はいつも学食で食事すると聞いていたのですけど、今日は行かないのですか?」

「ああ。ミアと一緒に昼食をとろうと思ってな」


 さも当然と言うような顔でアンスリウムが答え、ネモフィラがあからさまに嫌だと言う顔になる。


「いつもお主の座っておる所にミントが座っておるのじゃ。今日はミントが学園の学食に行くと言っておったが、お主が何かしたのかのう?」

「その事か。あの子は俺の派閥の子だ。悪いようにはしない。ミアが妹とここで昼を過ごしていると聞いて、褒美として学食を与えただけだ。本人も喜んでいたし何も後ろめたい事は無い」

「それを聞いて安心したのじゃ。幼稚舎の子供には学食はちと興味が出る響きじゃし、ミントも喜んでおったじゃろう」

「最初ここにお弁当を持って来た時にも、ミントは学食にも行ってみたいと言っていましたね」

「だろ? 次はミアとネモフィラと三人でとも言っていたが、俺が与えてやった学食は予約制のもので、人数が俺一人分だ。流石に四人分とはいかないから、そこは我慢してもらった」

「ほう。学食なのに予約なんてものもあるんじゃなあ。全部では無いのじゃろう?」

「当然だ。予約が必要なのは学食の中でも高級な料理だけだ」

「それを聞くと少し興味が湧くのじゃ」

「なら、今度俺と二人で――」

「駄目です! ミアはわたくしと一緒にご飯を食べるのです!」


 ネモフィラが頬を膨らませてお怒りモード。さっきまでの嫌そうな顔が、もっと嫌そうな顔になっている。しかし、それは仕方がない事だろう。アンスリウムはミアを婚約者にと言っていて、それが気に入らないのだ。現時点では保留になっているとは言え、二人が仲良くしていると心配にもなるし楽しくない。ネモフィラにとってのアンスリウムは最も警戒すべき恋敵だった。


「ネモフィラは本当にミアがお気に入りだな。ミアと結婚したら随分と恨まれそうだ」

「そう思うのでしたら、今直ぐ婚約を取り消して下さいませ」

「それは出来ない。いずれ王になる俺に相応しいのは、ミア以外いないからな」


 アンスリウムが甘ったるい微笑みをミアに向け、ネモフィラが更に激おこになり、ミアは胸焼けを起こしそうになった。


(男の色目付いた笑みとか勘弁なのじゃ)


 流石ミア。前世八十まで生きたお爺ちゃんだけあって、普通の女の子とは違う感性である。普通なら心をときめかしてしまう程のアンスリウムの美形スマイルも、ミアの前では意味をなさないのだ。


「そんな事よりも、このうさぎさんウインナーは見事じゃのう。これはメイクーが作ったのじゃ?」

「はい! ミア様の為に私が作りました!」

「メイクーもミアがうさぎが好きなのを知っているから、今朝早起きして作ったのですよ」

「ありがとうなのじゃ」

「もったいないお言葉です!」

「良かったですね。メイクー」

「はい。ネモフィラ様」


 ネモフィラとメイクーが微笑み合い、ミアがうさぎの形のウインナーを目で楽しむ。そこでアンスリウムがハガキサイズの封筒をミアの前に出した。


「ミア。これを君に。二日後の社交界の招待状だ。アウトゥムヌスからの誘いだ」

「アウトゥムヌス? 確か秋の国じゃったか?」

「ああ。例の事件の解決に貢献したミアに興味があるらしい」

「ぬぬう。夏休み前の一ヶ月間は社交界が多いと話には聞いておったが、ついにワシにも招待状が届いてしまったのじゃ……」

「ふふ。学園の社交界デビューですね」


 ネモフィラが嬉しそうに微笑むが、ミアは滅茶苦茶嫌そうな顔になる。最近はあの強制脱衣事件を解決した一番の功労者として噂されていて、聖女とバレていなくても十分に目立っているからだ。

 聖女と言う理由だけで、近い未来に学園に入園するのが決定しているミアにとって、今後の人付き合いの為にもお誘いを断る事が出来ない。でも、社交界デビューだなんて、引きこもりとは逆な行為なのでしたくない。このままでは【引きこもり計画】は頓挫とんざしてしまう。

 ミアは真剣に考え、そして、断る決心をした。


(後ろ指をさされたとしても、ワシは自分の道を貫くのじゃ。それがワシの“覚悟”なのじゃ)

「そう言えば、社交界やお茶会の招待状がネモフィラ様宛でたくさんきていまして、そこにミア様も是非にと書いていませんでしたっけ?」

「なんじゃと!? メイクー! それは本当なのじゃ!?」

「はい」

「でも、それは直接本人に招待状を送って下さい。とお返事しましたよ。ミアがまだ知らないようでしたので、わたくし達から話す事では無いです」

「それもそうですね。失礼しました。忘れて下さい」

(忘れられるわけないのじゃあ! たくさんってどの位たくさんなのじゃあ!? そんなの断りきれる自信が無いのじゃあ!)

「でも、楽しみですね。今でも噂になっていますし、きっとミアは人気者になります」

「当然の結果だな」

(何が当然なのじゃ! 人気者になんてなりたくないのじゃ!)


 ネモフィラが笑顔なので嫌とは言えないチキンハートなミア。しかし、ミアは諦めない。


(こうなったら社交界では壁の花になり……ぬう。それでは生温い。机の下に隠れてしまえば良いのじゃ。ワシは印象の薄い者として、誰の心の記憶にも残らぬ背景のプロになってみせるのじゃ)


 逆に怪しすぎて、もしくはかくれんぼを楽しんでいる子供として目立ちそうなものだが、ミアはアホなので気付かない。ミアの【続・引きこもり計画】は、まだ始まったばかりだ!


第二章 終了


次回から幕間が四話ほど入って、第三章に入ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミアさんが聖人であることを知らなくても、どの国の市民も彼女と一緒にいたいと思うでしょう。
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