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決勝戦の主役

 観戦会場がケレムに占拠されて決勝戦の続行が命じられると、今まで何処に隠れていたのか傭兵たちの魔力をミアは一斉に感じ取る。魔力を読み取る力を遮断する効果が切れたのかどうかは知らないけれど、幻花森林の各地に現れたそれ等にミアは冷や汗を流して周囲を見回した。


「なんか大変な事になっておるのじゃ。突然色んな場所から知らぬ魔力が現れておる。しかし、ここにはおらぬようじゃ」

「どうしますか? 観戦会場に向かいますか?」

「試合を続行すれば何もするつもりが無いようじゃし、暫らくは放置で良いじゃろう。それよりもラーンの動向が気になるのじゃ」

「彼女の魔力は未だに感じ取れないのですか?」

「うむ。さっきのキノコが魔従まじゅうで、観戦会場を乗っ取ったのがラーンの父親であれば、タイミングとしてはバッチリじゃ。こんなの怪しすぎるじゃろう?」

「はい」

「でも、どうやって捜しますか? この幻花森林と言う場所はとても広いですよ?」

「こういう時は高い所を目指すのじゃ」

「「高い所……?」」


 ユーリィとニリンの声が綺麗に重なり、二人は同時に首を傾げた。ミアはそんな二人にドヤ顔を披露して、この森で一番高い木のある場所、王木おうぼくへ向かって車椅子の車輪を走らせた。




◇◇◇




 ミアが王木を目指して移動を開始した頃、チェラズスフロウレスの拠点で待機していたネモフィラたちの前に、ケレムが集めた傭兵たちが現れていた。


「十人か。思ったよりも少ないな」

「わたくしがこの方達に倒されてしまったら、チェラズスフロウレスは失格になるのでしょうか?」

「決勝戦の続行とか言ってたな。それなら失格になるんじゃねえか?」


 ネモフィラの疑問にルーサも疑問形で答えると、ハッカは呑気だなと冷や汗を流す。そして、そう思ったのは二人だけでは無い。


「君達。あんな言葉を真に受けないでくれないかな。もうこれは決勝戦でも何でもないんだよ」

「ラティノ嬢の言う通りだ。まったく。少しは緊張感を持った方がいい。近衛隊としてチェラズスフロウレスの拠点の監視に参加させてもらって正解だったな」


 そう言って二人を注意したのは、聖女近衛隊の二人。龍神国ブレゴンラスドの第三王女にして元革命軍隊長だったラティノと、水の国アクアパラダイスの公爵子息ベギュアである。二人は聖女の近衛騎士と言う立場を利用して、決勝戦ではチェラズスフロウレスの拠点の監視役として近くに待機していたのだ。

 そしてここには、もう一人……いいや。一匹の頼れる仲間がいた。


「わん!」

「クッキー様もそうだと仰っています」


 もう一匹の頼れる仲間はミアのペットにして聖獣のクッキーである。クッキーはラティノとベギュアの言葉に同意しているようで、二人の間に立って尻尾を可愛らしく振っていた。

 そして、そんなクッキーの姿を見て、ネモフィラたちを襲いに来た傭兵たちが笑い声を上げる。


「ぎゃははは! 子犬を連れて散歩でも始めるつもりかあ?」

「呑気なもんだぜ! 今から俺達に殺されるってのによお」

「待てお前等。俺達の雇い主様はチェラズスフロウレスの王女を誘拐して、邪魔者は殺せと言っているだけだ。邪魔をしないなら殺す必要は無い」

「ネモフィラ様を誘拐だと? そんな事を許すと思っているのか?」


 傭兵たちの会話を聞いてラティノが睨んで告げると、彼等は好都合だとでも言わんばかりに下卑た笑みを浮かべた。


「だとよ。殺してほしいそうだぜ。ぎゃははは!」

「仕方ないか」

「さっさとっちまおうぜ。ガキを連れて行くだけで追加報酬の金貨が百枚も貰えるんだ。しかも天翼学園のガキを殺したとなりゃあ名が売れる。最高だなあ!」


 傭兵たちが武器を構えると、それに合わせてルーサとハッカとラティノとベギュアも魔装ウェポンと出現させて構えた。するとそんな時だ。


『ええ。おほん。ケレム様より余興を盛り上げる為に実況と解説を続けろと命じられて舞い戻りました。わたくし実況のメリコでございます』


 ここだけでなく、幻花森林全域へとメリコの声が響き渡る。ネモフィラはその声に耳を傾け、そして、メリコの大きく息を吸う音が聞こえ――


『野郎ども! 戦え! 私達を甘く見ている連中に天翼学園の生徒の恐ろしさを見せてやれ! 私達の戦いは“英雄になる為の戦い”だ! 余興と馬鹿にされたままで終わらせるな! この戦いの主役が誰なのかを思い知らせろおおおおお!』


 ――メリコの声が空気を震わせた。

 そして、巻き起こるは大歓声。マイク越しに観戦会場から湧き上がる声が聞こえ、幻花森林の各地からも生徒等と思わしき雄叫びが響き渡った。


「へっ。言われるまでもねえ」

「そうだな。もとよりそのつもりだからな」

「はい。この決勝でミアに優勝を贈るのです。こんな無作法な方達に台無しにされるわけにはいきません」


 ルーサとハッカが、そしてネモフィラが、この決勝の舞台の主役が誰なのか分からせてやると闘志を燃やした。


『さああ! 気合は十分だな野郎ども! ここからが本番だ! 決勝戦の第二ステージの開幕だああ! 存分に暴れやがれええええ!!』

「「うおおおおおおおおおおおおっっ!!!!」」


 幻花森林が今、学生たちの燃えるような闘志で震え上がった。

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