第三王女の情報提供(4)
「騎士王国……なのじゃ?」
「はい。今あの国で何が起きているのかが分かりました」
「おおお!」
天翼会主催の社交界で情報収集をしていたネモフィラは、ラーンと関わりのある人物意外にも、ラーンが今所属している騎士王国の内情まで調べていた。その事にミアはただ首を傾げて質問したけれど、ジャスミンやプリュイやラーヴは前のめりになって話の続きに期待する。
でも、それもその筈。ネモフィラが用意した関係者リストは、天翼会でも掴めていない情報の宝庫だったのだ。期待に胸を膨らます三人とネモフィラの目がかち合えば、その瞳の期待値高めなキラキラな眼差しにネモフィラもつい笑みを浮かべてしまう。でも、笑って話せるような内容でも無いので、その笑みは直ぐに真剣なものへと姿を変えた。
「まずは皆様もご存知かと存じますけど、今の騎士王国スピリットナイトは税を上げて国民の皆様からお金を巻き上げています」
「そう言えばそんな話を聞いた事があったのう。ラーンが拾われてからの話じゃったか?」
「はい。実は、その回収された税金……お金の使い道が不明なのです」
「ふむふむ……ふむ? つまり徴収した税金の使いどころに不明瞭な点が見つかっておると言う事なのじゃ?」
「え? そうなの? 私は煙獄楽園との戦争の時に騎士を派遣してくれたから、そのお金に割り当てる為の一時的な増税って報告を受けてたんだけど……」
ジャスミンが受けていたと言う報告は事実なのだろう。プリュイとラーヴもその可愛らしい顔を縦に振って頷いている。
しかし、今はそんな可愛らしいしぐさを見て和んでいる場合では無い。ミアは一瞬ニヤニヤしてしまいそうになり乍らも我慢して堪え、ネモフィラへと視線を向けた。
「ジャスミン先生が仰った事は表向きの理由のようです。サンビタリアお姉様がクレイデフ侯爵からお聞きした情報によれば、消えたお金の出所を探そうとした方が何人か行方不明になっている様です」
「えええええええ!? それ本当なの!?」
「はい。正確には増税後に行方不明者が出るようになって、それを調べた結果が増税されてからの税の使用目的に疑問を抱いていた方だったと仰っていたそうです」
「…………」
ネモフィラが告げたのは、あくまでも仮説だった。
騎士王国スピリットナイトの増税後に、増額された税金の使用先に不明瞭な部分が見つかり、それを調べた者がいた。しかし、それを調べていた者は行方不明となり、それが何人か続いた。
クレイデフ侯爵の情報によると、その行方不明者が何処に消えたのか調べている過程で、行方不明者がその消えた税金を調査していた人物だと気が付いたようだ。そして、行方不明者は何人も出ていて、その全てがそれに関わっていた。こうなると偶然なんて言葉で片付けるわけにもいかない。行方不明者が何人も出ている事から、これは秘密裏に扱われる案件となっていた。
「お話はまだ続きます」
ネモフィラはそう告げるとルティアに視線を向け、ルティアが頷いて一枚の紙を取り出して机に置いた。
「これは行方不明者が出る少し前から国内だけでなく各国に配られた物です」
「傭兵の募集なのじゃ?」
「はい」
ルティアが出した紙は、傭兵を募集する為のチラシだった。
ネモフィラが質問に答えて頷くとミアは首を傾げたけれど、直ぐにこのチラシを今ここで見せられた意図を読み取った。
「まさか、これが税金の使い道なのじゃ……?」
「恐らくそうでは無いかと、クレイデフ侯爵は仰っていたようです」
「ちょ、ちょっと待って。でも、ここ見て。募集してる人の名前はナイトスター公爵になって……あ! そっか! 税金が増えたのはナイトスター公爵の所にラーンちゃんが行ってからだ!」
まさにその通りだとネモフィラが頷き、言った本人であるジャスミンが大きく驚いた。ミアも驚き乍らチラシの内容をよく読めば、その報酬金額に度肝を抜かれる。
「日雇いで一日の報酬が金貨五枚じゃとおお!? ワシ、ちょっと応募してくるのじゃ!」
そうと決まれば話が早い。早速応募にとミアが車椅子を走らせようとする。けど、まあ、そんなの了承するわけも無く、ルニィが「ミアお嬢様」と一言告げれば動きが止まる。視線を向ければニッコリと笑みを浮かべて圧の強いルニィと目がかち合い、ミアは顔を真っ青にして「冗談じゃ」と元の位置に戻った。
さて、そんなわけで日雇い報酬金貨五枚。日本円にすると五百万円である。正直にとんでもない金額で、本気で何処から出るんだそんな金。と言いたい金額だった。




