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聖女と大根役者の対談 後編

 演技染みた笑みで微笑み合うミアとラーンや、そんな二人を緊張した面持ちで見守る仮面の男。そして、この場には後一人、仮面を付けている女がいた。仮面の女は全く感情が読み取れず、ラーンの側を立って動かない。先程までラーンと会っていたウドロークはここにはおらず、今ここにいるのは四人だけだった。

 それに場所も違う場所だ。ミントがラーンやウドロークを目撃した場所から少し離れた所で、騎士王国の寮に戻る途中だったのか、その近くの何も無い道である。

 ミアはラーンと微笑み合うと、周囲を見回してから口を開いた。


「こ奴とは別で、実はお主に聞きたい事があったのじゃ」

「あら。何かしら?」


 あくまで笑顔は崩さない。ミアと違い、ラーンは今も尚その微笑みを絶やさずに続けている。と言っても、相変わらずの演技染みた笑みだけれど。

 しかし、ミアはミアで気にしておらず、ラーンの態度には特に何の感想も無しに答える。


「今やっておる社交界に参加していないのは何故じゃ?」

「どんな質問かと思ったら、そんなお話? 何故私が社交界に参加していないと分かるのかしら?」

「ワシは個人を魔力で特定出来るのじゃ。正直に話すと、ワシはお主が良からぬ事を考えていると疑っておる。今日起きた魔従まじゅう化の件もお主が関わっているとも思っておる。だから、変な事をしないか魔力を探って様子見をしておるのじゃ」

「へえ……」


 ラーンはミアの言葉を聞くと演技染みた笑みを止め、少しだけ楽しそうな笑みを見せた。でも、それはほんの一瞬だけ。直ぐにいつもの調子に戻り、言葉を続ける。


「随分と正直に話してくれるのね。私の事を調べているのは寮の件でも知っていたけれど、そこまで話してくれるとは思わなかったわ。でも、残念ね。ニーフェの件は私は関係無いの。まあ、信じるかどうかは――」

「なんじゃ。アレは違ったんじゃのう」

「――っ!? 信じるの……?」

「うむ。今更そんな嘘を言う必要もないじゃろうし、お主が何を言うても信じぬのなら、そもそもワシがそれをお主に言う必要がない事じゃ」

「…………変な子」

「む。変とは何じゃ。失礼な女子おなごじゃのう。しかし、そうなると、天翼会が予想しておった社交界の会場で閻邪えんじゃの粒子が発生する可能性とやらの心配は無さそうじゃのう」

「は? それって、私がアレを出したと思っていたって事?」

「うむ。違ったようじゃがのう」

「当然じゃない。アレは自然現象よ。私がどうにか出来る物ではないわ」

「そのようじゃ」

(しかし、閻邪の粒子と聞いてアレと答えたと言う事は、知らぬわけでは無いようじゃ)


 などと思い乍らも、ミアはこの事は後でジャスミンに報告しておこうと考える。

 そんなわけでミアがラーンを捜していたのは、今話していた通りで閻邪の粒子が社交界の会場に発生するかもしれないと予想していたからだ。だから、ラーンが閻邪の粒子が発生させた後に、更に何かするのではと考えていた。でも、それはただの勘違いだったわけだ。


「馬鹿馬鹿しい話だわ。……でも、そうねえ。そんな正直者な聖女様に聞きたいのだけれど、私からも一つ質問しても良いかしら?」

「む? 構わぬ。なんじゃ?」

「まあ。嬉しい」


 ラーンはわざとらしく嬉しそうに振る舞うと、直後に何処かいつもと違う……真剣みのある表情を見せた。


「貴女は死んだ人を生き返らせる事が出来るけれど、それは何年も経った相手も有効なの?」

「何年も……なのじゃ?」

「ええ。例えばそうね……六年前に死んだ人を生き返す事は出来る?」

「…………」


 六年前。その言葉に、ミアは少し驚いた。

 何故なら、その言葉が随分と細かく指定された年数だと思ったからだ。ミアにとって“六”と言う数字は区切りのいい数字では無く、中途半端な数字に思えた。人によってはそうでは無いのかもしれないけれど、少なくともミアはそう感じたのだ。

 でも、少し驚いただけで答える事には支障はない。ミアは少しだけ考えて、正直に答える。


「出来無いのじゃ。生き返らす事が出来るのは、せいぜい数ヶ月……長くても二ヶ月か三ヶ月が限度じゃろう。それ以上は――」

「いいわ」

「――む?」

「理由なんて聞く気は無かったもの。話さなくて良いわ」

「う、うむ……」

(ううむ。未練があれば世に留まるから、それ次第なのじゃが……。まあ、寿命で死んだ者を甦らせる事は出来ぬし、本人もこう言っておるから話す必要も無いじゃろう)


 ミアが考えている通り、聖魔法をもってしても寿命で死んだ者の命を呼び覚ます事は出来ない。寿命で死なずに死に、生きている間に未練のあったものはこの世に留まる。この世界ではそれは常識であり、なんならミアのように転生した者がいる事も知られている。だから、ラーンも勿論知っている事だし、今更それをラーンが聞く必要も無かった。

 それにこれはミアも知らない事だけれど、死亡してから数年経つと甦らせるのは難しい事だった。この世界に生きる生物は、人も含めて魔力を秘めている。その魔力を自然界の魔力と掛け合わせて魔法を使う人類は、死亡してから魔力を自然に返すのだ。つまり、時が経てば経つほどに、自然に帰った魔力を再び人体に呼び戻す事が困難になる。この世界の人類は魔力が無ければ生きられないので、魔力を呼び戻せなければ甦る事が出来ないのだ。

 結局のところ、ラーンが質問した六年前に死んだ者は二度と生き返らせる事が出来ない。その事実は変わらないのである。


「質問に答えてくれてありがとう。やっぱり、私は間違ってはいなかった事が分かったわ」


 ラーンは相変わらずの演技染みた笑みを浮かべて、仮面の女を連れてこの場を去る。ミアはそんな彼女の背中を見つめ乍ら、ラーンの告げた言葉の真意を深く考えるのだった。

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