聖女の前に立ちはだかる強敵
ネモフィラとルーサが罠にはまって身動きを封じられてしまっている頃、ミアとユーリィとニリンも危機的状況に陥っていた。
「お、おのれえ……。これでは手が出せぬのじゃ……っ」
「ミア近衛騎士嬢。私が魔装で追い払いましょうか?」
「駄目じゃ! そんな事をしたらペンギン達が可哀想なのじゃ!」
そう。ミアたちの前に立ちはだかったのはペンギンの群れ。ミアは可愛いペンギンたちを傷つけたくないのだ!
因みに、先程召喚された神獣の玄武と青龍はとっくに倒してます。そりゃもう随分とあっさりと秒でミミミピストルをバンと一発ぶっ放して。
しかし、問題はその後だった。神獣をあっさりと倒されてしまったスカイアニマルの生徒ルトとスーリュの二人は、神獣を出せば余裕で勝てると思っていた。だから、神獣があっさりと倒された事で頭が混乱し、逃げ乍らペンギンを大量に召喚。ペンギンたちに足止めしろと命令して、この場から逃げ去ってしまったのだ。その結果、ペンギンがミアたちを囲み、身動きを封じられてしまったのである。
「でも、せっかくミア様のおかげで宝を二つも手に入れたのに、このままでは拠点に戻れませんよ」
「な、なんと恐ろしい攻撃なのじゃ」
攻撃ではありません。
「残り時間二十五分。私の魔装でここから戻る為の時間はまだありますけど、このままだと間に合わなくなってしまいます」
「分かっておる。しかし、こんな愛くるしいペンギン達を攻撃なんて出来ぬのじゃ! 見よ。あのつぶらな瞳を! めちゃんこ可愛いのじゃ! なでなでしたいのじゃ!」
このアホ。じゃなくて聖女。完全に魅了されている。
ルトとスーリュも逃げてしまったし、アホすぎてメリコも注目しない程にくだらない状況なのは間違いなかった。
「なでなで……っ。閃いたわ。ミア様。ここは囮になって頂いても良いでしょうか?」
「囮なのじゃ……?」
「ちょっとニリン! 貴女、何を言っているの!? ミア近衛騎士嬢を囮にだなんて!」
「話は最後まで聞きなさい。ユーリィ」
ミアが首を傾げ、ユーリィが目を吊り上げると、ニリンは勝気な笑みを見せて人差し指を立てる。
「ミア様にペンギン達と戯れて頂いて気を引いてもらうの。そして、その間にユーリィがお宝を持って拠点に戻るのよ」
「「っ!?」」
衝撃の囮作戦。ニリンの考え出した作戦に、ミアとユーリィの脳裏に電流が走った。
「それしか……それしかないのじゃ!」
「嫌よ! それなら私も残ってミア近衛騎士嬢とペンギンがキャッキャッする姿を堪能したいわ!」
「それは私の役目よ。貴女の“せんぷーなわ”でしか、制限時間内に拠点に戻る事が出来ないのだもの」
「それでは早速ペンギンをなでなでしてくるのじゃ!」
「貴女はどちらかと言えばネモフィラ第三王女殿下派でしょう! 私に譲りなさいよ!」
「確かにそうかもしれないけれど、今は試合中なの! 我慢して直ぐ拠点に戻るべきよ! ミア様の勇士は後で私が教えてあげるわ!」
「ふおおおおおっ。可愛えのじゃああ!」
もう滅茶苦茶である。
ミアがペンギンと戯れ出す事で、確かにペンギンの気を引く事に成功した。ペンギンたちはミアの周囲に集まり出し、ユーリィとニリンは今なら余裕で拠点へ戻る事が出来るだろう。
しかし、残念な事に彼女たちは喧嘩している。はい。喧嘩してます。もうこれでもかってくらいに、どっちがミアとペンギンの戯れショーを見物するのか決める喧嘩してます。
尚、メリコは実況していないけれど観戦会場に映像は映ってるので、一部の観戦者たちはミアがペンギンと戯れている姿にホッコリしていた。最早ここだけ空気が違うと言うか、試合中に何やってんだって感じである。
まさか、こんな方法で一番注目されて一番活躍に期待されている聖女の足止めをされるなんて、誰も思わなかった事だろう。少し先の話になるけれど、ペンギンを召喚して逃げ出したルトとスーリュはスカイアニマルの国王から称賛を受ける事になるのだけど、それはまた別の話だ。




