目的は上空に
「ミアは上手くいっている様ね」
「ねえ。ハッカ。あれっ」
「あれ……?」
所変わって、ここは王都ブルーシップサマー号の街の中。ハッカを筆頭にして、ハッカを含めて六人だけの少数精鋭が集められたグループが、宝の一つを取りに向かっていた所だ。既に試合開始から二十分が経過しようとしているけれど、王都が広くて未だに宝の在り処まで辿り着けずにいる。
しかし、そんな時に仲間の一人が“あれ”と言って指さしたのは上空。ハッカが何だろうと疑問に思い空を見上げると、そこには宝の一つ“クラウン”が大量の風船に吊るされて空を移動していた。
「“クラウン”!? なんであんな……っ!」
「多分あれって私達が探す予定の宝だよね? 予定では後五分は走らないといけなかった筈だけど……」
「風に飛ばされて移動してるみたいだし、可能性としては十分では無い?」
「可能性も何もあれで間違いないだろ! 隠す気が無いどころか移動するなんて聞いてないぞ!」
ハッカは顔を顰めて“クラウン”を見上げる。民家の屋根に上ってジャンプをした所で届きそうに無い位置を浮遊していて、どうやって回収すればいいかと考えると、仲間の五人は騒ぎ出した。
「とにかく早く回収しようよ。スカイアニマルの子達に見つかったら不味いって」
「でも、どうやって取るのよ? 私、空なんて飛べないわよ」
「わ、私も無理……」
「そんなの私だって無理よ。でも、どうにかしないと」
「そ、そうだわ。ポポさんは風の魔法が使えましたわよね? ポポさんなら――」
「無理無理無理無理ですう! 私の魔法の成績は皆さんご存知でしょう!?」
「「…………」」
ハッカと含めた少数精鋭の一人である少女ポポは、魔法が大の苦手である。彼女がこのグループに選ばれたのは、魔法では無くその足の速さにあった。ポポは魔法で飛ぶ事が出来ないけれど、魔法を使って足を速くする事は出来るのだ。しかも、それを仲間に付与する事も出来る。つまりはバフ使いである。
そんな彼女に空を飛べと言っても出来る筈が無く、ポポが若干涙目で叫ぶと周囲が口を閉ざした。するとそこで、いつものやかましい声が響き渡る。
『スカイアニマルとチェラズスフロウレス! ここでお互い宝を一つずつ回収に成功だあ! しかし、チェラズスフロウレスの優勢は変わらないぞ!』
『優勢と言うにはまだ早いわよ。聖女様が宝の二つ目を見つけて拠点に持ち帰るまでは何が起きるか分からないもの』
『と言いますと、プラネス様には何か気になる点がおありなのでしょうか?』
『そうね。気になる点は二つあるわ。まず一つ。現段階でチェラズスフロウレスの拠点に向かっているスカイアニマルの生徒がいるわ。彼は個人の成績だけなら上位に入る生徒よ。そして二つ目。残りの宝をもしスカイアニマルが拠点に持って帰れば、さっき説明した彼が宝を奪った時点で状況が覆されるわ』
『流石はプラネス様。確かに今一人でチェラズスフロウレスの拠点に向かっている生徒がいますね。彼は……三年生のワンダー選手ですね。今年は個人部門での学年二位の成績を収めています。そして最後の宝の一つは――んんん!? これはあああ!? どうなっているんだあああああ!?』
『嘘……っ!?』
メリコとプラネスが驚きの声を上げ、そしてその時、空に浮かぶ宝を見つめていたハッカたちも目を見開いて驚いていた。
「神……獣…………っ!?」
ハッカが呟いた視線の先、宝の直ぐ側に現れたのは、神獣と呼ばれる生物。
その姿は美しく、全身を赤や金の炎で纏った体長約三メートルの大きな鳥。ミアが飼っている聖獣のクッキーが聖女を護る獣ならば、神獣は神に仕える獣である。
『神獣朱雀! 神獣朱雀です! 私! 初めて見ましたありがたやあ!』
『っそうだわ。鳥獣国スカイアニマルは元は鳥人と獣人で別れていた国が連合国として手を取り合って長年の末に出来た国。今年入学した一年生の中に、その鳥人族の長の血筋の子がいた筈よ』
『プラネス様。それってまさか、あの朱雀の上に乗っている子でしょうか?』
『そうよ。あの子、ニーフェ=スーク。スーク公爵の息女よ』
「あら。せっかくこの機会に自己紹介をしようと思いましたのに、実況のお姉様方が全部言ってしまいましたわね」
メリコとプラネスの言葉に呆れ乍ら、ニーフェと紹介された少女が神獣朱雀を地上に降り立たせる。そして、そこにいたハッカたち六人の前に出て、カーテシーの挨拶を披露した。
「始めまして。お姉様方。私、先程紹介にあずかりましたニーフェ=スークと申します。実は宝を取る前に、一度お姉様方……特にハッカ様とはお手合わせを願いたかったのですの」
「どうして? と、聞いても?」
「はい。勿論ですわ」
ハッカの質問に笑顔で答え、ニーフェは朱雀の体を撫でて言葉を続ける。
「ラーンお姉様を苦しめている聖女一派。その全員を再起不能にする為ですわ」




