遂に始まる第一試合
一般開放された観戦会場のいたる所に散りばめられた巨大なスクリーンや、席の一つ一つに備え付けられた小さなモニター。巨大なスクリーンは運営側の天翼会が操作して試合を映し出し、小さなモニター画面は個人で好きな戦いが観れるようにと取り付けられている。
ここ観戦会場にはまだ出番の無い生徒等の殆どが集まっていて、各自が自由な時間を過ごしていた。そして、外に積もる雪が溶けてしまいそうなくらいに会場内が興奮の熱気で溢れる中で、遂にその時が始まろうとしていた。
「各国の王族や貴族、それから生徒の保護者や関係者の方々に申し上げます。本日はお忙しい中でトレジャートーナメントを観戦しに来て頂いて、ありがとうございます。私は今大会トレジャートーナメントの責任者を務めさせて頂くジャスミン=イベリスです」
観戦会場に備え付けられた壇上に上がり、全てのモニターに映し出された責任者ジャスミンことお子さま先生。今年初めて天翼学園に子を通わせた保護者たちは驚きの顔を見せ、そうでない者たちは慣れたもので微笑むだけ。これも毎年のお約束である。
「試合が始まる前に皆様に観戦会場内での注意事項や、今後の予定などを説明させて頂きます」
そう告げてジャスミンの説明が始まると、いよいよ緊張した空気が流れ始めた。
我が子の活躍を待ち望む親や、実際に試合に出場する生徒たち。他にも様々な理由でこの場にいる者たちがいる。そして、その中にはミアやネモフィラの友人であるミントもいた。
ミントはハッカの遠い親戚で、彼女がミアやネモフィラの友人と知って誘ったのだ。そんな粋な計らいで観戦を許されたミントは、初めての体験でドキドキしていた。
(どうせ会えないと思って二人には内緒で見に来ちゃったけど、やっぱり伝えれば良かったなあ。開会式で映像に映った二人を見たら会いたくなっちゃった。でも、これから始まるんだ。邪魔したら悪いよね。王子さ……ミアとネモフィラ様を頑張って応援しよう!)
はい。と言うわけで、ミアを未だに“王子さま”と考えているミント。彼女だけミアが聖女と知らないのか疑問なところだけれど、一先ずそんな事は置いておく。
ジャスミンの説明が終わり、これまたトレジャートーナメントではお馴染みになった二人が現れたのだから。
「陛下や殿下、紳士淑女の皆様どうもごきげんようでございます! 私、今大会の実況を務めさせて頂くメリコ=ンータでございます! そしてこの方が!」
「解説役のプラネス=シャンクーエです。よろしくお願いします」
お馴染みと言えばこの二人、メリコとプラネスである。
二人は煙獄楽園と繋がりを持ち、特にメリコは煙獄楽園でミアとばったり会ってしまっている。けれど、ミアが記憶を失っているおかげで、未だに繋がりがあった事が天翼会に知られていなかった。
そんな二人が自己紹介を終えると、いよいよ試合開始の時間がくる。試合開始を知らせる鐘が鳴り、メリコが試合開始を叫んで観戦会場に声を響かせた。
◇◇◇
『試合開始だああああ!!』
「っ! ……すっごいのう。試合開始とここまで聞こえてきたのじゃ」
「はい。会場から随分遠いのですけど、とても凄い声量ですね」
「いやいや。アレは拡声器を使ってるだけだろ」
所変わってチェラズスフロウレス寮の玄関前。
ミアとネモフィラとルーサはここまで届いたメリコの声を聞いて感想を述べていた。三人の様子に緊張は無く、とても穏やか……と言うか、のんびりしている。因みに、彼女たちの目の前では他の生徒等が気合を入れて盛り上がっていたり、緊張から顔色を悪くしていたりと色んな顔を見せている。
「以前に水の国と決闘試合をした時と違って、今回は寮の前のここが拠点なのは少し心許ないですね」
そう告げたのはユーリィだ。因みに今回の彼女はミアの護衛を任されていて、そのサポートとしてニリンが隣に立っていた。
さて、それはそうと今大会の一試合目の拠点だが、寮の前に作られている。作られていると言っても簡易なもので、運動会などで見かけるテントのみ。今回は五つの宝を奪い合い、その中に集めるのである。
だから、ユーリィが心許ないと言ったのも納得の理由だった。
「ワシとしては見晴らしがよくて良いのじゃ。これだけ雪で真っ白なのじゃ。誰かが来れば直ぐに分かるしのう。それに天翼会の制服は魔法で暖房機能が付いていて暖かいから快適なのじゃ」
「おい。それってお前と王女様だけだろ。オレ達は結構本気で寒いんだぞ。今日は気温がマイナス七度だって話だし……」
「うふふ」
ネモフィラが可笑しそうに笑みを見せて、ルーサが不満気な顔をミアに向ける。でも、ミアは気にしない。
雪の積もった真っ白な大地を踏みしめて、宝を探しに行く仲間の生徒たち。ミアはその後ろ姿をのんびりと眺め乍ら、少し大きめに息を吸って、わざと「はあ」と白い息を吐き出した。




