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聖女の過去(9)

「またここで会えるとは思っていたけど、まさかまたこの時間だなんてね。君もりないなあ」


 深夜にこっそりお出掛けしたワシは、海が見える背の高い丘の上でジェンティーレさんに再会したのじゃ。何となく散歩していただけなのじゃが、どうやらワシとジェンティーレさんはこの丘でいつもあっていたらしい。しかし、一つ訂正させる必要があるのじゃ。


「懲りないとは人聞きが悪いのじゃ。記憶を失う前の事は知らぬが、ワシが家を抜け出したのは今日が初めてじゃ」

「ははは。ごめんごめん。そうだね。でも、よく抜け出せたね」

「……うむ。大変だったのじゃ。寝る時は必ず母上と父上の間に挟まれて、更に二人の腕とワシの腕に紐がくくり付けられておってのう。しかも頑丈に紐が縛られておって、めちゃんこ苦労したのじゃ」

「よっぽど心配だって事だろ? 良いご両親じゃないか」

「ぬう。限度があるのじゃ」


 少し疲れた顔して言ってみせると、ジェンティーレさんは可笑しそうに笑ったのじゃ。

 やはりワシは言われた通り記憶喪失なのかのう? 初めて見る笑顔の筈じゃが、その笑顔を見ると妙に嬉しくなったのじゃ。ワシとジェンティーレさんは友人だったのやもしれぬ。っと、そうじゃ。


「それはそうと久しぶりじゃのう。名はジェンティーレさんで合っておるのじゃ?」

「うん。君にはジェティって呼ばれていたよ。ミア」

「ふむ。ジェティじゃな」


 ワシはジェティと微笑み合ったのじゃ。すると、ジェティは「そうだ」と何かを思い出したかのように表情を変えて、見た事も無い真っ白で半透明の球を取り出したのじゃ。

 じゃが、球はボーリングのボールと同じサイズの大きさで、いったい何処に隠し持っていたのか、ワシはそこが気になったのじゃ。ワシがそんな事を気にしておると、ジェティはそれをワシに差し出したので、重そうだと思い乍らも一先ず受け取ったのじゃ。

 しかし驚いたんじゃが、これが見た目の大きさほど重くないのじゃ。むしろ一歳児のワシの腕力でも軽いと思える程じゃ。それに柔らかくて温かく、つやのある見た目のわりには動物のお腹を触っているようなモフみのある幸せな手触りじゃ。なんとも不思議な丸い球に、ワシは抱きしめずにはいられないのじゃ。


「それは魔装ウェポンよ。この前君にもって、それは……ええと……」

「ジェティ?」

「ごめん。とにかく、それに魔力を籠め乍ら、自分の手足となる武器を想像してみて? 君が思い描く通りの武器が生まれるから」

「ふむ。武器……」


 武器よりペットがほしいのじゃ。

 そんな事を思い乍ら、ワシは魔力を込めたのじゃ。あれ? ワシは何で魔力なんて不思議な力を使えるのじゃ? これも記憶を無くす前に出来ていた事かのう。不思議じゃ。

 お。そうこう考えている内に姿が変わったのじゃ。


「…………あの、ね。一つ聞いて良い?」

「なんじゃ?」

「何でうさぎ? しかも耳が翼の形をしてる。見た事の無い姿のうさぎだけど、君の前世にはこう言ううさぎがいたの?」

「おらん。これはワシの妄想した可愛いうさぎじゃ」

「…………」

「うむうむ。中々よく出来ておるではないか。決めた。お主は今日からミミミじゃ」

「ぶー」

「おお。よしよし。気に入ったか。可愛い子じゃのう」

「ぶー」

「……え? うさぎって鳴くんだ……」


 やっぱり武器なんかよりうさぎの方が可愛くて良いのじゃ。しかし、実はこれだけでは無いのじゃ。


「ミミミ、戦闘モードに移行じゃ」


 ワシがそう言うと、ミミミはピストルの形に変形したのじゃ。

 ふっふっふっ。やはり変形は外せぬ。おとこのロマンなのじゃ。


「うそ……でしょ…………っ!?」

「これで狙った獲物を撃てば、弾が獲物を追尾してくれる――って、どうしたのじゃ?」

「どうしたのじゃ。じゃない! こんな、こんなの前代未聞だ! 凄いよミア! 君は天才だ!」

「どうしたんじゃ急に」

「君のおかげで新しい道が開けたんだよ! そうだったんだ! 一つの考えに縛られていたんだ! 今まで悩んでいたのが馬鹿みたいだ! 君のおかげだよ! ミア! ありがとう! 命も! 悩みも! 全部君に救われたんだ! 君は私の救世主だよ!」

「のじゃ?」


 よく分からぬが、ジェティはめちゃんこ喜んでワシに感謝したのじゃ。

 そして、何故かミミミは“羽ウサギ(ホーミングトリガー)”と名付けられてしまったのじゃ。ぐぬぬう。せぬ。ミミミはミミミなのじゃ!

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