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聖女の過去(6)

 深夜になると、ワシはいつも通り家を抜け出してジェティに会いに行ったのじゃ。

 しかし、この日はいつもと違ったのじゃ。ジェティはいつもの丘の上にはおらず、代わりに村の騎士が数人おった。しかも騎士は誰かを捜しておるようで、それがジェティの事だと気付くにはそんなに時間がかからなかったのじゃ。


「宿の亭主に確認したところ、ドワーフの女の名はジェンティーレ。職業不明のよそ者のようですね」

「いつもここで海を眺めていると目撃情報も確認しました」

「それから妙な情報も入っています。昨夜たまたまここの近くを通り過ぎた男の証言によれば、赤ん坊を連れていたそうです。亭主の話では、ジェンティーレと言う女は受付の際に赤ん坊など連れていないようでした」

「怪しいな。赤ん坊をさらった可能性もあると考えた方がいいだろう。しかし、いったい何処に消えたのだ。まさか我々に気付いて逃げ出した……?」

「可能性はありますね。赤ん坊が無事だと良いのですが……」


 この様に騎士が話し合っていたのじゃ。因みに赤ん坊はワシの事じゃろう。心配せんでもこの通りぴんぴんしとる。……などと考えておる場合でも無いのう。

 これって、つまりはジェティまで行方不明と言う事じゃ。ううむ……。一先ず捜しに行ってみるのじゃ。


「流石に村にはおらんじゃろうし……む? ふむ。これは……動物の毛なのじゃ?」


 何かが落ちているのが見えて光で照らしてみると、抜け毛の季節になるとよくみる動物の毛の塊だったのじゃ。

 前世ではワシもよくペット達のブラッシングをしていたおったのう。何を隠そう子や孫や曾孫にブラッシングのテクを伝授したのはワシじゃ。

 しかし、不思議じゃのう。ここは年がら年中ずっと春の“春の国チェラズスフロウレス”じゃ。抜け毛の季節なんて無いんじゃがのう。気候も最近は安定しておるし……むむ?


「この毛……血が混ざっておらぬか?」


 落ちていた毛をよく見ると血が付いておった。

 あそこにおる騎士等は怪我をしておるようにも見えぬし、まさか、ジェティの血なのじゃ……? いやいや。落ち着くのじゃ。

 しかし、もしかすると、あまりのんびりは出来ぬかもしれぬ。念の為にもジェティを急いで捜し出すのじゃ。何か手がかりがあればいのじゃが……。


「隊長殿! 遂に見つけました! ダンデ林に続く血痕がです!」

「ダンデ林に続く血痕だと!?」

「はい。丁度ここから一キロ先の地点に血痕を見つけ、それを辿るとダンデ林に続いていたのです」

「でかした! 今直ぐに向かうぞ!」

「「はっ!」」


 いよいよ雲行きが怪しくなってきたのう。しかし、考えていても仕方が無い。この情報はワシにとってもありがたいのじゃ。


「ワシも森に行ってみるのじゃ」


 そうと決まれば早速向かおうと、ワシは走り出したのじゃ。

 ここからだと森はちょっと遠い所にあるのじゃが、歩いて二時間もかからんから走ればもう少し早く到着するじゃろう。まあ、騎士に見つからぬように注意は必要じゃがのう。

 見つからぬようにする理由は、行方不明者が出ておる事件の犯人にされるかもしれないからとか言う理由では無いぞ。ワシは一歳児じゃからな。こんな赤ん坊同然の子供が犯人などと思う者はおらぬじゃろう。だから、そこは心配しておらぬ。

 ワシが心配しておるのは、見つかったら補導されて、最終的には母上に叱られてしまう事じゃ。母上は怒ると怖いからのう。それだけは勘弁してほしいのじゃ。

 しかし、やはり一歳の体は不便じゃのう。走るにしても大変じゃ。一歩が短いから十メートル走るだけでも大冒険じゃ。

 光る魔石程度の光ならともかく、こんな深夜では聖魔法の光は目立って見つかりそうじゃし、何か良い方法があれば良いのじゃが……。残念だけどワシの頭では良い方法が思いつかぬ。ここは地道に走って……もう疲れたのじゃ。歩く……のじゃ? あれは――


「――コッコーなのじゃ」


 これは運が良いのじゃ。コッコーとはチェラズスフロウレスに生息する体長二メートルもある大きなにわとりじゃ。家畜したコッコーの卵や鳥肉は安価で市場に出回っておる。もちろん野生のコッコーもいるのじゃが、その野生のコッコーの巣を見つけたのじゃ。

 騎士を警戒して少し道から外れて進んだ甲斐があったのう。野生のコッコーの走る速度はおよそ時速五十キロじゃ。前世の車と同じくらいの速さで走れるのじゃ。


「しめしめ。眠っている所で申し訳ないのじゃが、力を貸してもらうのじゃ」

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