聖女の過去(5)
ジェティと出会ってから早一ヶ月。ワシはジェティと深夜の密会を続けておるのじゃ。
どうやらジェティは他所の国の者らしいのじゃが、暫らくはこの国、と言うかこの村に滞在するようじゃ。なんでもスランプ中だから、それを抜け出すまで気分転換をしているようじゃのう。
そんなジェティのスランプ脱出の為に、ワシもここ一ヶ月はお手伝いをしておる。まあ、魔法を見せたり一緒にお出掛けしたりアイデアを出したりする程度じゃがの。それもあって今では仲の良い親友じゃ。ワシの前世の事や今世で手に入れた聖魔法とやらの事も話す程じゃ。
でも、二人で話し合った結果、今後は前世の事は黙っておいた方が良いとワシは判断したのじゃ。何故なら、この世界では転生者なる者がそれなりにおって、それが一部界隈には知れ渡っており狙われてしまうからじゃ。実際に天翼会にもおるらしいのじゃが、狙われぬ為にも基本は黙っておるらしい。
誰に狙われるかって? そんなの決まっておる。金儲けを企む悪い人じゃ。
転生者はワシの様に別の世界から来た者が多く、この世界には無い知識が豊富じゃ。例えば、フライドポテトも元は転生者がこの世界で作ったのが最初らしいのう。つまり、そう言うお金になりそうな知識を狙う者がおるらしく、そ奴等が狙うと言うわけじゃな。だから、基本は黙っておくのが普通な様じゃ。
まあ、それとは関係無しにしても、普通は自分からは話さぬようじゃがのう。その場合の理由は知らぬ。個人の自由じゃ。恐らく気分の問題じゃろう。
うむうむ。あ。今日の野菜炒め美味しいのじゃ。
「ねえ。聞いた? 最近行方不明になる人が増えているって」
「その噂なら聞いたよ。結構騒ぎになっているそうだね」
夕食を家族で食べておると、母上が父上と最近噂になっておる話を始めたのじゃ。何やら物騒な事が起きておるらしく、平和な国の辺境にあるこの村では珍しい事じゃった。
母上と父上の話を聞いてみたところ、一週間前くらいに行方不明者が出て、日に日にそれが増えておるらしい。この村におる国の騎士が警備を強化しておるが、遂に今朝その騎士が一人行方不明になったそうじゃ。
それでいよいよ大騒ぎになっておるようじゃが、ワシは今初めて知ったのじゃ。深夜のお出掛けに備えて、ここ最近の昼間は一歳児らしくずっと昼寝しておるからのう。
「それって最近この村にいるドワーフが怪しいって話だよな」
「む? ドワーフなのじゃ……?」
「うん。そうそう。お兄ちゃん、よく知っているわねえ。ドワーフの女の子よ」
「あれ? 成人している女性と聞いていたけど違ったかな?」
「え? そうだっけ? 見かけた人はとても可愛らしい子だと言っていたけど」
「父さんが正解。ドワーフは大人も身長が低いから、俺等からしたら子供に見えるんだよ」
「あなたも十分子供だけどね」
和気藹々《わきあいあい》とした食事風景。家族みんなで仲良くお話し乍らのいつもの食事。なのじゃが、ワシ的にはそれどころでは無いのじゃ。
そのドワーフの女の子って、どう考えてもジェティしかおらぬのじゃ。ワシが思うに、これは完全に冤罪じゃ。行方不明者の原因がジェティなど絶対にありえぬ。今夜にでもジェティにこの話をして、真犯人を捕まえに行くのじゃ。
「ミア? どうしたの? やっぱり離乳食がいい?」
「このままで良いのじゃ。ハンバーグ美味しいのじゃ」
「そ? それなら良かったわ」
いかんいかん。つい考え事をしてボーっとしておったのじゃ。
とりあえずここは怪しまれぬように食事を楽しむのじゃ。怪しまれて深夜のお出掛けがバレてしまったら困るからのう。
あれで母上は心配性なのじゃ。こっそり出かけておるから、絶対に怒られて暫らく一人になる時間が作れなくなるのじゃ。
「母上のご飯は世界一美味しいのじゃあ! このハンバーグにはシェフにも出せぬ最高の味じゃあ!」
「……ミア。何か隠してない?」
「か、隠してないのじゃ」
何故じゃ? 超絶賛してべた褒めしたのに、めちゃんこ怪しまれたのじゃ。ぐぬぬう……。




