聖女の光
魔装【羽ウサギ】改め通称ミミミは、ミアの力を抑える役目も果たしていた。ミアはミミミを使う事で自信の魔力を制御して、その力を出し過ぎないように抑えていたのだ。しかし、ミミミを神王の攻撃で失ってしまった。
ミアの全身から放たれた白金の光は、まるでそこに聖女がいるのだと知らしめるように世界に広がり、そしてミアの中へと戻っていく。すると、それに合わせるようにミアの金髪の髪が白金に染まり、瞳も白金に淡く輝き始めた。
ジェンティーレは地面に両膝を落とし、もう止められない。遅かったのだ。と、絶望した。
そして、自身の髪や瞳が完全に白金に染まると、ミアは随分と落ち着いた様子で神王を見た。
「やってくれたのう。まさかミミミを殺されるとはなのじゃ」
「それが貴殿の本来の姿か?」
「そのようじゃな。ワシも今思いだしたのじゃ」
「何……?」
「まあ、そんな事はどうでも良いではないか。それよりも、この状態だとワシは加減が出来ぬのじゃ。出来れば勝負せずに終わりたいのじゃが、諦めてはくれぬか?」
「加減? 私を心配しているのか? 甘いな」
「別にお主の心配なぞしておらぬのじゃ。加減が出来ぬとワシは力を使う度に記憶をその分だけ失うのじゃ。厄介な事にミミミがいなくなったから、もう失った記憶を補う術も無いのじゃ」
「ほう。その報告は受けていたが……。詫びよう。それは申し訳ない事をした。だが、出来ぬ相談だな。私は貴殿の力の解放を待っていた。その何ものにも縛られない力の解放を」
「ぬう。お主、本当に厄介じゃのう。ワシはお主の事が嫌いじゃ」
「好きか嫌いかなど、くだらない考えだ。しかし、私は貴殿に期待している。好きと言うものかもしれないな」
神王が口角を上げて微笑み、それを見たミアは目を点にして少し驚いた。
そして、二人の距離は二メートル程度。とても近く、手を伸ばせば届きそうな距離にいる。同時に動くには、理由はいらなかった。
「ミア! やめてくれえええ!」
ジェンティーレが叫び、しかし、その声は届かない。ミアは失ったミミミの代わりに白金に光り輝く銃を生成して構え、神王目掛けて白金の弾丸を撃つ。
神王は大鎌を振るい、それを斬り裂いた……いや。少し違う。確かに斬り裂いたけれど、白金の弾丸は斬り裂かれたと同時と思える程の速さで斬り裂かれた場所を修復して、速度を落とさず神王の頭を掠ったのだ。
直撃せずに頭を掠ったのは軌道がずれたからでは無く、単純に神王が危険を察知して回避行動に移ったから。神王を護る結界が弾丸を遅らせていなければ、そして神王の回避行動が少しでも遅れていたら、決着は既についていただろう。
「この力……っ! 速さは!」
神王が初めて驚いた顔を見せ、そしてミアから遠ざかる。
「やはり追尾機能が無いのだけは少々面倒じゃ。しかし、結界は力推しで破れそうじゃ」
「――っ!」
ミアから遠ざかった神王は再び驚き、大鎌を前に出して防御の姿勢をとった。何故ならば、遠ざかった筈のミアは気が付けば目の前にいて、今度は白金に輝く棒状のものを振るっていたからだ。
そう。既に振るわれた後。回避行動は間に合わないと神王が考えるより先に体を動かした結果である。
そしてそれは正解だ。大鎌は紙をハサミで切るように簡単に真っ二つにされたけれど、それでも多少の威力を抑えれた。腹にミアの攻撃を受けて、そのまま吹っ飛び、神王は直ぐに背後に魔法陣を展開して自分の体を受け止めさせる。
「想像以上だ。これが聖女の本当の力」
「もう十分だろ! ミア! 力を使うのをやめるんだ!」
「この力があれば世界を――」
ジェンティーレの叫びが悲しみで溢れていた。でも、ミアは止まらない。神王の言葉を遮るようにして、ミアの右手から白金に光り輝く光線が放たれ、それが神王の全身ごと撃ち抜いた。
「っがふ…………っ」
神王は血反吐を吐き出して白目を剥き、その場で気を失って倒れた。あれ程に苦戦を強いられていた神王を相手に、ミミミと言う制御が無くなった途端に、まるで赤子の手をひねるようにあっという間に決着をつけてしまった。
でも、まだ終わらない。別に気を失った神王に止めを刺すわけでは無い。ミアにはもう一つ、どうしても放っておけない事が残っているのだ。
白金の光の翼を羽ばたかせて宙を舞い、ミアは空高くへと昇っていく。その様子を見上げ乍ら、ジェンティーレは叫ぶ事しか出来ない。
「ミア! 本当にやめてくれ! お願いだ! 全部失うんだよ! 君の思い出を! 全部! ミミミがいない今! もう二度と戻らないんだ!」
「すまぬのう。ジェティ」
聞こえているのに届かない声。ミアは眉尻を下げて、自分の為に涙を流していたジェンティーレに謝罪した。そして、魔力を読み取りネモフィラがいる戦場へと視線を向けて、その姿を見つける。
ネモフィラは今も救援活動を頑張っていて、敵も味方も関係無く傷の手当をしていた。その姿にミアは誇らしくなり、笑みを浮かべた。そして、ミアの全身から白金の光が広がっていき、煙獄楽園の王都だけでなく世界を包み込んだ。
この日、世界は聖女の力によって戦争が終結し、煙獄楽園の悪行で魔宝帝国の襲撃事件からの犠牲者全てが甦る。世界中の人々が聖女の力に歓喜し、そして――
「フィーラ。今までありがとうなのじゃ」
――その言葉を最後に、聖女ミアの記憶は完全に消滅した。
第十章 終了
次回からはいつもと違い、本編では無く幕間の章が始まります。




