侍従達の戦場(2)
「な……にが…………っ!?」
「“飛翔の太刀”。単純で地味だけど威力はご覧の通りだ。その衣に感謝しろ。それが無ければお前の胴体は真っ二つに斬り裂かれていた」
「……く…………っ貴様の方が、強き者だったと言う事……か…………っ」
クライガーはその場に倒れ、意識を失う。
しかし、直後にヒルグラッセも膝をつき、息を荒げて苦しそうな表情を見せた。彼女が放った飛翔の太刀は、それ程に疲労が激しく、危険な技なのである。
この技はミアが煙獄楽園に連れて行かれてから、ヒルグラッセがミアの弟子になったヒエンに頼み、その伝手で侍王テンシュに弟子入りして取得した技だ。ヒルグラッセが短期間でここまで強くなったのは、あの光速で動く摂政ラファトを相手に余裕を見せたテンシュに鍛えられたおかげだった。とは言え、本当に短期間なだけあり、まだまだ鍛錬は足りていない。強力な技を繰り出せば、こうして動けなくなってもおかしくは無いのである。
「う、嘘だろ!? 土の天爵が……っ! 鋼砕の虎王様が負けたなんて!」
「た、退避いいいいいい! 退けえええええええ!」
「うわあああああああああああ!!」
「たす、助けてくれえええええええええ!!」
クライガーが気を失うと、それを知った敵の騎士が怯え、退避の言葉と共に逃げ惑う。数では完全に負けていた戦いだったけれど、ヒルグラッセが大将戦に勝利した事で崩壊したようだ。その逃げ惑う姿は精鋭騎士とは思えない程だったけれど、それだけクライガーが圧倒的強さで彼等をまとめ上げていたと言う事でもある。そんな彼を倒したのだから、騎士たちにはヒルグラッセが恐ろしい化け物に見えている事だろう。
「お疲れ様と言いたい所だけど、まだ休んでいる暇はないわよ」
「分かってるよ。ルニィ」
膝をついて息切れを起こしているヒルグラッセに、ルニィが近づいて手を差し出す。ヒルグラッセはそれを掴んで立ち上がり苦笑した。
◇◇◇
所変わって王都の北側。ここでは妙な戦い? が繰り広げられていた。
「だあかあらあ! フォーレリーナ! 今は貴女達の仲間割れに付き合ってる暇は無いって言ってるでしょう!?」
「サンビタリア先生! そんな酷い事は言わないで手伝って下さいよお! この人本当に化け物みたいに強くて怖いんですう!」
「ふ、二人とも今は言い争ってる場合じゃな――うきゃああ!」
サンビタリアとフォーレリーナが言い合い、それを止めようとしているブラキ。そして今、ブラキを襲ったのは、この国の宰相リーガ=ブールが放った真っ黒な球体だ。ブラキはそれを慌てて避け、真っ黒な球体はそのまま通り過ぎると、背後にあった民家を一つ消滅させて消え去った。
「ひいいい!」
民家が消滅するとブラキが半泣きし乍ら悲鳴を上げ、サンビタリアはリーガを睨んだ。
「貴方! この国の宰相と言ったわね? 今は取り込み中なの。邪魔しないでくれないかしら?」
「邪魔? それはおかしな話だ。と言える。水の天爵である彼女に先に用があったのは私であって貴様等では無い。邪魔をしているのは果たしてどちらか? 言うまでもないだろう」
「その水の天爵が私達に絡んできたのよ! それを貴方に返すと言ってるのだから、それを邪魔するなと言っているの!」
「それは必要無い事だ。始めから貴様等も殺す予定だった。それを考えれば、同時にここで始末する事は実に効率的ではないだろうか」
「ああっもう! この男と話していると頭に血が登るわね。段々と腹が立ってきたわ」
サンビタリアの目は更に鋭くなり、ブラキが頭を抱えたくなるくらいには絶望する。そして、フォーレリーナは目を輝かせ、サンビタリアの腕を組み乍らリーガに指をさした。
「そうです! やっちゃいましょう! サンビタリア先生! 私がミアちゃんは可愛いから酷い目に合わせたくないって邪魔しただけで怒るような宰相なんて、一緒に懲らしめちゃいましょう!」
「仕方が無いわね!」
「えええええ!? 仕方が無くないですよおおお!」
ブラキの頑張りは虚しく、今ここにチェラズスフロウレスの王太子サンビタリアと水の天爵フォーレリーナの共同戦が始まってしまった。




