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TS転生のじゃロリじじい聖女の引きこもり計画  作者: こんぐま
第十章 錬金術と長寿の王
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最後の対談

 煙獄楽園スモークヘブンの王城内、神王の寝室。そこは精鋭騎士によって厳重に守られていて誰一人とて侵入など出来ない。しかし、今その場所には騎士の一人もいなかった。襲われたわけでは無い。人払いがされているからだ。そしてその理由は、とある人物を招く為だった。


「久しいな。精霊神殿」

「ああ。そうだな。モークス」


 神王の言葉に、机の上に座る精霊が答えた。そしてこの精霊こそが、神王が招き入れた相手、天翼会の会長である手の平サイズの二頭身“精霊神”ヒロである。

 ヒロが答えると、神王は椅子に座り、紅茶を一口分だけ口に含む。その動作は、紅茶を飲むだけなのに美しく、王の品格が感じられる。ただ、部屋の中は和やかなムードが流れているわけでは無い。今この部屋には二人しかおらず、張り詰めた空気が流れていた。


「それも久しく聞く名だ。私の事は皆が神王と呼ぶからな」

「俺はお前を神だなんて思ってないからな」

「そうだろうな」


 張り詰めた空気が消えて、まるで旧友と話をするように神王は笑みを見せる。ヒロはそれを笑みで返し、目の前に出されていた精霊用のコップに注がれた紅茶を飲んだ。でも、直ぐに眉尻を上げて真剣な面持ちになる。


「言わなくても分かると思うけど、俺がここに来たのは聖女を返してもらう為だ。返してくれるなら今この国を攻め落とそうと侵攻を始めた連合軍を止めてやる」

「脅しか?」

「そう捉えてもらっても構わない。未曾有の異変を防ぐ為には聖女が必要だ。お前にもそれは分かるだろ?」

「当然だ。貴殿等が世界に干渉する前から、私はそれを知っていたからな」

「お前が持つ二つの能力スキルの内の一つ……予知夢の力か」

「そう。貴殿よりも正確に未来を見る私の力だ」


 ヒロと神王が睨み合い、沈黙が流れる。しかし、それもほんの数秒の間だけだ。少し時間が流れると、神王は先程の質問に答えるように言葉を続ける。


「聖女を連れて帰りたいのであれば私を殺す事だ」

「っ! それは……っ」

「それは出来ない。そうだろう? 精霊神」


 神王は立ち上がり、ゆっくりと歩き、扉へ向かう。そして、扉の前で立ち止まると、ヒロに視線を向けずに扉の取っ手を掴んで言葉を続ける。


「貴殿はこの世界に直接的な干渉が出来ない契約を女神と交わしている。貴殿が経営する学園も、協力者達の力を借りて成り立っているだけに過ぎない」

「…………」

「全て私が予知夢で見た事だったが……真実の様だな」

「……そう…………だな」

「貴殿が持つ力には目を見張るものがある。本気を出せば私をこの場で葬り去る事も可能だろう。だが、その契約が邪魔をし、こうして私と会話をする手段しか選べない。交渉など出来る筈も無い。女神との契約は絶対だ。貴殿は人に直接危害を加える事が出来ない。それこそ貴殿が私と対等の立場で話し合えない最大の原因だ。言葉だけでは私は止まらないからだ」


 神王はそこまで告げると扉を開け、ヒロへと視線を向けた。


「お帰り頂こうか。精霊神殿。力を行使出来ない貴殿は私と交渉するには無力に等しい。話し合いは終わりだ」

「モークス。お前は……戦争を望むのか? 大勢の人が死ぬんだぞ」

「人類が生き残る為に必要な事だ。そちら側から仕掛けるのであれば、願ってもない好機ととらえている」

「そうか……」


 ヒロが神王の答えに眉尻を下げて表情を曇らせる。実のところ、ヒロはこの戦争に反対だったのだ。でも、止められなかった。

 ミアを聖女と知る者たちは天翼会にも沢山いるし、チェラズスフロウレスを始めとした各国にも知ってる者が沢山いる。そしてその者たちが聖女を助ける為だと言って声を上げれば、いくら天翼会の会長であるヒロでも止められる筈が無かった。

 ヒロは神王が言うように、この世界の神……女神との契約でこの世界の住民へ直接手を下せない。会って話をする程度なら良いけれど、攻撃等の害を及ぼす事が出来ないのだ。そしてそれはここにはいないもう一人の精霊神シャインも同じだった。

 だから、ヒロは最後の賭けをするつもりで、単身でこの国に潜入して神王との対談に挑んだのだ。でも、結果はご覧のありさまだ。この戦いは脅すような卑怯な手段を使っても止められないのだと思い知らされた。


「モークス。結果は残念な事になったけど、こうしてまたお前と紅茶を楽しめて良かった。またな」

「ああ。私もだよ。だが、もう会う事は無いだろうがな」


 神王の最後のその言葉を聞くと、ヒロは悲しそうに顔を曇らせ、この部屋を出て行った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もう戦いは止まらない。神王を止めないと大変な事になりますね。
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