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第三王女のトラウマ

 サンビタリアが非難の声を浴び、ミアがトイレと言って出て行ってから暫らくが経つ。未だに非難の声は衰《おとろ》えを見せず、サンビタリアは精神的に追い込まれていた。それに、サンビタリアを追いこんだのはそれだけでは無い。ルッキリューナが先導してサンビタリアを縄で縛り上げたのだ。側近のツェーデンが抵抗したが、共犯者だと縄で縛り上げられてしまった。そして、ここにはサンビタリア派の生徒もいたが、止めもせず見ているだけ。


「ネモフィラ様。私達はサンビタリア様をお助けしなくて良いのでしょうか……」


 今まで黙って見ていたリベイアが堪《たま》らず尋ねると、ネモフィラは悲しそうな表情を浮かべて首を横に振るう。


「良くは……無いと思います。だけど、お姉様にされてきた事や、ミアが受けた嫌がらせの数々を考えると助ける気にもなりません。ただ、それとは別で姉妹として庇ってあげたい気持ちもあります。でも……」


 ネモフィラはとても優しい子だ。ミアが城に来る前にサンビタリアから元々嫌がらせを受けていたのは、他の誰でも無いネモフィラだった。それにも関わらず、姉妹と言う家族の感情がネモフィラを次第にそう思わせていた。だけど、まだ幼い五歳のネモフィラに出来る事なんてないのだ。それをネモフィラが一番よく分かっていた。


「……わたくしはお姉様を擁護《ようご》できる自信がありません」

「ネモフィラ様……」

「あ、あの……私はよく分からないです……けど、でも、サンビタリア様がお可哀想……です。本当に犯人……なのでしょうか?」

「それは……」


 ネモフィラは胸を張って「もちろん」とは答えられなかった。サンビタリアはリベイアの父親を唆《そそのか》した事がある。あの時はミアがいなければ死んでいた大きな事件になった。だから、流石に犯人では無いだろうと思いたい気持ちがあっても、信じる事が出来ないのだ。寧《むし》ろ、犯人だと言われて“やっぱり”と言う感情の方が実は強かった。


「……わたくしにも――」

「「「きゃあああああああ!!」」」」

「――っ!? なに事ですか!?」


 不意に聞こえた大きな悲鳴。それは一つだけでなく沢山。エントランスホール全体から響き渡り、ネモフィラは驚いて周囲を見回した。


「ネモフィラ様! 大変です! わ、私達の服が……っ!」

「え……? な、無くなっています!」


 何が起こったのか? それは、このエントランスホールに集まる少女の服だけが消えると言う新たな事件だった。サンビタリアと侍従たち以外の、つまりは成人を迎えていない全ての少女たちの服が、一瞬で消え去ってしまったのだ。そして、元々半裸だった少女は全裸になってしまった。


「な、なにが起こったのですか!? 魔法を使っていないのに服が消えてしまいました!」

「ネモフィラ様。一先ずこれを」


 メイクーが自分が着ていた服を直ぐに脱いでネモフィラに羽織らせる。リベイアとミントも服が消えてしまったが、リベイアとミントは服が消えた事に驚きはしたが、まだまだ幼いのでとくに気にした様子は無い。だけど、それはあくまで幼いからだ。このエントランスホールに集まっているのは天翼学園に通う学生たちが殆どで、安全だと思っていたここで服が消えた事で大混乱に陥《おちい》った。そして、混乱の中に生まれた怒りの矛先はサンビタリアだ。


「どうやって私達の服を脱がした!? 言え!」

「私じゃないと言っているでしょう! ルッキリューナがやったのよ!」

「嘘を言うな! 私達をどこまで裏切るつもりよ! アンタだけが服を着ているのが何よりの証拠じゃない!」


 サンビタリアを怒鳴りつけていた少女が剣の形をした魔装《ウェポン》を出現させて、サンビタリアに向かって切っ先を向ける。実際には成人女性は服が消えていなかったが、少女は怒りが頂点に達していて、それを見るだけの心の余裕が無かった。

 流石に止めないと不味い状況にネモフィラは焦った。だけど、ネモフィラではどうにもならず、ただ見ているだけしか出来ない。侍従に助けに行かせても、相手は魔装《ウェポン》を持っているから極めて危険だからだ。そして、ふと思い出してしまう。雑木林で襲われた時の事を。

 圧倒的な力の差で侍従たちが目の前で殺された光景。その光景がフラッシュバックして、ネモフィラは恐怖で震えた。


「ネモフィラ様……?」


 メイクーがネモフィラの異変に気がついて名前を呼ぶと、ネモフィラがハッとなって無理をするような作り笑いをした。しかし、そんな時だった。

 剣を構えた少女が遂に剣を振るおうとした瞬間に、その手に炎の塊が当たって少女は剣を落とす。そしてその直後に、エントランスホール全体に発生する何倍もの重力。騒いでいた少女たちは一瞬でそれどころでは無くなって床に這《は》いずる。唯一その重力を受けていないのは、ネモフィラ達とサンビタリアとルッキリューナだけだった。


「うるせえです。こんなに煩《うるさ》いとお昼寝出来ないです」


 そう言ってこの場に現れたのは、プチおこな冠を頭に乗せた手の平サイズの二頭身。そして、そのプチおこ二頭身を頭に乗せたミアだった。しかし、ミアの侍従の姿は無く、現れたのは二人だけ。でも、それで十分だ。作り笑いだったネモフィラの顔が、ミアの登場でパアッと花が咲くような笑顔に変わる。


「ミア!」

「責任者のラテール先生を連れて来たのじゃ」

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