聖女の同胞と知らされた計画
「素晴らしい! 驚いたよ! まさか一回見ただけでやってみせるとは! 君は逸材だ!」
「照れるのじゃ」
エマティスが錬金術する姿を見て、自分もやってみたいと告げて許可を得たミアは、一度の失敗もせずに成功してみせた。そうしてミアが作り出したのはローラー付きの椅子。座りながら部屋の中を移動出来る優れものである。因みに座り心地を考えて座板にはフカフカのクッションもついている。
ミアが作り出したそれの出来栄えは中々のもので、それも合わせてエマティスは驚き、そして絶賛した。そして、ミアは気分を良くしてチコリーとクリアとムルムルを座らせて、その座り心地を確かめさせる。
「凄いです。流石ミアお嬢様です」
「フカフカだあ。ミアお嬢様! フカフカですよ!」
「こんなの知ったら硬い椅子には戻れないですね~」
(うむうむ。だいたいのコツはつかめたのじゃ。これでこの国に来た一番の目的は果たせたのう。あそこに並べられた料理の調味料等も同じ要領で作れそうじゃし、お手軽に引きこもりに必要な物を作り出せそうじゃ)
おい。こら。もっと大事な目的が他にあるだろ。本当にこのアホ……じゃなくて聖女、ダメダメである。とまあ、そんなミアのダメっぷりに苛立ちを覚えそうなものだけど、心配はご無用。
意外にもミアの妄想を打ち破ったのはエマティスだった。
「さて、ところでミア。どうやら君は私と同じ国の過去を持っているようだね」
「のじゃ? お主もチェラズスフロウレス出身なのじゃ?」
「残念乍ら私にその国の経験は無い。あるのは“日本”と言う国で過ごした過去の経験だ」
「――っ!?」
日本。それはミアが前世で生きた世界で暮らしていた国の名前。
ミアは目を見開く程に驚き、思考が停止した。そんなミアを不気味な笑みでエマティスは目を合わす。
「やっぱりだ。さっきの文字には日本人にしか分からない言葉、略称などが含まれていてね。例えばプレハブ。それにリアタイもそうだ」
「た、確かに光の文字にはそれが書かれておった。しかし、それが何だと言うのじゃ」
「ミア。それが重要なのだよ。実はあの分にはそれ程意味が無い。アレは君が何者なのか探る為のデコイなのだよ。錬金術に使う文字は意味が分からないと成功しないと言う落とし穴があるからね」
「な、なんじゃと!? い、いや。待つのじゃ。そ、そうは言うが、ワシは熟語などは今まで会話で聞いた事もあるのじゃ。それにニュアンスで何となく察しが付くじゃろう?」
「そのニュアンスと言う言葉。この世界では使われていない言葉だ。それに君は意味を理解したようだが、私が先程に述べたデコイもね。」
「のじゃ!?」
ミアは焦り、チコリーとクリアとムルムルに視線を向けた。三人は何を言っているのか分からないと言った顔で、頭にクエスチョンマークを浮かべている。その顔にミアの焦りは更に増す。そして、目の前にいるエマティスが自分と同じ転生者なのだと理解した。
エマティスの狙いは何だと警戒し、ミアは一歩後退る。
「そんなに怯えなくても良い。私はね。ミア。嬉しいのだよ。この世界に自分と同じ境遇者が、同胞がいた事が」
「嬉しい……のじゃ?」
「そう! 嬉しいのだよ! 素晴らしいとは思わないか!? それに君は気が付いていない様だが、この世界には我々と同じ境遇の者が他にもいる! その痕跡が文明を築き、今の世を作り出す糧となっている! 我々の文化、文明はこの世界でも新たな発見として芽吹き意味を成し、魔法と言う新たな可能性と混ざり合い、進化しているのだよ! 実に素晴らしい!! 私はこの世界に生まれた事を幸運に思っている! そして、仲間がいた事をこんなにも嬉しいとは思わなかったよ!」
「……ふ、ふむ」
(こ奴、思っていたよりも単純かもしれぬのじゃ……)
警戒してみたものの、それが必要無さそうでミアは拍子抜けして警戒を解く。
エマティスはミアの正体を知り、何か良からぬことをしようと考えているのではなく、ただ同胞がいて喜んでいるだけだったのだ。
「しかし、残念だ。そもそも私が君の事を知ったきっかけは、君を殺すであろう聖女“魔女化計画”だった。その計画の為に君を調べた。君の口調、知識、行動、そのどれもが幼い君の見た目には適さない長い経験からくるだろう本質。長い時間をかけて、それ等を君から直接聞きたかったのだがね」
「魔女化計画……なのじゃ? それはなんじゃ?」
いつもの拒否反応が出て、聖女の部分は聞こえなかったミアが魔女化計画と言う部分だけに反応する。が、そんな事はどうでもいいとして、魔女化計画についてはミアは初耳だ。疑問に思うのも当然だろう。
ミアが質問すると、エマティスはつまらなそうな瞳をして、一つため息を吐き出してから答える。
「君に特別な魔従の卵を埋め込む計画……魔従の卵の最終目的だよ」
「お断りじゃ」




