激動する鬼ごっこ(3)
ミアは気が付いていなかったようだけれど、ガルーダの襲撃を受けた被害者を何度も目にしたのは理由がある。それはもちろん茶会の会場へ向かう途中で襲われたのが原因なのだが、その殆どが院長のような平民では無く、貴族の女性だった。貴族の女性と言うだけあり、馬車を使う者が殆どだ。そして、今この国では天井の開けた馬車、オープンカーのような馬車が貴族の間で流行っていて、それを使って移動していたのが理由の一つだった。
空高く舞い上がらず、民家の屋根よりも上を飛ばないガルーダであったが、それでも上から丸見えで誰だか分かる。馬車に乗っている姿が簡単に見えた結果、馬車ごと襲われたのだ。
しかし、トロピカル子爵とその夫人は違う。歩いている所を狙われた。ここでの問題は何故この二人が歩いていたかだが、答えは簡単だ。
「旦那様! 奥方様! 早く中へ!」
トロピカル子爵の使用人と思わしき男が二人を急がせ、屋敷の中へと避難させる。
そう。つまりここは茶会の会場。ミアはいつの間にか会場まで来ていて、馬車を降りて会場の中に入ろうとしていたトロピカル子爵たちと出くわしたのだ。そして、それが最悪な状況を生み出そうとしていた。
「観念するのじゃ」
漸く自分と向かい合ったガルーダを睨み、ミミミピストルの銃口を向ける。しかし、これはガルーダの罠だった。ガルーダは向かい合ったと見せかけて、翼を羽ばたかせて物凄い勢いで後ろへと飛翔したのだ。
ミアは油断してしまい、それを見て驚いたものの、一拍遅れて直ぐに発砲。炎の弾丸を撃つが、それは突風で防がれてしまい、ガルーダが屋敷の中へと入ってしまった。
「のじゃああ! 追うのじゃ!」
そう言って透かさずボードに再び乗ろうとしたミアだったけれど、それが失敗だった。ミアの行動を見越してガルーダが屋敷の中から風の刃を放っていたのだ。
「これは不味い!」
「の――っじゃあ!?」
ミアよりも先に風の刃に気が付いたエマティスがボードから飛び降り、ミアも慌てて飛び降りたけれど、ボードの上に院長の魂が入ったぬいぐるみが置いたままだった。風の刃は無慈悲にもぬいぐるみ諸共にボードを襲い、ボードとぬいぐるみが真っ二つに斬り裂かけれしまう。
ミアはその瞬間を見てしまい、顔を真っ青にして焦りに焦った。が、もう遅い。ぬいぐるみは顔と胴体が完全に分離してしまい、見るも無残な姿へとなってしまった。
「ぬおおおお! 院長うううう! すまぬのじゃああああ!!」
「え、ええ。良いのよ。それに貴女のせいではないわよ。ミア」
「――っのじゃ!?」
ミアは号泣しながら院長に謝罪したけれど、直ぐに返事がきて涙が止まる。その声に驚き実は無事だったのかと視線を向ければ、院長は間違いなく顔と胴体が離れていた。
でも、無事らしい。胴体の方はピクリとも動かなくなったけれど、顔の方は口を動かして「ぬいぐるみで助かったわ」と安堵の息を吐き出していた。そして、そんな彼女を見てエマティスの顔が喜びで満ち溢れる。
「素晴らしい! これは思わぬ誤算! いいや! 収穫だ! 本来ぬいぐるみに魂を入れた彼女は首を切断されてしまえば死ぬのが道理! しかし、見たまえ! 彼女はこうして今も尚生きている! これは研究の甲斐がありそうだ! 君、今はいったいどう言う体の感覚なのかね!? 首から下の感覚はあるのか私に教えてくれないか!?」
「へ? え、ええと……」
(無事なら良かったのじゃ。……でも、付き合ってられんのじゃ)
首だけになってしまったけれど、それでも無事なら問題は無い。とにかく今はガルーダを追わなければならないのだ。
無事だったとは言え、少し動揺をしている院長にエマティスが質問攻めを始めてしまう。だから、それを見てミアは二人を置いて茶会の会場がある屋敷へと急ぎ、中へと入って行った。




