院長を捜せ(3)
一際大きな錬金術工房の総支配人エマティス=サインドットに免れて、ミアは工房内に入って周囲を見回した。
工房の中は外見通りに広く、そこ等中に錬金術をする為の道具が並べられている。其処彼処に魔法陣が描かれているし、錬金術に使うであろう魔石の類も沢山あった。勿論錬金術をする作業員も沢山いて、多くの者が仕事に勤しんでいるようだ。
ミアはエマティスに連れられ奥へと進んで行き、総支配人用の部屋へと通され、そこでお茶を頂く事になった。
「成る程成る程。では、君が一週間後に見学を予定していた孤児の少女と言う事か」
「うむ。じゃから、今日は見学では無く、院長がここにおると知って迎えに来たのじゃ」
どうやら一週間後にミアが見学に行く話はここの錬金術工房に通っていたようで、それを踏まえて今日ここに来た理由を説明した。すると、エマティスは納得すると同時に修道院の院長の事を思いだし、彼女の事かと気味の悪い笑みを浮かべる。
「フレイ様から預かっていた彼女は君に酷い事をしたと聞いていたけれど、まさか迎えに来るなんてね。修道女にでも頼まれたのかな?」
「そう言うわけでは……む? フレイ? 誰じゃ?」
「おやおや? まさか彼女の名前を知らなかったのかね? しかし、そうか。確か今はダイヤと名乗っていたな」
「ダイヤさんはフレイと言うのじゃ?」
「フレイ=ムーブル。それが元火の天爵である彼女の名前さ。私は彼女が現役の頃の配下なんだよ」
「そうだったんじゃのう」
「さて、それでは本題に――」
エマティスが何かを話そうとした丁度その時だ。扉を叩く音がして、エマティスは言葉を続けず返事をする。すると、エマティスと違いきっちりと白衣を着た男が巨大なぬいぐるみを抱きかかえて部屋に入り、無言でそのぬいぐるみを机の上に置いて去って行く。
最初から最後までずっと無言でいるものだから、ミアは冷や汗を流し、机の上に置かれた大きなぬいぐるみに視線を向けた。
「――入る必要は無いようだ」
「のじゃ?」
「そう言えば君は工房内を見学したいんだったね?」
「う、うむ……。って、それよりもこのぬいぐるみは何じゃ?」
「何って、君が求めていたものだよ。おかしな事を聞く子だな」
「ワシが迎えに来たのはぬいぐるみでは無く院長なのじゃ」
ミアは院長を迎えに来たのであって、ぬいぐるみを貰いに来たわけでは無い。
目の前に置かれた大きなぬいぐるみはデフォルメされた小鳥の姿をしていて確かに可愛い。大きさも五十センチ程あり抱き心地も抜群だろう。持ち帰れば孤児たち、特に女の子たちが喜ぶだろうけど、それとこれとは話が別なのである。
一先ず後で貰って帰っていいか聞いてみようと言う気持ちをミアは心の中にしまい込んで、真剣な面持ちでエマティスを見た。すると、エマティスはそんなミアの心情を知ってか笑みを浮かべて答える。
「だから、これがその院長だよ」
「…………のじゃ?」
「今は眠っていて動かないみたいだけど、時期に目を覚ますだろう」
「…………」
ミアとエマティスが見つめ合う。そして、ミアはぬいぐるみに視線を移し、暫らく見つめるとエマティスへと視線を戻す。
「…………」
「…………」
再び無言で見つめ合う二人。暫らくしてミアは再びぬいぐるみへ視線を戻し、そして、嫌な予感が頭をよぎる。
「ま、まさか……っ」
「お。気が付いたかね? そう。魔従の卵の実験中なのだよ。彼女の体には古の魔従の魂を入れ、卵に彼女の魂を入れずにぬいぐるみに入れてみたんだ。どうなるか楽しみで期待で胸がはち切れそうだとは思わないか!?」
「思わんのじゃあああ! 何やっとんじゃお主! 最っ悪じゃあ!」
まさかの展開。
魔従の卵と言えば、水の国で一悶着あった時にミアが記憶を失ってまで事件を解決した原因の物。あの時の加害者であり被害者とも言える魔従化したオーカは、未だに目を覚まさない。そんな危険な物が今ここで再び使われていると言う事実。ミアが驚くのは無理も無かった。当然チコリーとクリアとムルムルもミアの後ろで驚いている。
しかし、驚いた人物はもう一人いた。
「これは驚いた。この実験の素晴らしさが理解出来ないとは」
「こっちが驚いたのじゃ! 全然素晴らしくないし理解不能じゃ!」




