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TS転生のじゃロリじじい聖女の引きこもり計画  作者: こんぐま
第十章 錬金術と長寿の王
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決闘そっちのけで豚汁が食べたい聖女

 ミアの前に現れた男は土の天爵の一番弟子“地岩ちがんの錬金術師”トンジュールだと名乗り、試験管を幾つも取り出した。試験管はふたがされていて、中には緑やら青やら黄やらの液体が入っている。トンジュールはその内の一つ、緑の液体が入った試験管の蓋をあけ、その液体を石の板が張り巡らされている地面へと垂れ流した。

 緑の液体が地面へと流れ落ちると、液体に触れた石の板から植物の芽が何本も生え、急速に成長していく。その成長速度は目を疑う程に早く、ほんの僅か五秒も経たない内に長さ二メートルの食虫植物へと成長した。いいや。最早それは食虫植物では無い。獲物を挟み込む葉の大きさは軽く一メートルを超えていて、人の子や小動物であれば簡単に呑み込まれてしまうだろう大きさだった。


「出たあ! トンジュール選手の十八番! 食獣草! 食虫植物の種を錬金術で調合して生み出されたモンスター! これまでも何人もの戦士達を死に追い詰めた殺人植物だああ!!」

「おおおお! いけえええ! トンジュール!」

「いいぞ! 貴様に金貨千枚も賭けているんだ! その小娘をなぶり殺せえ!」

「トンジュール! トンジュール! トンジュール」


 メリコの実況を合図に流れるトンジュールコール。闘技場内の熱気は更に増し、観戦する者たちの視線の殆どがトンジュールへと向けられた。そして、その圧倒的な人気とコールに、ミアはごくりと息を呑む。


「ユーリィ。今晩のスープはトン汁が良いのじゃ」


 違いましたごめんなさい。どうでもいい事を考えてました。ミアはすっかりお腹ペコ助である。


「……え? は、はい……? すみません。ミア近衛騎士嬢。トン汁とは何でしょう?」

「なぬ? 知らぬのじゃ? 豚汁の事じゃ」

「豚汁……? 申し訳ございません。分かりません」

「な、なんじゃと……っ!?」

(なんて事じゃ! もしや、この世界にはトン汁が無いのじゃ……っ!?)

「何をごちゃごちゃと喋っている! 死ね! 小娘ども!」


 ミアは驚き、そこへトンジュールが襲いかかる。食獣草の茎が伸びて、ミアを丸ごと挟もうと葉を開けた。そして、トンジュール自身もミアに接近し、その手に持っていた青の液体が入った試験管の蓋を開けて前方へき散らす。

 青い液体は試験管から飛び出て撒き散ると、ほんの一瞬だけ宙で止まり、直後に銃弾の如く勢いで前方へと飛翔する。ユーリィは不意を突かれて焦って目をつぶり、バッテンを描くように上げた腕を顔の前に出したけれど、ミアは冷静だった。


「ミミミ、魔法補助モードに移行じゃ」


 ミミミを魔法補助を得意とする耳が翼の形をしたうさぎの姿へと変身させ、右手を前に出す。腕に装備した七色のブレスレットから炎の魔力を使用して、食獣草を炎で纏い炭へと変え、銃弾の如く飛翔し向かって来た青い液体を炎で撃ち落とした。

 そして、直ぐにミミミを戦闘モードのピストルへと変化させ、攻撃を全て防がれて驚きを見せるトンジュールのひたいに狙いを定め、発砲。トンジュールは土の天爵の一番弟子と名乗るだけあり、直ぐに正気に戻って黄色い液体の入った試験管の蓋を開けて構えた。

 しかし、遅い。ミアは既に発砲しているのだから、構えた時には額にそれを受けていて、白目を剥いてその場に倒れた。


「な、な、な、何が起きたんだああああ!? トンジュール選手が攻撃を仕掛けた直後! 瞬きする間に倒れたあああ!」


 メリコが叫び、闘技場内がどよめく。

 一瞬の出来事だった。その一瞬の全てを見て理解出来た者がどれ程にいるのだろうか? ミアがトンジュールを倒したと理解出来た者は殆どいない。トンジュールに期待し、ミアが今度こそ負けると思い、気が付いたらトンジュールが倒れていた。

 観戦者たちはミアでは無く、トンジュールの周囲を確認し、誰かが隙を狙ったのだと誰かを捜す。しかし、そんな者がいるわけない。見つかるわけが無いその何者かを必死に捜す観戦者たちの姿は、ある者の目には酷く滑稽なものに映った。

 そして、そのある者が観戦者たちと共に驚くメリコへと視線を向ける。


「メリコ。あのミアとか言う子供の仕業だ」


 そう告げたのは土の天爵だ。彼にはミアが何をしたのかが見えていた。


「え!? ミア選手が……っ!? は、話には聞いていましたけど、ここまで……?」

「聞いていた? まあ良い。奴はそれ程の強者だったと言う事だ。プラネス。お前には分かるか?」

「はい。ミア選手の一連の動きがハッキリとではありませんが見えました。解説者としての役目を果たしましょうか?」

「必要無い。観戦者どもは弱き者の集まりだ。あの娘の強さを認めず、他に原因があると思い込む弱者だ。そんな者たちに真実を知る権利は無い」

「承知しました」


 土の天爵はプラネスの返事を聞くと、口角を上げてミアを見た。


「ミア=スカーレット=シダレ。俺は貴様のような強き者を待っていた。勝ち上がってこい。貴様と戦える事を楽しみにしているぞ」

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