聖女が誕生する日(3)
「何故じゃあ!? 母上も知っておろう? ワシはお披露目会に行かずとも、この通り既に魔法が使えるのじゃ!」
ミアが手のひらの上に淡い光の玉を出現させ、母親は「はあ」とため息を吐き出す。ミアは早速母親に相談したけど、この通り撃沈。まあ、当然と言えば当然で、予想通りの展開である。
「賢いあなたなら分かるでしょ? お披露目会は魔法を修得する場ではないの。それに参加は義務なんだから行かなきゃ駄目よ」
「ぬぬう」
ミアが正論を言われてぐぬぬ顔をすると、母親は再びため息を吐き出した。
「いい? ミア。あなたも知っている通り、お披露目会は国が主催するものなの。参加しないと言う事は、国に逆らう事に繋がるのよ。それに今日お披露目会に参加しないなら、その代わりに日を改めて王都に行く事になるのよ。そうなると旅費だって安くは済まないんだから」
「分かっておる。病気やケガで不参加の場合は、別の日に王都に行って住民登録をせねばならぬ。しかし、ワシはどうしても今日は行きたくないのじゃ」
「駄目よ。王都まで行くのにいくらかかると思ってるの?」
「ぬ、ぬぬう。ワシと母上か父上の分で二人分じゃし、金貨一枚あれば足りるかのう?」
「足りるわけないでしょ。馬車で行くとして、片道で半月分の旅費が必要になるの。馬車代が銀貨十枚と銅貨五十枚。宿代が最低でも銀貨六十枚よ」
「な、なんじゃと!? それはおかしいぞ母上! 馬車代も宿代も高すぎる! それでは往復すると宿代だけで金貨一枚を超えるではないか!? 宿代なぞ一泊で銅貨五十枚あれば十分なのじゃ!」
「それはダンデ村を基準に考えているからでしょう? 王都に行けば物価も上がってしまうわよ」
「ぬぬう。なんと言う事じゃ。そんな大金ワシのお小遣いでは払えぬぞ」
「あなたのお小遣いどころか、この家には金貨一枚すらないわよ」
この世界の通貨を日本の通貨に例えると、銅貨一枚百円で、銀貨一枚一万円で、金貨一枚で百万円である。
ミアの住むこのダンデ村は物価が安く、馬車代も二人で銅貨十枚あれば何処にでも行けるし、宿代だって二人で一泊だいたい銅貨五十枚あれば良い所に泊まれる。しかし、母親の言う通り王都に近づけば物価も高くなる。馬車代だって銀貨一枚は必要になるし、宿代なんかは一泊で銀貨十枚は必要になってくるだろう。チェラズスフロウレスと言う国は、それ程に王都と辺境の村とで物価が大きく違うのである。
尚、ミアと母親は自分達二人分でそれだけお金がかかると言っているが、実際は王都に行けば一人分でこの価格である。そして、この世界に子供料金などと言う優しい設定は無い。
「それに食費はどうするの? ちゃんとそこも考えなさい」
「それは魔物を倒して食べれば良かろう。ワシは料理も出来るし、そこは母上も安心するのじゃ」
「私は魔物を食べるなんて嫌よ」
「ぬぬう。で、では父上と一緒に行けば……」
「仕事があるのだから行けるわけが無いでしょう?」
「ぬぬう」
と言うわけで、お披露目会参加は決定。この後ミアはダメ元で父親にもお願いしたが、笑顔で拒否られてしまった。ミアには七歳上の兄もいるので、兄にも頼んだが結果は同じである。と言うか、子供だけで行くのは絶対に駄目だと母親に注意までされた。そうしてミアの健闘は虚しく時間だけが過ぎていき、ついにお披露目会の時間になってしまう。
ミアは嫌々ながらも母親におめかしをさせられて、安物ながらも可愛らしいドレスを身につけた。腰まで届く絹のように綺麗な髪にも、可愛らしいリボンを付けてバッチリだ。普段は兄のおさがりを好んで男の子用の服ばかり着ようとするミアも、元が美少女だからすれ違えば思わず二度見するほどに可愛く仕上がった。
「おお! 本当に可愛いよミア。私の娘じゃないみたいだ」
「あら、あなた。ミアは普段がアレなだけで、素材は良いのだもの。このくらいは当然よ」
「死んだ婆ちゃんから、ご先祖様に他国の王族がいたって聞いた事があったけど、本当だったのかもな」
そんなまさかと思える兄の発言だが、ミアの可愛さはそれを頷いてしまえる程に何処かの国のお姫様のようだった。しかし、残念な事に中身がお爺ちゃんなので、可愛いと褒められてもミアは嬉しくない。それどころか心配事を増やすだけ。
「ぬ、ぬぬう。そこまで言うならそうなのかもしれぬが、お披露目会は婚約者を探す場でもあるのじゃろう? 誰かに婚約を申し込まれないか心配なのじゃが?」
「そう言えばあったなあ。俺のお披露目会の時にも、村長の息子がお披露目会で一番可愛かった女子を婚約者にしてたよ」
「お、恐ろしい。ワシは一生独り身でペットと一緒に余生を過ごすのじゃ。人付き合いなぞ、家族とご近所さまで十分なのじゃ」
「ミアは本当に変わってるな。俺の同年代の女子なんて、貴族に玉の輿を夢見てるのばっかだぜ? 俺なんて今十二だから、十六の成人になるまであと四年だろ? 今の内に婚約者を見つけないとって思ってんのに、同年代の女子は全員頭の中がお花畑で相手にされなくて焦ってんのにさ」
「兄上も大変じゃのう。しかし、そうか。そう言う事であれば、ワシが兄上の婚約者をお披露目会で探して来てあげるのじゃ」
「やめてくれ。なんで七つも下の妹に婚約者を探してもらわなきゃいけないんだよ。流石に恥ずかしいだろ」
「ぬぬう。年下の婚約者を作れるチャンスじゃと言うのに、兄上も変わっておるのう」
「あのなあ。ミアと同年代の子と婚約とか年が離れすぎてるだろ。年下だとしても、せめて二つか三つくらいが良いに決まってるじゃないか。そもそも五歳の女子なんてミアで間に合ってる。そんな面倒なのはこれ以上はいらないぞ」
兄はそう言って凄く面倒臭いものを見る様な目でミアを見たけど、ミアはニコニコしていて気にしていない。と言うのも、何だかんだとこの二人の兄妹はとても仲が良いからだ。兄はこんな事を言ってはいるけど、実際にはいつもミアに優しく甘やかすくらいだった。だから、これは一種のじゃれあいの様なもの。ミアにもそれは分かっているし、特に気にするような事でも無かった。そしてそれは両親も一緒で、二人の会話を聞いても、本当に仲が良いなと思うだけ。
さて、そうしている間にも時間は過ぎていき、お披露目会に行く時間になる。お披露目会に参加出来るのは地域によって変わるのだが、ここダンデ村では主役と保護者の二人だけである。だから、今からお披露目会に向かうのはミアと母親の二人だ。
ミアは家を出ると、逃げないようにと母親と手を繋がされて、少し恥ずかしい気持ちでお披露目会に向かった。




