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「あれ? フィーラ達は父さんと一緒じゃなかったんだね。って、ミアは何かあったの? 凄く泣きそうな顔だけど?」

「人生は色々あるのじゃ……。ですのじゃ」

「人生……?」

「い、色々ありまして。あ。それよりもお兄様。お父様がどうかしたのですか?」


 五歳児が人生について思い悩む姿は奇妙なものだが、まあ、それはミアなのでランタナも深くは考えなかった。と言うわけで、新たなお友達のミントと一緒にチェラズスフロウレス寮まで戻って来ると、ランタナが先に戻っていた。それに、ランタナの側には王妃もいて、ネモフィラが尋ねると王妃が答える。


「寮内で説明を受けていた時は一緒に行動していたのですが、入園式に参加する直前から姿を見ていないのです。入園式の後は幼稚舎まで迎えに行って、あなたと一緒に帰ると言っていたのですけど……」

「そうだったのですね。どうしましょう。知らなかったとはいえ先に帰って来てしまいました」

「それは先に言っておかない国王が悪いじゃろ。気にせんでえのじゃ」

「ふふふ。はい。そうですね」


 落ち込んでいたわりには早くも元気になったミア。結局はいつも通りのミアに、ネモフィラがクスクス笑って同意して、ランタナや王妃も同じようにクスリと笑う。一見とくに問題も無いほがらかな雰囲気だったけど、この会話を聞いていてそう思わない者もいた。それは、やはりと言うべきか、先程お友達になって一緒に帰って来たミントだ。

 ミントはうつむきながらも、ミアに非難の視線を向けている。だけど、そんなに長くは続かない。何故なら、ミントの存在に王妃が気がついたからだ。


「メグナット公爵の息女のミント=メグナットですね。娘のフィーラと仲良くして下さいね」

「っ! は、ははは、はい! み、ミント=メグナットです! こここ、こちらこそよろしくお願い致します!」


 この時のミントはモブや背景のようなもの。王族の会話を邪魔して名乗るなんて恐れ多くて出来やしない。だと言うのに、まさか王妃自らが自分に話しかけてくれるとは思わなかった。

 ミントはミアどころではなくなって慌てて挨拶して、王妃はそれを見て優しく微笑んだ。そして、ランタナもミントに妹をよろしくと挨拶して、ミントが緊張した面持ちで挨拶する。そんなミントの様子を見ながら、ネモフィラはミアにコソコソと話しかけた。


「ミアはお父様に気が付きました? わたくし、式が始まってからも全然分からなかったのです」

「確かおらんかったと思うのじゃ。なんでじゃろなあ?」

「気付かなかったではなくて、いなかった……のですか?」

「うむ。実は国王から頼まれておる事があったのじゃ。それで保護者をチェックしてたのじゃ。国王がいない事に気がついたのはその時じゃな」

「保護者を確認していたのですか? 何を頼まれたのです?」


 ネモフィラが尋ねると、ミアは少し考える。と言うのも、ミアが頼まれていたのは少し危険なお話だから。

 先日、野盗が襲われたと言う事をミアは国王に話していた。ミアはその時に口封じの為にやったのだろうと報告して、魔装ウェポンを使用した可能性が高いから、命を狙われているネモフィラを護る為にも周囲を警戒しておくと伝えている。そして、その時に国王から聖女に頼むのは忍びないがお願いしたいと、頭を下げられて頼まれた。もちろんミアは承諾して、今日の入園式では護衛が少なくなるので要注意だと周囲を警戒していたわけだ。警戒相手は子供達の為に集まった保護者も含まれている。

 この事実をネモフィラに話していいか悩んだのは、ネモフィラにと言うよりは、今この場にはミントを含めた不特定多数の人が集まっていたからだ。チェラズスフロウレスでは王太子候補たちの争いは表沙汰にはなっていない事。だから。ミアはこの場では話さない事にした。


「すまぬが、誰かに聞かれたら面倒な事になるかもしれぬのじゃ。後で説明でも良いかのう?」

「構いません。それにしても、お父様は何処に行かれたのでしょうか?」


 ネモフィラが頷いた後に疑問を口にすると、そこへアンスリウムがやって来た。


「ここにいたのか。捜したぞ」

「アンスリウムお兄様? 授業が終わったのですか?」

「今日の午後の授業は児童部の入学式と後片付けでなくなっていたからな。それよりも、ミア。天翼会がお呼びだ。今直ぐ学園の第一職員室まで連れて来るように頼まれた。そこで父上も待っている」

「っえ!? お父様が!?」

「アンスリウム。それは本当ですか?」

「なんで父さんが……?」


 父親が学園の職員室にいると聞いて、ネモフィラと王妃とランタナや侍従たちが驚いた。すると、アンスリウムは真剣な面持ちで頷く。


「父上は幼稚舎に向かう途中で天翼会の者に捕まったようでな。俺もさっき呼び出しを食らって、この通りお使いだ」

「天翼学園の敷地内では王族の身分が関係ないとは知っておったが、まさか王族を伝令役にするとは驚きなのじゃ」

「今となっては俺も仕方が無いと受け入れている事だが、最初はなれなかったものだ。と、そんな事はどうでもいい。ミア、とにかくついて来てくれ」


 アンスリウムはそう告げると、家族にはとくに何を言う事も無くスタスタと歩き始めた。


「アンスリウムお兄様がみんなが見ている公の場でお母様に見向きもしないなんて……」

「あの様子だと急いでるみたいだね」

「きっと陛下に何かあったのでしょう。ミア、お願いしますね」

「うむ。行って来るのじゃ。ですのじゃ」


 ミアは頷くとアンスリウムの後を追いかけ、ミアの侍従であるルニィもその後に続いた。

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