引きこもり計画前哨戦計画
「今日は大変だったのじゃあ」
「会議お疲れ様でした。天翼会の方々も大変満足されて帰って行かれましたし、陛下にお褒め頂いたのではございませんか?」
「うむ。家族会議でも褒められたのじゃ」
「それはようございました」
ルニィは微笑んでミアの目の前に紅茶を置き、ミアはそれを優雅……とは程遠い一気飲みをする。と言うわけで、明日は天翼学園児童部の試用入園の日だと言うのに、全く礼儀作法やらなんやらが身についていないミア。ルニィは頭を抱えたい気持ちは抑えているが、表情の変わっていないその顔が真っ青である。クリマーテはもう慣れたのか寧ろ顔を逸らして笑いを堪えていて、ヒルグラッセも完全に慣れていて、無表情でそれを見て犬尻尾だって動揺していない。
さて、天翼会のメンバーが来たその日の夜。夕食の後に家族会議をして、ミアは寝室に戻って来るなり疲れていたのもあって気が緩んでいた。そんな事もあり調子に乗っている。
「天翼学園の者達とも顔を合わせた事じゃし、ワシの計画も上手くいったのじゃ。これを機に、三人にはワシの学園での予定を話しておくのじゃ」
「予定……ですか?」
「おお。ミアお嬢様は何かやりたい事があるんですか?」
ルニィが何か嫌な予感がと眉を顰めて、クリマーテが興味津々と笑みを浮かべる。もちろんヒルグラッセは流石なプロなので無表情で話を聞いていてるが、流石に犬尻尾をソワソワとさせていた。そんな中でミアは椅子の上で立ち上がろうとして、ルニィに肩を押さえられて止められたので立たずに宣言する。
「試用入園中はずっと寮に引きこもって、幼稚舎にも通わず一歩も外に出ないで毎日のんびり過ごすのじゃ!」
ドーン! と背景に出てきそうなドヤ顔になるミア。何の為に行くんだよ。とツッコミたくなるアホな発言だが、ミアは大真面目である。
そう。これはミアにとっての【引きこもり計画】の前哨戦。将来のんびり引きこもりスローライフを送る為に考えた最高の作戦なのだ! と言っても、それを知らない侍従たちからしてみれば意味不明である。ルニィとクリマーテとヒルグラッセは三人とも目を点にして、間を置いてからクリマーテだけが笑いを堪えだした。
「あの……ミアお嬢様? 一応我々も今回の試用入園の目的を伺っているのですが、その一つに親の許で暮らす年齢の子供を学園で生活させられるか。と言うものがあります。引きこもっていては、その目的が意味をなしません」
「そんなのは分かっておる。ワシはこうして既に親許を離れておるのじゃ。何も問題がないのじゃ」
「仰りたい事は理解出来ますけど、ミア様の事情は関係無いかと……」
「そんな事は無いのじゃ。これも大事な実験なのじゃ」
ミアが自信あり気に話すので、ルニィはどうしたものかと頭を悩ませる。すると、クリマーテがニコニコと会話に入ってきた。
「確かにミアお嬢様はご両親の許から離れて生活してますもんね。でも、児童部幼稚園組でも色々実験するって聞いてますけど、それも参加しないおつもりなんですか?」
「うむ。それも問題無いのじゃ。プリュイに聞いたのじゃが、基本は絵本を読んだり、外で遊んだり、ご飯を食べてお昼寝したりとするだけらしいのじゃ。確かに何かイベントをするつもりらしいのじゃが、必要であればその時にそれだけ参加すれば良いのじゃ」
「楽しそうですねえ。お勉強もしなくて良いなら、今の生活より気楽なんじゃないですか?」
「それもそうじゃな。いやいや。お主、さては策士じゃな? そう言ってワシを通わせる魂胆じゃろ? ワシは騙されんのじゃ」
「ええー。そんな事無いですよ~」
ミアとクリマーテが呑気に笑い合い、ルニィが片手で頭を抱えて、ヒルグラッセが冷や汗を流す。
「ミアお嬢様には申し訳ございませんが幼稚舎には通って頂きます」
「これはワシの将来の為にも必要な事なのじゃ」
「何がどう将来に必要か存じませんが諦めて下さい」
「ぬぬう。酷いのじゃ。ルニィさんはワシの母上と同レベルの鬼なのじゃ」
「それはとても光栄な事です。それでしたら、これからもミアお嬢様を甘やかさないようにしますね」
「なんでじゃ!?」
「と言いたい所ですけど、幼稚舎にしっかりと通うのであれば、それ以外では引きこもって頂いて構いませんよ」
「お、おおおおおお! 本当なのじゃ!?」
なんと言う見事なアメとムチ。それでは全く引きこもりになれてはいないと言うのに、ルニィの言葉でミアは目を輝かせた。
「はい。もちろんです。幼稚舎から帰って来たら、好きなだけ引きこもって下さい」
「わかったのじゃ!」
満面の笑顔でめちゃくちゃ良い返事をしたミアに、クリマーテが耐えられず口元を押さえて笑い、ヒルグラッセが冷や汗を追加する。こうしてミアはルニィの策略? にハマって、無事に天翼学園児童部の幼稚舎に通う事になった。のだけど、既に決定している事なので何も予定は変わっていない。それに気づかないのは、両手を上げてアホみたいに喜ぶアホなミアだけである。




