第一王女の捜査 後編
サンビタリアとチェリッシュのグループはベギュア等の案内で王宮へとやって来る。
王宮は巻貝の貝殻を幾つも重ねたような大きな建物で、庭園は足の踝程度までの深さの水が張ってあり、芝生や花では無く色鮮やかな珊瑚が綺麗に彩られていた。サンビタリアたちは王宮に入ると直ぐに謁見の間に案内され、王の前まで通される。すると、その際にサンビタリアの侍従やマイルソン含めベギュアたちの侍従は扉の前で待たされることになった。だから、謁見の間に入れたのはサンビタリアとチェリッシュとサリー、そしてベギュアとオーカとフォーレリーナだけだ。
この国の王と言えば、謁見の間まで通されても暫らく待たされることで有名だ。貴族を含め民は全てが自分の下だと見下していて、待たすのが道理と考えているからだ。しかし、今回はそうでは無かった。やはり聖女を相手ともなると、王が待たす側では無く待つ側になるのだなとサンビタリアは感じ乍ら、チェリッシュと共に自己紹介をした。
「チェラズスフロウレスの王太子は第一王女に決まったと耳にしたが、ここに来たと言う事は、やはり聖女様と深い関係にあるからこそ王太子に選ばれたとみて間違い無いようだな」
全然違う。が、否定するのも面倒なので、サンビタリアは無言で笑みだけ作る。
それに、どうせ水の国の王はサンビタリアになど興味が無い。興味があるのは聖女だ。水の国の王は平民差別を放置するような無能な国王だ。残念乍ら国王自身も平民を差別していて、この問題を解決しようと全く考えていない。
そして、この問題を何とも思っていない理由の一つに、古い考えの年寄りと言うのもある。水の国の王は現在七十を超える老人で、古い仕来りを重んじる傾向がある。水の国の歴史は貴族主義の考えを持ち、代わりの利く平民は奴隷のように扱うものだという考えで、それが未だにダイレクトに影響しているのだ。更には、国王の座を息子や孫に明け渡すつもりも今のところ無く、まだまだ自分は現役だと考えている節がある。
まさに老害。国の汚点。そんな言葉が似合う国王で、サンビタリアもそれは理解していた。
水の国の王はサンビタリアに的外れな言葉を告げると、直ぐにチェリッシュへと視線を向け、お会い出来て光栄だとか神々しいお姿だとか色々と話し出した。でも、その方がサンビタリアとしてもありがたい。
チェリッシュと国王の会話を黙って聞き乍ら、サンビタリアは作戦を考える。そして二人の会話に発生する少し間、つまりは話の切りが良い瞬間を見逃さず、サンビタリアは「失礼します」と声を上げた。すると、明らかに邪魔をするなとでも言いたげな顔で「なんだね?」と国王が告げ、サンビタリアは営業スマイルをする。
「聖女様と陛下の会話をこの場で静聴する機会は私にとって貴重であり、とても有意義で価値のある時間です。しかし、私がこの場にいては話せないお話もございましょう。であれば、お二人の会話の邪魔をするのは心が痛み、私の望む所ではございません。ですので、私は席を外したいのですけど、お許し願えますでしょうか?」
「ほう。中々に気が利くではないか。うむ。許す」
「ありがとう存じます。出来れば、時間を潰す為に王宮の中を見物させて頂きたいのですが、よろしいですか?」
「よかろう。気が済むまで見ていくが良い」
「重ね重ね感謝いたします。陛下」
サンビタリアは内心ガッツポーズを取り乍ら、チェリッシュにアイコンタクトで後はよろしくと告げる。チェリッシュは少し困ったように冷や汗を流し乍らも、サンビタリアに頷いた。そうして謁見の間から解放されたサンビタリアは、謁見の間の扉の向こう側で待っていた侍従たちと合流する。
マイルソンを含めベギュアたちの侍従はいなくなっていたので、一先ずこの場で直ぐに作戦を伝える事にした。
「私とブラキで王宮の中を見て回るから、他の皆はここで待機。流石に聖女相手には何もしないと思うけれど、一応何かあった時に対応する為に人数がいた方が良いでしょうしね」
「えっと、何で私だけサンビタリア様と一緒に行動なんですか? ツェーデン様やベネドガディグトル様の方が良いと思うのですけど……」
「調べ物をするのよ。人数は少ない方が動きやすいでしょう? 身辺の世話と護衛を両立出来るのが貴方だけ。それなら連れて行くなら貴方しかいないじゃない。ミアだってそれを見越してこっちに寄こしているのだから当然でしょう?」
「ご、ごもっともです」
と言うわけで、サンビタリアはブラキ以外の侍従たちを残し、王宮探索を開始した。




