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過去の真相(2)

 その日は雨天が続く中で、ようやく晴れ間が見えた日だった。しかし、午後から曇り始め、雨が降って強くなる。キートルハイド家が野盗に襲われた日は、そんな日だった。


「貴女はここで待っていなさい。ここから先は私一人で行き様子を見て来ます」

「な、なりません。アフェクション様。お一人では危険です」

「心配には及びません。彼等の前に出るわけではありませんから」


 キートルハイド家が野盗に襲われ騒々しい声が山に響くと、アフェクションはゼリルをその場に残して先を急いだ。アフェクションがここに来たのは、万が一にでもキートルハイドの誰かが生き残り、真相を調べられて自分が黒幕だと気がつかれては困るからだ。だから、この日はゼリル以外のシスターや牧師たちに雨続きで心配だから聖地の様子を見に行くと告げて、ここまでやって来ていた。そして、アフェクションは運命的な瞬間を目撃する。


「あれは……っ!?」


 それは、野盗から逃げていた少女が崖から落ちた直後の光景。少女が光に包まれて落下速度を落とし、そのまま崖下に無事に着地したのだ。少女は落ちた瞬間には気絶したようだが、しかし、崖から落ちた事で生じる筈の傷は何一つない。怪我をしているけれど、全て野盗に襲われた時の傷と、必死に逃げた時に出来た傷痕に過ぎなかった。

 アフェクションは少女に近づくと歓喜し、この時ばかりは大声で喜びの声を上げたくなった。しかし、アフェクションが少女を抱きかかえた時、ゼリルに雇われていた野盗が現れた。


「おやおや。物騒ですねえ。どう言ったご用件でしょうか?」


 アフェクションが自身を囲む野盗に告げると、野盗が下卑た笑みを浮かべる。そして、その中でも斧を持つ一際大きな男が、アフェクションの前へと躍り出た。


「おい。お前。その娘はキートルハイド家の令嬢だ。こっちに渡して貰おうか?」

「キートルハイド家? 最近名を上げて力を付けてきた成り上がりの貴族ですね」


 アフェクションはとぼけて見せ、不敵に笑みを浮かべる。大男はその笑みに怒りを覚え、いいから渡せと叫んだが、アフェクションは引かなかった。そして、結果は大男が襲いかかり、アフェクションによって息の根を止められる。他の野盗たちも同じだ。襲いかかる者、逃げようとした者、全てがアフェクションによって一瞬で殺され、その場には死体の山が築かれた。

 野盗が全滅し、雨の音だけが聞こえる静寂が訪れる。すると、アフェクションは笑みを浮かべ、少女を抱きかかえたまま歩きだした。


「本当に野蛮な連中だ。この娘の親は……捜す必要はありませんね。どうせ殺されているでしょう。それに、その方が都合が良さそうだ。それから、貴女の名前は“チェリッシュ”にしましょう。私の娘チェリッシュ。ああ。今日はなんと素晴らしい日なのでしょう」


 独り言を呟きながら、アフェクションは歩く。そして、数歩程歩くと、チェリッシュと名付けた少女の顔を見て眠っている事を確認して足を止めた。


「貴女もそう思いませんか? ねえ? ゼリル」


 アフェクションが近くの草むらに向かって話しかけると、ゼリルが草をかき分けて現れる。ゼリルの顔は青く、チェリッシュとアフェクションを交互に見て、息を呑み込む。


「気が付いておられたのですか……?」

「当然です。ですから、態々(わざわざ)する必要のない独り言までしてみせたのです。貴女がどんな反応をするか確かめようと思いましてね」

「…………」


 ゼリルは嫌な予感がしていた。来るなと命じられたにも関わらず様子が気になって来て見れば、そこで目にしたのはアフェクションによる虐殺。アフェクションにそんな力があるとは知らなかったのだ。


「私は貴女に言いましたよね? 来るなと」

「……しかし、私は貴方様が万が一にも襲われた時の為にと……。野盗が貴方様に襲いかかった時に、それを止めようとしたのです」

「知っていましたよ。貴女が出てこようとしたのが見えましたから」

「っ!」

「ですが、その結果はご覧の通りです。貴女は私の力の片鱗・・を見て怖くなり隠れた。違いますか?」

「そ、それは……」

「困るのですよ。ゼリル。何故私が、この娘の親の生存を確認に行かないのか分かりますか?」

「……分かりません」


 ゼリルが首を振ると、アフェクションが底冷えする程に恐ろしい目つきに変わる。ゼリルはその目に恐怖し、身の毛がよだつ。


「簡単な事です。捜さない方が私にとって都合が良いのですよ」

「捜さない方が都合がいい……?」

「そうです。この娘の両親を捜しに行って万が一にも生きていた場合は、この娘を手に入れる為に私が直接殺さなければなりません。そうでなかったとしても、殺人現場にいる所を見られてしまえば私が疑われてしまうでしょう。ならば、明日にでも捜索願いを出した方が都合が良い。どうせ死んでいるでしょうからねえ。ゼリル。勿論、この事を知った貴女もその捜索の対象になるのですよ」

「……え?」


 ゼリルが最後に出した声は、言葉の意味が分からずに出たそんな声だった。何故なら、ゼリルは声を出した直後に野盗のように体を引き裂かれ、真っ二つになって絶命したのだから。


「さて、誰にも見られない内に帰らなくてはなりませんね」


 アフェクションは不気味な笑みを浮かべて歩きだす。チェリッシュを我が子のように大切に優しく抱きかかえ、誰にも見られないようにと、強く降り続けて人気を払ってくれる雨に感謝して。

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