予習の成果
天翼学園の授業は朝の九時から始まり、昼の十四時にその日一日の授業が終わる。授業は一限目から四限目まであり、四十五分の勉強と、十五分の休憩。そして、お昼休みは十一時四十五分から十三時十五分まであり、その長さは一時間三十分。ミアが前世で通っていた日本の学校と比べて、休憩時間が随分と長かった。そんな天翼学園での本格的な授業が、学園に通い始めてから三日目の今日に遂に始まった。
「ごきげんよう。では、魔法の授業を始めます」
教壇の上に立ち、そう告げたのは魔法の先生だ。これから約一週間は各クラスで一日一教科を勉強する事になっていて、ミアのクラスは今日は魔法の授業の日となっていた。そして、魔法の授業を担当しているのはラテール……では無く、別の先生だ。
ただ、ここ天翼学園の担任と言うのは特殊だ。天翼学園の担任は授業中ずっと監視と言う名目で、全ての授業を見守るのだ。だから、ラテールも授業中は勿論教室の一番後ろで……では無く、ミアの頭の上で監視……でも無く、寝ている。そう。寝ている……。と、まあ、寝ているラテールは一先ず気にしない事にして、魔法を教えてくれる先生はドルフィンと言う名の老人男性だ。
全身を包む大きさのフード付きローブをフードを被らずに身に纏い、毛髪の無い頭を光らせるお爺さん。太くて白い眉毛とモサモサの真っ白なお髭。体型は痩せ型で身長は百六十くらい。パッと見が何かの物語に出てきそうな、そんな魔法使いの姿をした先生だ。因みに彼は夏の国オシアナス出身の先生で、こう見えてイルカの魚人。ローブの下にイルカの背びれや尾びれが隠れている。
「この様に、我々人類が誕生したと同時に各々で授かる属性は“火”“水”“風”“土”の四つの属性のいずれかになります」
一限目の授業は魔法の基礎だ。お城で勉強していたミアやネモフィラにとっては今更な事だけど、他の生徒たちからしてみればそうでも無い。勿論二人のように予習をしていた生徒も何人かいるけど、本当に片手で数えれる程度の数だった。
殆どの生徒等はそれを始めて目にして聞き、習う。だから、その目は真剣そのものだった。
「しかし、聖女様が操る“聖”属性の魔法は、この四つの属性全てとは全く別のものになります。何故なら――」
「聖女様が使うのは、この世で最も珍しい二大属性の内の一つ“光”の上位属性だから。ですね? ドルフィン先生」
ドルフィンの説明を遮り、これ見よがしに己の知識を披露するように立ち上がってドヤ顔で説明したのは、カテドールセントの生徒グラックだ。彼はメガネの縁に触れて位置を整えると、ニヤリと笑みを浮かべてネモフィラに視線を向け、目がかち合う。
ネモフィラは先生の説明を邪魔したグラックに驚いて視線を向けたら目が合ってしまったのだけど、目が合った直後にグラックが勝ち誇ったような表情を見せたので、意味が分からず首を傾げた。そしてその隣では、ミアが微笑ましいとでも言いたげな温かな目で彼を見つめていた。
(若いのう。フィーラに対抗心を抱いておるのじゃ)
完全にお爺ちゃんだった。そんなお爺ちゃんなミアは一先ず置いておくとして、周囲の生徒の何人かが「凄い」だの「流石聖奉国」だのと感心しだす。おかげでグラックも気分が良くなり、口角を上げて着席した。
「彼の言う通り“光”属性の上位魔法こそが“聖”属性の魔法です。では、それ以外の上位魔法、属性を……ネモフィラ殿下、答えられますか?」
「――っ」
まさかのご指名にネモフィラは驚いたけれど、それは他の生徒たちもだ。特にグラックは目を見張る程に驚き、その顔を直ぐに怒りへと変えた。そして、ネモフィラが指名されたのが余程気に入らないらしく、今直ぐに抗議しようと口を開け、しかし、出来なかった。何故なら、それよりも早くネモフィラが「はい!」と声を上げたからだ。
「ドルフィン先生が仰った通り、属性には“火”“水”“風”“土”の四つの下位属性と、それから“光”と“闇”の下位属性が存在します。そして、上位属性は光と闇を除いて下位属性一つにつき二つ存在していて、そのどれもが光と闇の属性の影響を受けています」
ネモフィラはそこまで話すと、一度深呼吸して、ミアと目を合わせる。すると、ミアが微笑んでくれたのでネモフィラは口角を上げて、ドルフィンに真っ直ぐと視線を向けて言葉を続けた。
「まず、火の属性には光の影響を受けた“蒼炎”魔法、闇の影響を受けた“黒炎”魔法があります。そして、水属性には“氷”魔法と“毒”魔法。風属性には“嵐”魔法と“雷”魔法。土属性には“生物”魔法と“重力”魔法。闇属性には“滅”魔法があります。それから他にも“無”属性が存在していますが、基本この属性を使える方はいません。この属性には“音魔法”等があって極めて特殊で、でも、使用可能な方が滅多に表れないので未だに解明されていない部分が多く、更に上位の魔法が存在しないと言われています」
全てを言いきり、ネモフィラが少し長めに息を吐き出す。教室内はしんと静まりかえり、そして――
「素晴らしい。ネモフィラ殿下。とてもよく勉強をしていますね」
そして、ドルフィンが笑みながらネモフィラを褒め、他の生徒たちが「おおおおおおおお!」と歓声を上げた。




