貧しい生徒
「ふむふむ。水の国アクアパラダイスの裕福層と貧困層の差が激しいと本で見た事があるが、まさかそこまでとはなのじゃ」
「そうなんだ。新入生の分の食料確保の為に、俺達の様な平民に食わせる食料は無いって今日も取り上げられて、食料を買うお金も無いしよ。何も買えないし食うもんも無いんだ」
「ボクの妹も今日入学したんだけど、新入生なのに食べ物を取り上げられたんだよ」
「だから俺達でどうにかして質素でも良いから食べ物を用意して、歓迎会を開こうと思ったんだ」
水の国アクアパラダイス。そこは水が豊富で豊かな国で、観光名所が幾つもある。様々な種族がその国で生活をしているが、そこでは上流階級の貴族と下流な平民とでは貧富の差が激しいのでも有名だ。平民は奴隷でもないのに馬車馬のように寝る暇も惜しんで働かされ、過労死で息絶える者も多いとされる。そしてそれは改善される事は無く、平民を奴隷のように扱う姿は何度も問題視されていた。
ただ、それさえ無ければ本当に良い国なのも事実で、観光に訪れる客たちもそれが視界に入らなければ問題のある国だと言うのを忘れてしまう。そんな国だった。
そしてその国出身の平民が盗人三人組な彼等だった。彼等の国は昨日から既に寮に集まっていて、昨日の昼には歓迎会を開いていた。そして、昨日この地に訪れた今朝からずっと食事をしていなかった。
「しかし、疑問なんじゃが、これだけ広い畑で何故このパインストロベリーなのじゃ? 他にもあるじゃろう? 向こうに少し行けば色々な野菜があるではないか」
「歓迎会で出されていたのを見て、妹がパインストロベリーを食べてみたいと言っていたんだよ」
「だから、俺達で採って来ようってさ……」
「なるほどなのじゃ。しかし、それならそうと寮長や先生に言えばよいのじゃ。何故盗みなど考えたのじゃ」
「それは……」
ミアの質問に答えられず一人が俯き、もう一人も俯く。すると、一番気が強そうな少年がギリリと歯を食いしばり、拳を作って力を込めた。
「俺達だって学園に来て二年も経ったんだ。その間に一度は相談したさ。でも、あいつ等が先生に相談した事を咎めて、俺達の家族がどうなってもいいのかって脅してきたんだ」
「なぬ?」
「勿論その事も先生に言ったよ。でも、逆効果だった。僕達を苛めていた奴が退学処分になれば、本当に家族が危険な目に合うかもしれなかったんだよ」
「先生に相談したって、所詮は学園の中でしか解決出来ないんだ。国にいる家族は守れない」
「かと言って、俺等が学園を辞めようとすれば、その原因を先生等が知っちまう。そうなったら、結局は一緒なんだ。辞めた後に報復される」
「だから、僕達は卒業するまで我慢するしかないんだよ。妹まで入学してしまって、それだけが心残りだけどね」
「…………」
一通りの説明を終えると、少年たちは再び頭を下げた。だから、見逃してほしいと。ここで会った事、そして、自分たちが食料を盗んでいた事を黙っていてほしいと。しかし、ここで黙って見て見ぬフリをするミアでは無かった。
「お主等、名を聞いておらんかったのう。ワシはチェラズスフロウレス第三王女の近衛騎士ミアじゃ。お主等は?」
「へ? あ、ああ……は!? や、やっぱり春の国の近衛騎士だったのか!?」
「で、でも、なんでその……そんな服装を…………?」
「おい馬鹿。春の国の王女の近衛騎士って言ったら、確か公爵だぞ。そんな口の聞きかたしたら何をされるか……っ」
ミアが名乗ると、途端に慌て出す三人。しかし、仕方が無いだろう。なんせ彼等の国では貴族は逆らってはならない相手。平民である彼等からすれば、貴族で、しかも爵位的には一番偉い公爵と分かったミアには絶対に逆らえないのだ。でも、ミアにはそんなもんどうでも良い程には関係無い。
「心配せんでもワシは元々平民じゃ。公爵とか貴族とか気にせんで話して良いのじゃ」
「も、元平民……?」
「うむ。ワシは実力を買われて第三王女のフィーラの近衛騎士になったのじゃ」
「じゃ、じゃあ、公爵の立場はその時に……?」
「だいたいあってるのじゃ」
あってません。とは言え、訂正するのも説明するのも“聖女”と言う面倒な単語が関わるので、特にする必要も無いだろう。ミアの実力は一年前のルッキリューナとの試合以降この学園でも噂になっている。
おかげで三人は納得し、ミアが貴族らしくないのもあって、元々平民だったのだと理解した。少し親近感が湧いて安心した三人は改めてミアと向かい合い、そして名乗り出た。




