聖女は奴隷を買いあさる
※第六章開幕です。
魔人の国ディアボルスパラダイスには奴隷制度が存在している。しかもそれは国が黙認しているとかでは無く、国が認めた正式なもの。何故そんな酷い制度がと疑問に思う所だけど、それがこの国の常識でルール。
しかし、だからこそ絶対に破ってはいけない決まりがある。それは人攫い等をして奴隷市場に出さない事。奴隷はあくまで罪人や事情を抱えた子供等で、その例外を奴隷にする場合は魔王の許可が必要になる。他国の子等を誘拐して奴隷にするなんてもっての外で、他国籍の者を奴隷として売る場合も魔王の許可が必要だ。しかし、それだって特例でない限りは、基本はまず許可が出ない。
もしそれを守る事が出来ない場合は、罪に問われて死罪となる。だから、余程の馬鹿でも無いかぎりは、死罪なんて言うリスクを背負って決まりを破る者なんていなかった。
それに魔人の国では犯罪者が多い。先日の“聖戦”で分かるように、強制されたわけでもないのに、学生ですら自ら戦争に参加するような民度だ。それは確かに騙されての事だったかもしれないけど、少なくともその場の感情で動き、その後の事を考えない者が多いのも事実だった。と言っても、そう言う者たちばかりと言うわけでも無い。あくまでも感情に流される者が他国と比べて多く、その為にその場の勢いで犯罪をする者も多いと言うだけである。
とまあ、そう言う民度の悪い国だから、治安も勿論悪かった。しかし、魔族は元々自由を好む種族だ。魔族である魔人たちにとってはそれが普通で、他所から見れば治安が悪い国に見えても、自分たちからしたら治安が悪いとは思ってない。他の国から見て、少しズレた感覚の種族が集まった国なのは間違いない。
そしてそんな魔人の国ディアボルスパラダイスの首都の奴隷市場に、ミアはネモフィラやアネモネや侍従たちを引き連れてやって来ていた。
「おお。思っていたよりもしっかりしておるのじゃ」
ミアが目を輝かせて喜び、テテテと走って牢に近づく。そんなミアを冷や汗を流して見る他の面々。正直ミアと同じノリで奴隷たちを見るなんて出来ないが、まあ、奴隷制度をよく思わないので当然だろう。
「奴隷を売っておる場所だから、結構清潔に欠けた汚いイメージを持っておったが綺麗なのじゃ」
奴隷市場をぐるっと見て回り、一番良さそうな店に入ると、そこは奴隷を売っているとは思えない程に清潔で綺麗な場所だった。しっかりと隅々まで掃除が行き届いていて、奴隷が入れられた牢の鉄格子までもが綺麗に磨かれている。牢の中も勿論同じで清潔感があり、布団等も揃っていた。
ただ、牢によって中身に違いがある。比較的に人相の悪い奴隷が入っている牢の中は、トイレがぼっとん便所のようで壁も無く、若干他より汚らしい。逆に子供が入れられた牢の中は、トイレがしっかりとしていて壁もあり、足元だけが見えている。それに布団もフカフカしていた。この違いは罪人かそうでない者の違いである。
ミアは奴隷制度について調べていたので勿論それを理解していて、とくに疑問を抱く事も無く、あっちにこっちにと奴隷の品定めを開始する。しかし、そんなミアに他の者たちはドン引きだった。
「ミア。本当に奴隷を買って帰るのですか……?」
ネモフィラの不安は徐々に増していき、遂にミアにそう尋ねた。のだけど、ミアはとても良い笑顔を向けて「うむ」と頷く。そんなミアの笑顔にネモフィラは諦めて、事の成り行きを見守る事にした。
「決めたのじゃ!」
ミアが奴隷商人に頼んで牢から出されたのは、ミアと同い年くらいの少女が二人と大人の女性が一人。
侍従たちは何となくだけど、選ぶのは少女だけと思っていた。しかし、実際に選んだ奴隷の中には大人の女がいた事に、言葉を失う程に驚いた。それはネモフィラやアネモネも同じで、予想外の選出に驚いて目を丸くする。
ミア以外の全員が驚いている中で、奴隷商人が奴隷たちに自己紹介をするように言い聞かす。そして、奴隷たちの自己紹介で、ネモフィラたちは驚愕の事実を知るのだった。




