最高の助っ人
フラウロスの能力【先見の導火線】は、確かに強力だ。数秒先の未来が見え、それを自分の手で変える事が出来る。しかし、変える事の出来ない未来だってある。それは、自分の力が絶対的に及ばない力でねじ伏せられる場合だ。本気を出したミアにはそれが出来たし、フラウロスは最後の瞬間まで様々なビジョンを見たけど、何をしても未来は変えられなかった。全ての可能性が“敗北”の二文字に支配されていた。最後にはミアの白金の光で自分の持つ最強の攻撃をかき消され、逃げる間もなく撃たれたのだ。
突如として白金の光に包まれた戦場は、この戦いを終結させた。白金の光に包まれた人々とフレイムモールは驚き、動きを止めた。最早誰の目にも闘志は無い。己を包んだ白金の光の出所を探すように周囲を見回す者や、何が起こったのかわけが分からず混乱する者や、ただただ呆然と立ち尽くす者ばかり。その様子に、ミアは「やってしまったのじゃあ」と呟いて、まるで敗北者のように項垂れた。
「今のって……」
「白金の光だ! 白金の光だった!」
「聖女様だ! 聖女様がどこかにいるぞ!」
人々が騒ぎ出して聖女の姿を捜すと、ミアは怯えて丸くなる。“女は覚悟が大事”などと言っていたけど、既に覚悟は折れ曲がっていた。全くもって情けない聖女である。すると、ラテールが呆れた顔してミアに近づいた。
「もう諦めるです。バレるのも時間の問題です」
「嫌なのじゃ。ワシは将来引きこもりたいのじゃ。聖女などになったらそれが出来ぬのじゃ」
「ラテもずっと眠っていたいから気持ちは分かるです。でも、人生諦めも肝心です」
「嫌なのじゃあ」
嫌じゃ嫌じゃと駄々っ子なミアに、ラテールが呆れ乍ら欠伸する。決着がついたからか、ラテールはいつものように眠そうな顔だ。正直ミアの将来にも興味無いと言った感じで、どうでもいいとでも言いたげな顔である。
「おい。もしかして、あの子……あの子じゃないか? あの精霊と一緒にいる女の子……」
「本当だ! まさかあの子が“聖女”様なんじゃ……」
もうおしまいなのじゃ。と、ミアは本気で思った。でも、そんな時だ。戦場の上空に黒い影が現れる。人々はそれを見上げ、そして、その影は一直線にミアの許にやって来て降り立った。
「ミア。ご無事ですか?」
不意に聞こえたのは聞き覚えのある若い女の声。ミアが顔を上げて視線を向けると、そこにはよく知った人物がいた。
「アネモネさん……それに龍神なのじゃ……?」
そう。現れたのは龍神と、龍神に乗ったアネモネ。それに、その後ろにはアネモネの夫ゴーラの姿もあった。ミアが驚いて目をかち合わせると、アネモネは龍神の背中から降りてニッコリと微笑んだ。
「何かお役に立てる事は無いかと参上しました。でも……」
アネモネは周囲を見て、少し残念そうな表情をミアに向ける。
「来るのが遅かったようですね。力になれずに残ね――」
「おおおおお! みんな見ろ! “聖女様の代弁者”様がいらっしゃるぞおお!」
「――んで……え?」
不意に聞こえた誰かのとても大きな声。振り向けば、目立って現れた龍神を見ようと人が集まって来ていて、その内の一人がアネモネを見て驚いていた。そして、その声に他の者たちも驚いた。
「代弁者様!? それは本当か!?」
「間違いない! 俺はブレゴンラスドの首都が溶岩に覆われた時に、その場にいたんだ! あの方が聖女様の力を借りて都を救ったのを俺は見た! あの方は間違いなく聖女様の代弁者様だ! そしてあのドラゴンは龍神、聖女様の代弁者様と同じく聖女様に仕える方だ!」
「じゃ、じゃあ今の光は!?」
「ああ! 聖女様の代弁者様が聖女様に力を借りたに違いない!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」
まさかの展開。なんとも幸運な事に、白金の光が“聖女”では無く“聖女の代弁者”であるアネモネが放ったものだと、周囲の者たちが勘違いしたのだ。これにはミアも目をキョトンとさせて驚いた。アネモネは状況が掴めず、しかし、直ぐに侍たちの会話で全てを察する。するとそこで、ミアがアネモネの両手を取って握った。
「ぬおおおん! 最高の助っ人なのじゃあ! ありがとうなのじゃああ!」
「え? えええ!?」
ミアは号泣しながらアネモネに感謝をして、来ただけで何もしてないので困ってしまうアネモネ。そして近くに戦争の黒幕であるフラウロスが倒れていたので、それを見た事情を何も知らない侍たちが、聖女の代弁者があの少女をフラウロスの魔の手から助けてあげたのだろうと感激する。そんな二人や周囲の様子に苦笑して、ゴーラがアネモネの側に来て、肩に手を置いた。
「どうやら、とても良い時に私達は来たようだね」
「これは……そうなるのでしょうね。でも、複雑な気分です……」
「ぬおおおおん! ありがとうなのじゃあ!」
よっぽど感謝しているのだろう。号泣しながら同じ事しか言わないと言うよりは言えないミア。そしてそれを見て、余程怖い目にあったのだろうと侍たちが勘違いし、代弁者に涙を流して感謝しているミアに「良かったなあ」と温かい眼差しを向ける。
アネモネは困りながらも微笑んでミアを優しく抱きしめて、ゴーラも優しく微笑んだ。
「やれやれです」
ラテールはそう言って眠たそうに欠伸を一つして、ミアの頭の上に乗って眠った。




