突然の来訪者
ミアを狙った毒料理事件が起きてから既に数日が経つ。しかし、捜査は難航していて、結局犯人が分からず保留になっていた。そしてそんな状態で、天翼学園の卒業式と終業式が終わって春休みに入り、第一王子アンスリウムと第一王女サンビタリアと第二王女アネモネが帰って来た。
今日はそのお帰りなさいパーティーの日。ミアとネモフィラの侍従たちがその準備に駆り出されている為、今は二人でお茶をして楽しんでいる。だけど、もちろん護衛はいる。と言っても、それはネモフィラの護衛騎士が一人だけ。その護衛騎士はミアの事情を知るメイクーだ。しかし、この護衛、任務中だと言うのにミアに夢中である。
「ミア様は今日も美しいですね。穴と言う穴から神々しさが溢れ出ています」
「嫌な神々しさなのじゃ。せめて全身からとか言ってほしいのじゃ」
「ふふふ。メイクーはミアに命を助けてもらってから、すっかりミアの虜ですね」
「はい! 早速ミア様の派閥を作りました。もちろん私が記念すべき第一号です」
「それは派閥と言うよりはファンとかそう言うのじゃないかのう?」
「そうとも言います」
「なら、わたくしもミアの派閥に入ります」
「はあ。本気でよしとくれなのじゃ」
「そんな! わたくしの事が嫌いになったのですか!?」
「嫌いになるわけないのじゃ。ワシとフィーラは友達だから、そう言うのではないのじゃ」
「嫌です! わたくしもミアの派閥に入りたいです!」
「ぬ、ぬぬう」
(フィーラは意外と頑固じゃのう。いや。五歳の子供なんてみんなこんなものじゃな。仕方が無いのう)
「例えワシの派閥に入っても、ワシと今まで通りの関係でいれくれるならいいのじゃ」
「嬉しいです! やりましたよ! メイクー!」
「流石はネモフィラ様です」
ネモフィラとメイクーが笑い合う。そんな二人を冷や汗を流してミアは見ていると、ネモフィラが笑顔をキリリと真剣な面持ちに変えて、ミアに視線を移して目がかち合った。
「ミアの派閥に入ったからこそ思うのですけど、ミアだって命を狙われているのだから、ヒルグラッセにパーティーの準備の手伝いをさせるべきではないと思うのです」
「全くです。しかし、残念ながら既に私が訴えて、アンスリウム様とサンビタリア様のお二方に拒否されました。彼女は護られなくても自分で解決出来るから。と、先日の毒料理事件を例に挙げられたのです」
「そんな。あれだってヒルグラッセが気づいてくれたからですのに」
「本当ですよ」
ネモフィラとメイクーが一緒にプンスカ怒る。でも、ミアはのんびりなマイペースだ。ミアは自分の事なのに興味無いと言った感じで、お茶を飲んでホッと一息ついていた。すると、丁度その時部屋の扉が開かれて、サンビタリアが「ごきげんよう」と自分の侍従を二人ほど連れて部屋に入ってきた。
「サンビタリアお姉様……」
やはり、その美貌は母親に似て美しく、現れただけで部屋の空気を華やかに変える。しかし、それは見た目だけ。腰まで届く紫色の髪が綺麗に揺れていようと、キラキラと輝くコバルトブルーの瞳が美しかろうと、中身が中身なだけあってちっとも心を奪われない。サンビタリアは自分の名前を呼んだネモフィラではなく、お茶を飲んでいたミアに視線を向けて笑みを浮かべた。
「ミアが毒の料理を食べてしまったと聞いて心配していたのだけど、元気そうで安心したわ。やっぱり田舎に住んでいただけあって、私達よりも体が丈夫に出来ているのかしら? 羨ましいわ」
「なんじゃ? 心配してくれておったのか。それはありがとうなのじゃ。この通りワシはぴんぴんしておるのじゃ。あ。ですのじゃ」
サンビタリアの遠回しな嫌味っぽいもの言い。だけど、ミアはそれに気づかずに素で返した。と言うか、素で返しすぎて相変わらずの雑な丁寧語である。そして、そんな素でアホなミアの返しを、サンビタリアは嫌み返しと受け取って眉根をピクリと一瞬上げた。
「サンビタリアお姉様、ここへ何しにいらしたのですか?」
「あら? 大事な妹の顔を見に来てはいけないの? ネモフィラったら冷たいのね」
「それは……」
顔も見ないくせによくそんな言葉が出たもんだと言いたくなるが、まだまだ幼いネモフィラにはそこまでの頭が回らず、言い返せずに少し俯いて黙ってしまう。それを見て、メイクーはサンビタリアやその侍従がいる手前声をかけたい気持ちを出来ずに抑えて、ミアとネモフィラの間の背後に立った。これはもちろん二人を同時に護衛する為。サンビタリアは二人の命を狙っている可能性があると考えての判断だ。そしてそんな中、ミアは空気を読めていないのかあえて読まずにいるのか、サンビタリアを笑顔で招く。
「サンビタリア殿下も一緒にお茶するのじゃ」
「……あら? 意外ねえ。ふふふ。それならご一緒させて頂くわ」




