新人不良侍女は気に入らない
「わたくしがチェラズスフロウレスの代表として侍王様とお会いして、ミアが作った薬をお渡しするのですか?」
「うむ。それならワシも目立たぬし、聖女と担ぎ上げられなくて済むのじゃ。それにチェラズスフロウレスの印象も良くなるのじゃ」
「……分かりました。ミアの功績を取ってしまうのは心苦しいですけど、それがミアの為であるなら、わたくしも王女としての役目を果たします」
「ありがとうなのじゃ」
ネモフィラの同意を得ると、ブラキがホッと息を吐き出した。ブラキは提案してみたものの、ミアにもネモフィラにも失礼な事だったかもしれないと改めて思い、ずっと心配していたのである。でも、二人とも特に気にする事無く受け入れてくれたので、良かったと安心したのだ。
「でも、お薬を作って配るなんて、ブラキはよく思いつきましたね? 凄いです」
「へ? あ。いえ。恐縮です」
突然話を振られて、ブラキは少し驚いてかしこまる。ミアとはそれなりに打ち解けているブラキだけど、やはり相手が一国の王女のネモフィラだとまだまだ緊張してしまうのである。
「将軍さんよお。あんたはそれで良いのか?」
「ルーサ。口を慎みなさい。エンゴウ様は貴女が簡単に話をしていいお方ではないわよ」
「止めないで下さいよ侍女長。黙って聞いてられねえんですよ」
「いい加減になさい」
「よい。話を聞こう。しかし、それで良いのかとは、どう言う意味だ?」
「ふん。てめえの国はチェラズスフロウレスからの入国を拒否しているらしいじゃねえか。その入国拒否した連中のボスの片腕が、どの面下げてオレ等に助けを求めて、しかもてめえ等のボスの許に連れて行くんだって話だ」
「ルーサ! 貴女いい加減に――」
「待たれよ。その侍女が言った事は至極当然の話。拙者を非難するのも主であるミアやネモフィラ王女の為だろう。叱ってやるな」
「エンゴウ様……。お気遣い感謝いたします。お見苦しい所をお見せして申し訳ございません」
「よい。それよりも、拙者の方こそ詫びねばならぬな。チェラズスフロウレスの者たちにはとても失礼な事をした。すまん」
エンゴウは頭を深く下げ、それを見て、ネモフィラが慌てて頭を上げさせる。ミアはと言うと、ボソッと「そう言えばモノーケランドに船で行けぬ事を忘れていたのじゃ」なんて事を呑気に呟いている。
ミアは気が付いていなかったけど、実はブレゴンラスドを通ってモノーケランドに来たのは、そうした理由だったのだ。まあ、今更な事なのでどうでもいい事だが。
「改めて頼む。主君とこの国の民の為に、ご助力を願えないだろうか? どうしても許せぬと言うのなら、拙者の命を捧げよう。拙者一人の命とて、侍王の片腕。それなりの価値あるものと自負している。駄目か?」
「駄目なのじゃ」
「っ。そうか……。ミアの存在を知らなかったとはいえ、ミアのいるチェラズスフロウレスを拒んだのも事実。やはり拙者一人の命では償いきれ――」
「違うのじゃ! なんでそんなに誇張した解釈になるのじゃ! お主の命などいらぬと言っておるのじゃ。心配などせずとも、力くらい貸してあげるのじゃ」
「うふふ。ミアの言う通りです。わたくしも微力ながら力をお貸しします。モノーケランドの民の皆さまを一緒に救いましょう」
「――っ! 忝い! 心から感謝する!」
「あ。そのかわり、この借りは何かで返して貰うのじゃ」
ちゃっかりと恩を売ろうとするミア。そんなミアにネモフィラがクスクスと微笑み、エンゴウが目を見張って、直ぐに「必ず」と承諾して苦笑する。背後では頭が痛いと言わんばかりにルニィが額を押さえて、ヒルグラッセが冷や汗を流した。ルーサはまだ気に入らない様子だったけど、それをブラキが宥めた。
こうしてブラキが発案した作戦を実行する事になり、一同はエンゴウの案内で“妖霊の都カピタースペクター”と呼ばれるモノーケランドの都へと向かった。




