聖女の侍従になるなら礼節は大事
プラーテの誕生日パーティーから一夜が明けて、朝食を食べて部屋に戻る途中。ミアはルーサとブラキと再会し、二人をお茶に誘って部屋に招いた。部屋にはネモフィラや侍従たちもいて、そんな中でルーサがミアの護衛騎士になりたいと言い出した。
「え? 本気でワシの護衛騎士になるつもりなのじゃ?」
「おう。だから一緒にオレの糞親父を説得してくれねえか?」
「ぬう……。ワシの護衛は間に合っておるのじゃ」
「かてえ事言うなよ。なあ? ブラキ」
「本人が断ってるし、無理に頼まない方が良いと思うけど……」
「あ゛?」
「ひぅ。ご、ごめんなさい」
ルーサがブラキを睨んで怖がらせると、一部始終を見ていたルニィが「失礼ですが」と珍しく口を挟んで言葉を続ける。
「ミアお嬢様の護衛はヒルグラッセ一人で十分です」
「ちっ。侍女が口出しすんじゃねえよ。礼儀を知らねえのか?」
「お言葉ですが、ミアお嬢様の護衛……つまり侍従になるのであれば、私の指示に従って頂く事になります。本気でなるおつもりなら、既に貴女を採用するかどうかの試験は始まっています。貴女こそ礼儀を弁えるべきではないでしょうか?」
ルーサが言われた意味を理解して黙り込み、ミアが冷や汗を流す。場に流れる空気は重くなり、皆が黙った。すると、重苦しい空気に耐えれず、ネモフィラが「あの……」と声を上げて注目を集めた。
「今はクリマーテがいません。ですので、護衛では無く身辺のお世話をする侍女であれば、補充と言う手段をとるのも良いのではないでしょうか?」
「なるほど。流石はネモフィラ殿下ですね。しかし……」
ルニィがネモフィラの提案に微笑し、直後にルーサに鋭い目つきを向ける。ルーサはそれを睨まれて喧嘩を売られたと捉え、睨み返した。しかし、ここからルニィの本領発揮である。ルーサが睨んだ直後にニッコリと笑みを浮かべて、内から湧き出る凄みを放つ。それは普段ミアやクリマーテが感じるルニィのおっかない一面で、たかが不良少女なルーサでは太刀打ち出来ずに、忽ち顔を青ざめさせた。そして、それを見ていたミアまでもが何故か顔を真っ青にさせる。
「残念ですが、ルーサ様。貴女は不合格です。どうぞ、お引き取り下さいませ」
「な、なんでだよ! 少なくともオレはそこのヒルグラッセって奴より強い! 何が気に食わねえんだ!」
「ハッキリとお答えします。礼儀以前にミアお嬢様へ向けるその態度、その姿勢、その言葉使い、全てにおいて相応しくありません」
「――っな!」
「そちらのブラキ様でしたら、ミアお嬢様の侍従に是非お誘いしたいと存じます」
「――っえ!? 私!?」
「はああああ!? なんでこいつはいいんだよ!?」
「見ても分かりませんか? ブラキ様は今までしっかりと礼節などを学んでこられたのでしょう。隅々までしっかりとそれが行き届いています」
「うむ。言われてみると、ラキは確かに礼儀正しいし、何処に出しても申し分無い振る舞いをしておるのじゃ」
「はい。ラキはよく気が利くようにも見えますし、護衛をするよりも侍従の方が合っているのかもしれませんね」
ミアとネモフィラがルニィに同意し、ブラキが驚きながらも、聖女と王女に褒められた事が嬉しくて喜ぶ。しかし、ルーサは気に入らないご様子である。
「おい! ブラキ! オレとミアの侍従の座を懸けて勝負しろ!」
「えええええ!? む、無理ですよ! 私がルーサ様に勝てるわけがないじゃないですか!」
「うるっせえ! この裏切り者!」
「待ちなさい。例え勝負で勝ったところで、ミアお嬢様の侍従にはなれませんよ」
「なんでだよ! この国では勝った奴が全てだ!」
「ミアお嬢様が所属する国はこの国ではなくチェラズスフロウレスです。この国の法は何の意味も持ちません」
「くそっ」
ルーサが悔しそうに歯を食いしばり、握り拳を作った。するとその時、友を助ける為にブラキがミアに頭を下げる。
「ミアちゃんお願い! ルーサ様を侍従にしてあげて!」
「ぬう。こればかりはワシの一存で決めておるわけではないからのう。ルニィさんを説得するしかないのじゃ」
「そんなあ」
「ブラキ……お前…………。悪い。お前にあたる事無いのにな。すまねえ」
「ルーサ様……。ううん。気にしないで下さい」
ブラキとルーサが微笑み合う。ルーサが漸く反省を見せると、ルニィが「仕方が無いですね」と苦笑した。
「では、こうしましょう。我々は今、ディアボルスパラダイスまでクリマーテを捜しに行くところです。ですので、クリマーテが見つかるまでの間の臨時として、貴女達を雇います。その後も侍従として採用するかどうかは、それまでの頑張り次第に致しましょう」
「――っ!? うっしゃあああ! ありがてえ! 頑張ろうぜ! ブラキ!」
「うん! 良かったね! ルーサ様! 一緒に頑張――え? 私も……?」
斯くして、臨時侍従ルーサが爆誕した。ブラキを添えて……。




