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TS友達

 前世のブラキは、山に囲まれた猿や猪が出る程の田舎村に住んでいた。家族は四人構成で兄が一人。年頃の女の子と言うのもありオシャレも勿論するけれど、アニメやゲームが好きなオタク女子で、兄の影響で百合系の作品が好み。でも、恋愛対象は男子と言う子だった。そんな彼女が高校二年生になったばかりの頃、学校の帰りで事件が起きた。

 オンラインゲームのアプデの日に、早く家に帰りたかった当時のブラキは近道の為に山の中に入って行った。そして、運悪く猪に遭遇して突進され、側に生えていた木の幹に頭を強くぶつけて死亡したのだ。意識を失って気が付けば、この異世界にTS転生していたのだ。そして、ブラキの最悪な第二の人生の幕が開けた。


「前世の記憶をもって生まれた私は、最初は凄くワクワクしてました。でも、それは長く続きませんでした」


 ルーサの親戚で、名のある騎士の家系である公爵家にブラキは生まれた。厳しい家の教育に縛られ、幼少の頃には既に騎士として育てられた。しかし、前世で高二だったとは言え、まだ精神的にも幼い少女だったブラキが耐えられるはずが無かった。だけど、ブレゴンラスドは強者が絶対の国。弱者であるブラキはただ従うしかなかった。でも、辛かったのはそれだけじゃない。


「私は男の子になりきれない自分がいるんです。でも、だからってケーラ様のように女らしくも振る舞えない。凄く中途半端になっちゃいました」


 アニメやゲームが好きなブラキにとって、異世界に転生すること事態は物語の中に入ったようで嬉しくて最初は喜んだ。けど、それも本当に最初だけだった。性別の違いに慣れようと思っても結局は慣れず仕舞いで、厳しい父と母に育てられ、立派な騎士になる為の辛い修行。ブラキ自身が騎士になりたいわけでもないのに。でも、家柄が逃げる事を許さない。従姉いとこのルーサのように革命軍に入ろうと考えた事もあったけど、国の反逆者になる勇気も持てなかった。そんな毎日を過ごしていたある日に、天翼学園の試用入園の話が出た。

 ブラキは騎士の家系でありながらブレゴンラスドの騎士としての力もセンスも全く無く、何か強みがあればと両親は考えた。その結果、父親が試用入園の席を戦いで勝ち取り、ブラキはブレゴンラスド代表の一人に選ばれる。そしてこれはブラキにとって転機だった。


「学園に行って、そこでジャスミン先生に出会えたのは、私にとって凄く幸せな出来事でした」


 今まで暗い表情で自分の過去を話していたブラキの顔が明るくなる。その顔を見れば、一目で伝わるその喜び。ブラキは楽し気に言葉を続け、ミアはそれを聞きる。

 学園に試用入園したブラキは、最初は本当に嫌で嫌で仕方が無かった。親の都合で入園されられ、精神を鍛え直して来いと見送られたからだ。鍛え直すも何も、それを自分自身が全く望んでいない。そしてその感情は日常にも表れていて、いつも下を向いていた。誰とも目を合わさず、暗い表情で毎日を過ごす。不登校をしようと考えた時期もあったけど、それをして家に帰った時、親になんて言われてしまうのかと思うと出来そうにない。心配してくれる友達もいない。でも、そんなブラキを気にかけてくれてる人が現れた。それがジャスミンだった。


「ジャスミン先生は他の寮の先生だけど、私のクラスで何度も授業をしていたので、いつも元気が無い私を気にかけてくれていたみたいです」


 ある日、ジャスミンが学園の調理室にブラキを呼んだ。ジャスミンが自分の精霊たちの為にパンケーキを焼き、それをブラキにも食べさせようとしたのだ。ブラキが戸惑うと、もし悩みがあるなら教えてほしいと言われ、苦笑しながら「このパンケーキで脅されて仕方なく喋るって思えば、少しは気が楽かも」なんて可笑しな言い訳を添えられた。

 ジャスミンは誰が見てもお子さまで、“お子さま先生”と言われる程に幼い見た目。だから、正直言って頼り無さそうな見た目と言える。でも、ブラキはパンケーキを一口食べて、その心の温かさに思わず涙が出た。パンケーキの味は優しさに包まれていて、そしてジャスミンの笑顔がとても温かくて、ブラキの閉じこもっていた感情も少しづつ開け放たれていく。気が付けば、誰にも相談出来なかった転生の事や、家柄に縛られている今の生活をブラキは話していた。

 ジャスミンはそれをあり得ないと笑い飛ばさずに親身になって聞き、相談相手になってくれた。ブラキにとって、それはとても嬉しくて幸せな事だった。今まで抑えていた感情を全部話してしまう程に。結局今の状況を解決する方法は分からない。でも、少しずつでも今の状況を改善していく為に、ジャスミンに相談しながら強くなろうとブラキは思った。


「まだ、男の子として生きていくには辛い事が多いけど、でも、頑張ろうと思いました。だから、その……良かったら、相談相手に……たまに話を聞くだけでも良いので、なってくれませんか?」

「ふむ。それならワシは友達になるのじゃ」

「え……?」

「ワシには秋空のように転々とする繊細な女心と言うものが分からぬし、相談役にはなれぬと思うのじゃ。それに話を聞くだけの関係なんて嫌じゃ。でも、同じTS転生者仲間として友達にはなりたいのじゃ」


 そう言ったミアの顔は、秋空のように爽やかで澄んでいて、とても綺麗で眩しく可愛らしい笑顔だった。その笑顔を見て、ブラキはまた涙を流す。そんなブラキの手をミアが取って握手して、ここに、性別は違えどTS転生者友達が誕生した。

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