TS転生者
ジャスミンがミアを呼び出した目的の一つに、とある人物の相談相手になってあげられるかもしれないと言う考えがあった。そしてそれは、転生者の存在を知っていた理由としては十分なもので、ミアにとっても予想外な出会いとなる。
「今回一緒に同行してくれたから丁度良かったよぉ。改めて自己紹介してくれる? ラキちゃん」
「は、はい」
ある人を紹介したいと言われて畑のど真ん中で待たされて、数分後にジャスミンが連れてやって来たとある人物。それは、なんと今回同行したブレゴンラスドの見習い騎士ブラキ。ミアの二つ上で、ミアの印象では弱々しい雰囲気の男の子。今はまだ見習いとは言え、とても騎士とは思えないような少年である。そんな彼がジャスミンにラキちゃんと言われて、緊張した面持ちでミアの前に出た。
「改めまして、聖女様。ブラキ=O=ジュラです。聖女様と同じ転生者です」
「ワシは聖女では無――っんじゃとお!? お主も転生者なのじゃ!? しかし、そう言う事なら納得なのじゃ。どうりで……」
(転生者と言う存在を知っておったのじゃな。しかし、なるほどのう。龍人で弱々しいからトンペット先生によわゴンと呼ばれておったのか。相談相手と言うのも、ワシが同じ転生者だからじゃろう)
ミアがうんうんと一人で納得していると、ブラキが少しモジモジしながら言葉を続ける。
「実は私、前世では女だったんです」
「ふむふ……むむ? なんじゃと……?」
「それなのに、生まれ変わったら男の子になっちゃってて……。でも、聖女様も転生者だと聞いて安心しました。男の子になんて生まれちゃって、同世代の男子達と話が合わないし困ってたんです」
「ボクは女子と話せば良いって思うけど、よわゴンは今の姿で話しかける度胸がないらしいッス」
「くだらないです」
「そんな事無いんだぞ。アタシも主様に会うまでは人とお話するのが怖かったから、ラキさんの気持ちが分かるんだぞ」
「がお」
「そう言う事だから、ラキちゃんはミアちゃんと違ってTS転生って言う特殊なケースだけど、仲良くしてあげてほしいんだ。それで、時には相談相手として悩みを聞いてあげてほしいの。ミアちゃんって多分だけど、雰囲気から前世はそれなりのお歳かなって思ったし、だから頼りになりそうだもん。ダメかな?」
「だ、駄目では無いのじゃ。けど……」
(ワシ、前世で男だったのじゃが……?)
奇妙な事に、ブラキはミアと同じTS転生者だった。しかし、ミアが男から女になったのに対して、ブラキはその逆で女から男。同じであって同じじゃない。だから、ミアにはブラキの相談役が務まるとは思えなかった。転生経験のある女心なんて分からないのだから。だから、ミアは思った。正直に話そうと。
「すまぬ。ワシは実は前世が男で、そのTS転生と言うやつなのじゃ」
「ぅえ!? そうなの!? 私、てっきりミアちゃんは前世でお婆ちゃんなんだと思ってたよ!」
「お婆ちゃんでは無くてお爺ちゃんなのじゃ。だから、若い女子が好むような話は全然分からぬのじゃ」
「そうだったんだぁ」
「前世年寄りのわりには落ち着きが無いッスね」
「耳が痛いのじゃ」
ミアが肩を落としてショボンとなると、直後にブラキがポロポロと涙を流し始めた。それは止まる事を知らぬように滂沱し、ミアとジャスミンが慌てる。
「わわわ。ラキちゃん。泣かないで」
「がっかりさせてしもうたのう。力になれんですまぬのじゃ」
「違うんです。私と……私と同じ境遇の人がいたって思ったら……ごめんなさい。失礼だと分かってるけど、仲間がいたんだって思うと、凄く嬉しくて……」
よほど思い詰めていたようで、ブラキは仲間がいた事が嬉しくて泣いてしまったようだ。そんなブラキの頭をジャスミンが撫でて、ミアも一緒にブラキの背中をさすってあげる。少し時間が経つと漸く涙が止まり、ブラキはゆっくりと自分の事を話し始めて、ミアとジャスミンは静かに聞いた。




