新生活
「ここが王都なのじゃなあ! でっかいのう!」
故郷のダンデ村から旅立ってから早十日。ミアは王都へと到着した。王都は外から見ると綺麗な円形の形をしていて、真ん中に進むにつれて山のように登っていき、中心に国王たちが暮らす王城がある。そして、流石は春の国チェラズスフロウレスと言うだけあり、そこ等中が綺麗な花で溢れかえっていて、まるでお花畑の中に都があるような場所だった。
さて、それはそうと本来であれば最低でも半月はかかる道のりだが、王族御用達の馬車と言うだけあって随分と早く目的の城に到着した。ここまでの道中は色々とあったが、パンツ盗難事件を除けば、これと言って大きな問題は起きなかった。しかし、ミアにとっての大きな問題はこれからだ。今までの平民の暮らしから王族に合わせた貴族の暮らしになるのだから、その大変さは半端なものではないのだから。だけど、当人のミアは呑気なものだった。
「でっかいのじゃ」
王都の道を馬車で二三時間ほど走り抜けて城に到着すると、ミアはそう言って城を見上げた。
王族たちが暮らす城は確かに大きく、ミアは前世で孫と一緒に見た夢の国の城を思い出す。城は西洋の城を思い出させる見た目をしていて、城を護る塀も高かった。ただ、気になったのは城や塀や庭園に咲く花々だ。城のいたる所に綺麗な花が咲き飾られていて、それは塀も一緒だった。庭園には満開の花が咲き誇り、まるでお花畑に来ているような気持ちになる。そして、庭木が全て春の国チェラズスフロウレスの国花である花“桜”の木で、アートのように綺麗に手入れされている。ここは、まさにこの国に相応しいと言える国の中心だった。
「お帰りなさいませ」
馬車を降りると、国王とランタナの侍従たちが出迎える。その中にはミアが助けたネモフィラの侍従もいて、皆がミアに興味津々だった。と言っても、これは聖女に対しての興味ではない。聖女である事は隠しているので、王族と内密な事情で暮らす事になった公爵の爵位を持つ娘と言う、謎の多い少女ミアに興味を抱いているのだ。とは言え、流石はプロ。興味はあっても顔色一つ変えず、ミアの荷物を受け取って王族と同じように接していた。
「ミアの部屋は出来ているか?」
「はい。既に準備は整っております」
「では先に案内しろ。その後は前もって知らせていた通りにな」
「承知致しました」
国王が侍従に命じると、命じられた侍従と他に二人で合わせて計三人の侍従たちが、ミアを今日から暮らす部屋へと案内する。ミアは案内をされながら侍従たちから色々と話をされたけど、初めて来た城に色々目移りをしていたせいで、全部と言っていい程に話の内容が右から左へと流れていった。
「ここが今日からミア様のお部屋でございます」
「うっひゃあ。広いのじゃあ」
ミアはある程度部屋の中を見回すと、今度は侍従たちに視線を向けた。
二人は荷物の整理やら色々と動き回っていて、一人は扉の前をジッと動かずに立っている。身につけている服は三人ともメイド服で、とくに変わった所は無い。だけど、扉の前の侍従だけは他の二人と少し違った。違うと言っても、それは服装の話では無く、本人についている耳や尻尾である。ジッとしている侍従は、頭には垂れた犬耳があり、お尻にはフサフサの犬尻尾があったのだ。
ミアはモフモフしたくなる衝動を抑え乍ら、三人に話しかける事にした。
「荷物を任せてしまってすまぬのう。ありがとうなのじゃ」
「これが私共の仕事ですので当然です。ミアお嬢様」
「み、ミアお嬢様……じゃと?」
突然のお嬢様呼びにミアが驚くと、侍従が三人ともが頭にクエスチョンマークを浮かばせた。それを見て、ミアは自分の立場を再度理解して、ため息を堪えて話題を変える。
「なんでも無いのじゃ。それより自己紹介をせぬか? 皆の名前を聞いておらんしのう。ワシはミア=スカーレット=シダレなのじゃ。これからよろしくなのじゃ」
「はい。よろしくお願い致します、ミア様。ですが、先程お話したと思ったのですけど……」
「むむ。それは失礼したのじゃ。聞いておらんかった。もう一度してもらっても構わぬか?」
「ええ。もちろんです。では、早速私から」
そう言って前に出たのはお嬢様発言の侍従で、一度礼をしてから名乗り始める。
「私はルニィと申します。ミアお嬢様の侍女長を務めます。よろしくお願い致します」
「ルニィさんじゃな。よろしくなのじゃ」
「次は私が」
「うむ。お願いなのじゃ」
「私は侍従のクリマーテと申します。ミアお嬢様の侍女を務めます。私の仕事は荷物持ちとお茶の準備や、諸々の雑事になります。好みの茶葉や菓子がありましたらお教え下さい。今日からよろしくお願い致します」
「茶葉はよく分からんが、好きなお菓子なら後で教えるのじゃ。クリマさんもよろしくなのじゃ」
ミアがクリマーテをクリマさんと早速愛称で呼ぶと、クリマーテが目を瞬かせてクスクスと笑った。
クリマーテの自己紹介が終わると、最後に犬耳と尻尾の侍従が前に出て、騎士特有の礼をする。
「私はヒルグラッセです。見ての通り獣族で、犬の獣人です。先の二人と同じように、私もミアお嬢様の侍従としてこの様な身なりをしていますが、私の仕事は主に護衛です。その為、失礼かとは存じますが、いざと言う時の為に身辺のお世話は基本出来ません。ご了承お願いします」
「そうじゃったのか。どうりでお主だけさっきから扉の前を動かんと思ったのじゃ。グラッセさんもよろしくなのじゃ」
ヒルグラッセをグラッセさんとミアが呼ぶと、クリマーテが再びクスクスと笑う。しかし、その目はバカにしているようなものでは無く、ミアの事を可愛いと言いたげな目だった。本来であれば失礼になるだろうけど、ミアとしては印象が悪いわけでも無く寧ろ好印象で、他の二人も特に何も言わないのでお咎めは無し。それどころかここに集まったミアを含めた四人には丁度良いのか、雰囲気は上々だった。それだけで、ミアは新しい生活が意外と良くなりそうだと安心する。だけど、やはりミアはアホである。
のんびり引きこもりスローライフ計画を立てるのをすっかりと忘れているのだから。




