騎士団と元革命軍の温度差
ブレゴンラスドの大空を舞う龍神と恐れられるドラゴン。そのドラゴンの背には、ルニィとヒルグラッセとメイクーとルーサの姿と、ジャスミンと風の精霊トンペットと土の精霊ラテール。更には、ブレゴンラスドの見習い騎士の少年が一人。そして、ドラゴンの隣でミアが飛んでいた。
ミアは背中から白金の翼を生やしていて、腕には大事なお友達のネモフィラ。ネモフィラをお姫さま抱っこして、大空を羽ばたいていた。
「のう? フィーラ。そろそろワシ等も龍神の背に乗らぬか?」
「そ、そうですね。名残惜しいですけど、そろそろ……あ。まだ駄目みたいです」
「ぬう。仕方が無いのう」
何故二人だけ龍神の背に乗っていないのか? それにはちゃんとした理由があった。そしてその理由は、ブレゴンラスドの見習い騎士の少年にある。
さて、この少年。どう言った人物かと言うと、実はルーサの従弟にして、王族の血が流れる公爵子息である。名はブラキ=O=ジュラ。公爵家に嫁いだ元第二王女の息子。年はランタナと同じ世代の八歳で、今はミアの三つ上だが正確には誕生日の都合上なので二つ上。
彼は処刑場でミアがブレゴンラスドの王レックスの足を持って飛び回っているのを見ていた一人で、だからミアが聖魔法を使えると知っている。だからと言うのもあり、ブラキはブレゴンラスドの代表として選ばれた。いや。正確には敗北して一緒に行く事になってしまったと言うべきか?
ブレゴンラスドは知っての通り、強い者が全ての国。レックスは騎士の誰か、それもミアが聖女と知る者を同行させるとし、騎士たちに代表を決めろと命令した。その結果、騎士たちは勝負し、見習い騎士のブラキが敗北したのだ。おかげでブラキは嫌々死ぬかもしれない疫病が蔓延している村に行く事になり、とても落ち込んでいる。
そんなブラキだが、聖女であるミアが飛ぶ姿を見た時は、とても感動していたらしい。それを知ったネモフィラが「ミアが飛んでいる姿を見せてあげてはいかがでしょう?」と提案し、どうせなら一緒にと誘った所、自分はいいから誰かと一緒に飛ぶ姿を見せてほしいと頼まれた。そうしてミアがネモフィラをお姫さま抱っこして飛ぶ事になったわけだ。
ネモフィラが言った“まだ駄目みたい”と言うのは、ブラキの満足度の問題である。ブラキはミアとネモフィラを見つめているわけだが、嬉しそうではあるけど、まだ陰りが見える。なんなら今にも涙を流しそうなくらいに目が潤んでいた。
「ぬう。やはりブラキを直接抱えて飛んだ方が良いのではないか? ずっとあのままどころか、どんどん悪化している気がするのじゃ」
「ごめんなさい。わたくしが変な提案をしたばっかりに……」
「フィーラは悪くないのじゃ。そもそも見習いを死地に送りだすブレゴンラスドがどうかしておるのじゃ」
「はい。わたくしにはこの国の基準が未だに理解出来ません。ルーサ様は勝負で同行を勝ち取ったと聞きましたし……」
「そう言えば言っておったのう。革命軍は騎士団と違って、一緒に行きたいと言う者が多かったそうじゃな。聖女の代弁者のアネモネさんに良い所を見せるチャンスとか言っておったそうじゃが……」
「アネモネお姉様は革命軍の方達から人気みたいです。何かあったのでしょうか?」
「分からんのじゃ」
原因はミアにあるけど、二人がそれを知らなくても当然。革命軍たちは聖女の癒しの光を受けて傷を治し、それを聖女の代弁者であるアネモネが頼んでくれたと思い込んでいるのだから。
「どちらにしても、集まったのがワシが聖魔法を使える者たちだけで正直助かったのじゃ」
「うふふ。そうですね」
「あ。国境が見えてきたのじゃ。思ったより早かったのう」
「本当ですね。あそこから先が妖園霊国モノーケランドなのですね……」
龍神国ブレゴンラスドと妖園霊国モノーケランドの国境。ここまで来ればマイコメール村まで後少しだ。
「いよいよなのじゃ」
「はい。少しでも多くの人を助けましょう。ミア」
「うむ」




