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花嫁を祝福しよう

 王都の中でも一番景色のいい展望台のある教会で、綺麗なウェディングドレスに身を包んだ花嫁がバージンロードをゆっくりと歩く。隣には父親が緊張した面持ちで共に歩き、その背後には花嫁の妹がウェディングベールを引きずらないようにと持って笑顔で歩く。左右の親族や関係者に見守られながら、花嫁は穏やかな顔をして、真っ直ぐとその先の聖壇せいだんの前で待つ花婿を見つめていた。

 花婿は微笑みを絶やさず花嫁を待ち、そして、義父から花嫁を託された。

 誰もが静聴せいちょうして見守る中、神父の言葉に耳を傾け、二人は愛を誓い合う。緊張と期待に満ちた空気が流れ、花婿が花嫁の顔の前におろしているベールをゆっくりと持ち上げる。二人はほんの少し照れくさそうに笑い合うと、誓いのキスをした。そして、指輪の交換をする時、奇跡が起きた。

 奇跡。それは、聖女の祝福。聖女が二人の幸せを願い、花婿が花嫁に指輪をはめると同時に、淡く輝く白金はくきんの光の雨を降らせたのだ。

 花嫁は感動のあまりに涙を流し、花婿が涙を優しく拭う。指輪の交換は感動と幸福に包まれ、誰の記憶にも残る神秘的なものとなった。







「指輪の交換を初めて見ましたけど、とても感動しました」

「キスの後に見たから尚更なのじゃろう。気持ちが高揚こうようしておるからのう」


 いや。お前が白金の……と、それは一先ず置いておこう。結婚式が終わって披露宴ひろうえん。ミアは特別扱いを受け、親族の席でネモフィラたちと一緒に食事中。既にお披露目も終わっていて、ゆっくりと穏やかな時間が流れていた。


「わたくしもいつかアネモネお姉様のように、素敵な結婚式を挙げたいです」

「フィーラならきっと立派で素敵なものになるのじゃ」

「本当ですか? ミア、素敵な結婚式にしましょうね」

「うむ……うむ?」

(するのはフィーラとその旦那さんだと思うのじゃ)

「結婚式ねえ。私は当分しなくていいわ。貰い手もいないだろうし」


 サンビタリアがパンを千切りながら話して咀嚼そしゃくする。結婚には興味ありません。みたいな顔である。それを見てウルイがため息を吐き出し、サンビタリアがウルイを睨む。


「お父様。何か言いたい事でも?」

「それがアネモネからブーケを受け取った者の言う言葉か。と思っただけだ」

「仕方が無いじゃない。私がいる所に飛んで来たのだもの。流石に避けるわけにはいかないでしょう? 私がいる所に投げたアネモネが悪いのよ」

「はあ。嘆かわしい。だいたいお前にもトパーズ王子と言う立派な婚約者がいるだろう。あの事件の後でも、お前との婚約を破棄しないでいてくれる素晴らしい青年ではないか」

「立派で素晴らしい……ねえ」


 意味あり気にサンビタリアは呟き、ウルイは何が不満なのだとなげく。が、ミアとネモフィラは知っている。婚約破棄をしたくないのが、トパーズの方であると。なんならトパーズは別の女性に惚れていて、サンビタリアには感謝していても結婚する気がないのだと。そして、二人は知った。ウルイとアグレッティがそれを知らない事に。ウルイの隣ではアグレッティまでもがため息を吐き出しているのだから。


「私の事なんていいのよ。それより、ランタナの無事が分かったのでしょう?」

「あ、ああ。そうだな。今は妖園霊国にいるようだ。天翼会の方と一緒のようで、王宮に連絡があった」

「あの子も運が良いわよね。天翼会の先生に助けられるなんて。でも、隣国とは言え、なんでそんな所にいるのかしら?」

「分からん。しかし、無事であるならそれでいい」

「はい。私も安心しました。そうでなければ、アネモネを心から祝福は出来なかったでしょう」

「うふふ。お母様はずっとお兄様の事を心配していましたからね」

「問題はアンスリウムよ。帰ったらどうしてくれようかしら?」


 サンビタリアが眉尻を上げて話すと、場の空気が重くなる。祝いの席だから皆が考えないようにしていた事だ。正直、チェラズスフロウレスにとっての一番の問題である。


「帰ったら真偽を確かめよう。それが分かるまでは、私はアンスリウムを信じたい」

「そうですね。私もアンスリウムを信じます。しかし、話がもし本当であるなら、覚悟を決めねばなりません」

「まあ、なんじゃ。今はアネモネ殿下を祝して楽しむのじゃ」

「うふふ。そうですね。いっぱいお祝いします」


 ミアの言葉で元気を取り戻し、王族たちはアネモネの結婚を盛大に祝った。アネモネは終始綺麗で穏やかな笑顔を見せ、とても幸せな時間を過ごす。懸念けねんしていたブレゴンラスドとの関係も良好で、誰もがアネモネとゴーラをしゅくして二人の幸せを願った。

 ブレゴンラスドは力が全ての実力主義な国。強い者が上に立ち、弱い者は強い者に従う。そんな国だからこそ、力で国の体制を変えようとする革命軍が生まれた。そこには恨みなどの感情もあったけど、この国だからこそ起きた革命だった。ブレゴンラスドの国王レックスも、革命を起こした娘ラティノを認め、国を変えたければ力でねじ伏せてみろと迎え撃った。

 力こそ全てなこの国で聖女の代弁者として民の前に立ったアネモネは、ブレゴンラスドの上に立つ者として十分な力を持つと言える。だけど、そんなものは関係無い。アネモネが皆からの祝福を受けるのは、彼女が今までしてきたおこないの成せるもの。プラーテを助ける為に溶岩に飛びこんだその姿を見て、人の心を突き動かした。アネモネは心から国に受け入れられたのだ。


「アネモネ殿下。結婚おめでとうなのじゃ」

「ありがとう。ミア。あ、そうだわ。たまには遊びに来てね? 温泉を用意して待っているわ」

「おおお! それは嬉しいのじゃあ! 絶対に遊びに行くのじゃ!」

「ふふ。ミアが喜んでくれて私も嬉しいわ」


 ミアとアネモネは微笑み合い、隣に座るゴーラも二人の楽しそうな笑顔を見て微笑んだ。


(ワシの計画は順調に進んでおるのう。いざと言う時はアネモネ殿下の所でも温泉に入れるのじゃ)


 いざと言う時ってなんだよ? って感じのミア。外出して温泉に入りに行くのに引きこもりとは? と、引きこもりの概念がいねんがわけわかんない事になっている。とは言え、ミアはアホなので何の疑問も思わない。やはりこのアホ……じゃなくて聖女の【引きこもり計画】は、まだまだ先が長そうだ。



第三章 終了




次回から幕間が四話ほど入って、第四章に入ります。

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