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背負いたくない者と背負う者

 龍神国ブレゴンラスドの王には何人もの妻がいる。元々、王妃スピノは側室で、つい最近正室になった。それ故に王子や王女も母方の血の繋がりが殆ど無く、スピノが産んだ娘はプラーテとラティノだけ。

 そう。ブレゴンラスドの元第三王女ラティノ=B=ティガイドンとプラーテは、唯一母方で血の繋がりがある姉妹なのだ。彼女が革命軍でありながらプラーテには危害を与えたくなかったのは、実はそんな繋がりによる所が大きかった。腐った法律を誰よりも重んじるスピノの弱点がプラーテだったとしても。

 ラティノはプラーテと違い、スピノに厳しく育てられていた。理由は、野心の強いスピノが側室から正室になる為に、我が子を王太子にする為。王太子の母ともなれば、正室として成り上がって輝けるから。少なくともブレゴンラスドと言う国はそう言う国だった。そして、厳しくすればするほどに、当時まだ幼かったラティノの心は離れていった。

 そんな生活の中で当時正室だった王妃がやまいに倒れ、帰らぬ人となった。それは誰かの陰謀が与えたものではなく、自然によるもの。そんな中で身ごもったのがプラーテだった。その頃には既に王太子は決まっていたが、プラーテをお腹に授かった時に、王がスピノを正室に迎え入れたいと告白した。正室の王妃が倒れて一番辛かった時期に、支えてくれたからと。

 スピノはプラーテを神が与えて下さった自分の天使だと喜んだ。しかし、ラティノへの態度は変わらず、王太子の座を奪うくらいの器量を見せろと厳しかった。

 ラティノにとって“ふんどし”はついでだった。この法律によって悲惨な目に合い、辛い現状をなげく者たちがいる。他人から見れば実にくだらない事だけど、本人たちは至極真面目。ラティノはそれを利用し、同志を集めた。それが、国家にあだなす革命軍が生まれた真相。

 今までの恨みを晴らすべく母を打ち砕く為、そして、自分を慕い集まってくれた者たちの為にも勝利を掴む。例え人々が恐れおののく龍神が相手であっても、伝説の“聖女”の代弁者を敵に回したとしても、絶対に負けられないのだ。


「改めて、久しぶりだね。ミア。社交界以来だ。あんたとは一度やり合ってみたかったし、良い機会が出来て嬉しいよ」

「う、うむ。ワシは嬉しくないのじゃ」


 ミアの答えにラティノが目を丸くして、数秒後に笑う。と言うわけで、ルーサのせいでミアとラティノの一騎打ちとなり、騎士専用の決闘場で向かい合っている。

 決闘場は天井の無いスタジアムのような造りをしていて、観客たちがひしめき合い、決闘が完全に見世物な状況になっていた。チェラズスフロウレスの王族やブレゴンラスドの王族は専用の席で二人を見守っていて、革命軍の隊員達もこの勝負の行く末を見守る為に集まっている。龍神やドラゴンたちも見物に来ていて、決闘場の外から中の様子を眺めている。

 ミアは見習い騎士の訓練用の服を着て、絶対に聖魔法とミミミを使わないと心に誓っている。なんなら今直ぐにでもお家に帰りたい気分である。

 対するラティノは完全なる戦闘スタイル。所謂いわゆるビキニアーマーを身につけ、脚にはごっついグリーブ。イヤリングやネックレス、腕や腰やらにも散りばめられた魔石の付いた装飾の数々。それ等は洒落しゃれていて、しかし、その全てが戦闘において意味のある魔力増幅用の装備品。そしてその手には身長よりもデカい大剣を持っていて、それこそがラティノの魔装ウェポンである。

 この二人は、お互いブレゴンラスドの未来を背負っている者同士と言える。が、意気込みが全く違う。ミアが“身バレ怖さに戦いたくない”という思いに対して、ラティノは“部下達の為にも絶対に勝利を手にする”と言う覚悟を持っている。そんな二人の中心に、チェラズスフロウレスの代表(けん)聖女の代弁者アネモネとブレゴンラスド代表のゴーラ、そして革命軍からはルーサが代表して立っていた。


「両者、準備は出来たみてえだな。勝負の前に確認だ。まずは聖女様の代弁者様からだ」

「はい。……ミアが勝てば、革命軍を解隊し、罪を償うと誓って下さい」

「ああ。約束するよ。その代わり、あたいが勝ったら独裁者スピノを罰し、この国の秩序をあたい等が作り変える」

「……いいだろう。国王不在の今、本来では受け入れられない事だが、私が責任を持つ」

(いや。勝手に決めたら駄目じゃろ)


 心の中でしかツッコミが出来ないチキンハートなミアは置いておいて、ゴーラが答えるとラティノが「頼んだぜ。お兄ちゃん」と告げてニヤリと笑みを浮かべた。とは言え、ミアの言う通り本来であれば国王の意見を聞き入れるのが普通であり常識だろう。こんな重大な事を国王不在の時にするものではない。しかし、それがまかり通るのは、ミア……“聖女”がこの場にいるからだ。

 聖女の存在はそれ程に大きく、例えブレゴンラスドと言えどそれは同じ。聖女の前では国王も小さき存在で、それがこの世界の常識なのだ。と言っても、この場にいる殆どの者がミアが聖女だと知らない。それでも納得させられるのは、“聖女の代弁者”であるアネモネと、龍神がいるからだ。


「勝っても負けても死んでも恨みっこなし。どちらかが死ぬか戦えねえ状況になるまで終わらねえ! これは戦争だ! ルールなんてありゃしねえ! てめえ等、存分に戦いな!」


 ドーンと太鼓を叩く音が何処からともなく鳴り響き、ブレゴンラスドの命運を賭けた決闘が今、始まった。

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