タンポポ庭園の事件簿(6)
パンツ盗難事件の犯人は、黄色い髪に可愛らしくも平凡な顔の少女だった。伯爵令嬢だけあって身につけている服は高価なものだが、それと手に持つパンツが相まって妙な感じに目に映る。少女は村長の娘セルナーデ=グラベマルク八歳。そう。八歳と言うまだ幼い少女であるのに、とんでもない変態だったのだ。
ミアにパンツのにおいを嗅いでいる変態現場を見られたセルナーデは悲鳴をあげると、意を決したような表情でミアと向かい合った。
「み、見られたからには仕方が無い! こうなったらあなたを監禁するわ!」
「か、監禁じゃと!? 何故そうなるのじゃ!? 冷静にな――」
「問答無用! お願い! 私の貪欲な右手!」
セルナーデがミアに向かって手をかざし、次の瞬間に何も無い空間から緑色の手袋が出現して、それがミアに向かって飛翔した。
「――っのじゃあ!? ミミミ!」
突然の事で驚いて、ミアは思わずミミミをこの場に出してしまう。ミミミはミアが隠している魔装と言う特殊なものだから、本当は人前で出すわけにはいかないもの。だけど、今はそんな事を言っている場合では無かったのだ。
ミミミは現れると直ぐに向かって来る手袋に体当たりして、その勢いを止めた。そしてそれを見て、セルナーデが「うそ!?」と驚いて目を見開く。
「ああああ、ああ、あなたも魔装を使えるの? じゃあ、私と同じで商人から、かかか、買ったのね」
「商人から買ったじゃと? どう言う事なのじゃ? これは天翼会が管理しておるから、商人が売買出来るものではないのじゃ」
「え……? 商人から買ったわけじゃない? って、そそそ、そんな事はどうでもいい、わ! 抵抗しないで大人しく捕まってよ!」
セルナーデが再び手袋を出現させて飛ばし、ミアはそれをミミミの体当たりで止めようとした。だけど、今回は上手くいかなかった。何故ならば、手袋がミミミをガシッと捕まえたからだ。
「なんじゃと!?」
「うふふふふ。やった! 私の魔装【貪欲な右手】は獲物を捕まえるのに適しているのよ!」
「ぬぬう。やはり魔装を盗みに使っておったのじゃな」
「わ、わわ、私の貪欲な右手は遠距離型。狙った獲物を逃がさないだけでなく、周囲の景色を私の脳に直接映し出せるの。し、しかも魔力の残留を使ったその場にしか残さないから、遠く離れた場所で使えば使う程に証拠を残さないし、私が現場を見る事が出来るから追手を撒く事も出来るわ! だから簡単に逃げきれるの。こここ、こんな風に!」
セルナーデは窓に向かって駆けだして、魔装を残したまま外へと逃げて行く。ミアには監禁すると言ったけど、言葉使いに出ていて分かりやすいくらいには実際はめちゃんこ焦っていた。そうでなければ自分の使う魔装の効果を詳しく説明なんてしない。なんなら焦りすぎて、窓から外に出る時に下の窓枠につま先をぶつけて「ふぎゃ」と声を漏らしてこけている。しかし、そんな滅茶苦茶に焦っているセルナーデに、ミアが本気を出してしまう。
「先程トイレを覗いておったのもあ奴の仕業じゃったか。まあそれはよい。ワシから逃げられると思うでないのじゃ。ミミミ、戦闘モードに移行じゃ」
ミアの合図で捕まっていたミミミが光になって抜け出して、ミアの元に来て姿をピストルに変える。そして、ミアは直ぐにミミミを手に取って構えて、外に逃げ出したセルナーデに照準を合わせて発砲。
発砲されたのは光の弾丸。光の弾丸は光速で飛翔して、一瞬にしてセルナーデの後頭部に直撃した。
「うぎゃあああああああああ!」
セルナーデは豪快に前のめりに転倒して、そのままクルクルと転がり最後には木にぶつかって轟沈。ピクリとも動かなくなり完全に気を失ってしまった。一応死んではいないのでセーフである。が、ミアは冷や汗を流して「やり過ぎたのじゃ」と反省して近づこうとした。するとその時、背後から「セルナーデ!」と聞こえて急いでミミミを体内に戻し、丁度そのタイミングで村長が駆けつけた。
「み、ミアさ――っこ、これはいったい。何故セルナーデの部屋にこんなにも下着が……? セルナーデは? セルナーデは何処に!?」
「あ、ああ……ええと……お主の娘ならそこにいるのじゃ」
ミアは少し気まずそうに絶賛気絶中のセルナーデに指をさす。村長はそれを見て、顔を真っ青にして駆け出した。
(よくも娘を! なんて展開になったらどうしようなのじゃ)
セルナーデに駆け寄って抱き起こす村長を見ながら、ミアはそんな心配をしていたがもちろんこの後そんな展開は無く、寧ろセルナーデが滅茶苦茶怒られた。
(後でセルナーデには、ワシも魔装が使えると言う事を黙っておくように伝えておくのじゃ)
ミアはそんな事を考え乍ら、怒られているセルナーデを見つめたのだった。




