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聖女の代弁者

 火山の噴火が治まり溶岩や火山灰が王都から消えると、アネモネの提案で龍神に聖女の代弁をしてもらう事になった。が、騒ぎが起きない筈も無い。人々が龍神の存在に気がつくと、逃げる者と逃げる事を忘れて立ち尽くす者、様々な者が現れ龍神を見上げる。革命軍や騎士の姿も見え始めたが、彼等も争う事を忘れて龍神を見上げた。野生のドラゴンたちも姿を現して龍神に注目する。それは、何千何万もの長い間生きているドラゴンたちが、龍神を知っているからに他ならない。龍族であるドラゴンたちにとって、強者は絶対的な存在。自分より強いと認めた者には従う。それが彼等なのだ。だからこそ、龍神が現れれば黙って言葉を待ち、それに従う。そうしてドラゴンや人々が龍神を見上げていく中で、龍神の上では誰にも見られないようにとミアたちは注意していた。

 ここで気がつかれてしまえば、更なる騒ぎになる事は間違いないのだから。何故なら、龍神に乗っていると言う状況だけでも驚かれるのに、ここにいるのがチェラズスフロウレスとブレゴンラスドの王族と革命軍の副隊長だから。あまりにもごちゃごちゃしていて、何も知らない者からしたら何が起きているのだと混乱してしまってもおかしくはない。だから、ミアたちはしっかりと身を隠している。

 もちろん身を隠しながらも、しっかりと話し合いは進んでいる。アネモネが龍神と話し合い、頃合いを見てミアが白金の光を一瞬だけ放った。その光の出所はもちろんミアなわけだが、地上からはミアが見えていないので龍神が輝いているようにも見えなくない。

 人々は龍神に恐れて息を呑み込み、震えた。


「我はいにしえより復活せし龍神なり。聖女の代弁者の声をなんじ等に届ける為にせ参じた」


 人々が驚き「聖女様の代弁者?」と声を上げる。恐怖よりも興味や興奮に感情を支配され、誰もが期待に胸をふくらませた。しかし、ここで問題が起きていた。

 ここで代弁者として語るのは龍神だ。だけど、龍神の言い方だと、別の誰かがいるようにも捉えられる。実際にそう捉えた者も少なくは無く、きょろきょろとその存在を確かめるべく周囲を見回す者が現れた。そして、やはりそのつもりだったらしい。龍神は己の背に乗るミアたちを見てニヤリと笑み、ミアを……ではなく、アネモネを宙に浮かせた。


「え? え? 龍神様?」

「アネモネ!」

「こ、これはどう言う事ですか?」

「ふん。我では恐怖でしか言葉を伝えられぬ。ならば、聖女本人が嫌がる以上、代弁者は貴殿しかおるまい?」

「わ、私が……?」

「そのドレスはサービスで元通りにしてやろう。存分にその権威を見せてみよ。チェラズスフロウレスの花嫁……いや。代弁者よ」


 アネモネの血まみれでボロボロだったドレスが元に戻り、それは綺麗で美しいものへと姿を変えた。本来の姿を取り戻したウェディングドレスを身にまとうアネモネの姿に、焦ったゴーラが見惚れて動きを止める。そして、アネモネは龍神の目の前まで移動させられ、人々がアネモネに注目した。それを見て、ミアが「そうじゃ」と呟いて手を叩く。


「この者こそが聖女から祝福を受けた“聖女の代弁者”。チェラズスフロウレスから来た花嫁アネモネである」


 龍神がそう言った次の瞬間、アネモネのウェディングドレスが白金の光を放ち、人々から驚きの声が上がる。白金の光の効果は絶大で、まさに今祝福を受けているのだと誰もがアネモネに注目し、“聖女の代弁者”という言葉を疑う者は一人もいなかった。

 アネモネは心の中で「ミア様! やりすぎです!」と訴えたが、心の声が届くはずもなく、ミアはしてやったりなドヤ顔である。


「さあ。ブレゴンラスドの民よ。聖女の代弁者たる花嫁の言葉を聞くがいい」


 アネモネは緊張し、唾を飲み込む。だけど、それで話せなくなるなんて事は無い。何故なら、彼女はチェラズスフロウレスの王女アネモネだからだ。王族たる者が、大勢の前だからと言って喋れないなんて恥でしかない。アネモネは毅然きぜんとした態度を見せ、しっかりと自分を見上げる民たちを見た。


「皆様お初にお目にかかります。私は“聖女様の代弁者”。チェラズスフロウレス第二王女アネモネ=テール=キャロットです」


 りんとして透き通った声。アネモネの声は王都に響き渡り、誰もがその声を聞こうと静まった。期待に満ちた目を一斉に浴びたアネモネは、一度目を閉じ、大きく息を吐きだして目を開ける。そして、人々に向けて、柔らかな微笑みを見せた。

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