タンポポ庭園の事件簿(5)
「グラベマルク伯爵と同じで犯人らしき人物はいないか」
「兄弟と親。それに親戚と友人関係に従者……か。グラベマルク伯爵。貴方の娘のセルナーデがいないようだけど、彼女は?」
「申し訳ございません。セルナーデは用事があって来られないと。しかし、娘は八歳の女の子です。流石に盗みをはたらくような事はしないと思い、無理に連れて来る事は無いと――」
「これは王命だ。それに逆らうのか?」
「も、申し訳ございません! 今直ぐに連れて参ります!」
「国王陛下の仰る通り……と言いたい所だけど、別に連れてくる必要は無いんじゃないかな? 八歳の女の子が同性の下着なんて盗まないでしょう」
「……それもそうだな」
ランタナの言葉に国王が頷き納得すると、村長はホッとため息を吐き出した。
秘湯を知る人物が集められてから既に一時間が経つ。しかし、未だに犯人は見つからないし、ミアはノーパンのままで侍従たちがソワソワしている。メイクーは血の出し過ぎで調子が悪く、今は安静にして休んでいた。そしてそんな中、ミアは少しモジモジしていた。
(ぬぬう。おしっこに行きたくなってきたのじゃ)
ミアは今、非常にトイレに行きたかった。
「ミア様、どうなさいました?」
ミアがモジモジしていると、国王と話しを終えた村長が話しかけてきたので、ミアは少しだけ気まずそうに答える。
「おしっこがしたいのじゃ」
「でしたら、この近くに私の家があるのでご案内しましょう。ついでに先程助けて頂いたお礼に、下着も用意しますよ」
「おお。助かるのじゃ。でも悪いから下着はいらぬのじゃ」
「さ、左様でございますか」
悪いからの一言で断るミアに、侍従たちが頭を抱える。そんな侍従たちの心境を知らずに、ミアはトイレを借りれる事に安心した呑気な顔で村長について行く。そうして辿り着いた村長の家は秘湯の近くにあり、それから妙な気配がした。
「ここから真っ直ぐ廊下を歩いて行って、突き当たりを右に曲がれば直ぐにお手洗いになります」
「うむ。おじゃましますなのじゃ」
「ごゆっくり。……あ。そうだ。せっかく来て頂いたのでお茶をお出しします。後で客間までお越し下さい」
「おお。遠慮なく頂くのじゃ。ありがとうなのじゃ」
お礼を言って、ミアは早速トイレを借りて用を足す。そして、妙な気配について考えた。
(なんじゃろうなあ? 魔装が使用された後の魔力の残留のようなものを感じたのじゃが。村長や集められた者たちは一人も持っておらぬようだし、まさか、この事件の犯人じゃろうか? 村長には娘もおるようだし、狙われている可能性が高いかもしれないのじゃ)
ミアが感じた妙な気配。それは、魔装と呼ばれる特殊な力を行使した時に残る魔力の残留。ミアは魔装であるミミミを使用できるので、それが分かったのだ。
(しかし、妙じゃのう。もし犯人が魔装を使えるとして、何故残留魔力を秘湯の更衣室で感じなかったのじゃ? ワシのこの考えは間違ってお――む?)
「誰かに見られておるのじゃ?」
ミアは視線を感じて、周囲をキョロキョロ見回した。だけど、ここは広くはない普通のトイレ。壁と扉。それから背後の少し上の方に小さな窓があるだけである。その窓もトイレの中を覗けるものではなく、覗こうとしても見えるのはトイレの天井だろう。
「気のせいかのう? それにしても、やはりパンツが無いとスースーして敵わんのう。冷えてトイレが近くなってしまうのじゃ。やっぱり村長にパンツを貰おうかのう」
考え事をしている間にとっくにおしっこを済ませたので、ミアはそんな事を呟きながらトイレを出る。
「さて、これからどうするかじゃなあ。魔装の残留魔力にさっきの視線。もしかしたら犯人が近くに潜んでおるやもしれぬ。お茶を貰いがてら村長にそれとなく言ってみるとす……のじゃあ。そう言えば、客間に来いとは聞いておったが、場所を聞いておらんぞ?」
冷や汗を流し、ミアはキョロキョロと周囲を見回す。しかし、流石にそんな事で客間の場所が分かる筈もなく、ミアは一先ず一部屋一部屋ノックして確認する事にした。ただ、村長の家は広くないわけでは無い。村長は貴族の伯爵であり、家も豪邸で広いのだ。しかも今は国王の招集のせいで、ここで働く者が一人もいない状況。いるのは娘と客間で待つ村長のみで、場所を聞こうにも人気は全く無い。ミアはしぶしぶ部屋探しを開始した。だけど、そんな時だった。
「きゃああああ!」
突然聞こえた悲鳴。まさかパンツ盗難事件の犯人が直接子供を、村長の娘を襲いだしたのかと、ミアは驚いて悲鳴の聞こえた方へと駆け出す。そして、「だめえええええええ!」と再び聞こえた悲鳴で部屋を見つけ、ミアは勢いよく扉を開けて中に入った。
「観念す……るのじゃあ?」
「ハフンハフン。きゃああああああ! スーハースーハー。もうだめたまんない! なにこの子のおパンツ! サイコー!」
「……おーい。何をやっとるんじゃあ? お主」
ミアは思わず冷や汗を流して、悲鳴の主をジト目で見る。と言うか、とんでもない光景に若干引き気味になってしまった。
ミアが見た光景。それは盗まれていたミアのパンツを顔に密着させて、鼻息を荒くし興奮して唐突に叫ぶ怪しげな変態少女の姿。更に部屋の中には女の子のパンツが散乱していて、もの凄く変態な……大変な事になっている。つまり、少女が襲われていたわけではなく、変態な少女が一人で興奮して叫んでいただけ。
少女はミアが声をかけるとピクリと体を震わせて、まるでロボットのようにぎこちない動きでパンツから顔を離し、ミアに顔を向けて目がかち合い真っ青な表情を見せた。
「いやあああああああああああああああああああ!!」
変態少女は顔を真っ青にしたまま、今度は本当に悲鳴を上げた。




